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20.あの日描いた未来
3年後、俺は東京に戻った。
その時は工場の方ではなく、隣の敷地にある支社の
営業に配属された為、和真がリストラされていた
事を知るのは少し後になる。
それを知った時に、全てが過去になったのだと
実感した。
本当に困ったり、辛かったりした時には
きっと和真は俺を頼るだろうと勝手に思っていた。
でも、仕事を辞めるという時にも、俺には
連絡のひとつもなかった。
それが、和真の出した答えだったんだと思った。
車のミラーにつけられていた交通安全のお守りを
その時やっと外した。
1人になると時々思い出す。
薄れる事なく、今でも鮮明に蘇る。
あの甘い匂いも、声も…。
初めて夜を過ごした日に
俺の隣で母親を呼んで泣いてた声だって…。
あの声を聞いてから、胸の奥がザワついて
気づくと和真の姿を目で追うようになった。
東京を離れる事になったあの日
なぜ俺は、朝まで抱き潰して、無理矢理でも
首を縦に振らせて、強引に名古屋へ連れ去ら
なかったのだろうと、後悔する日も何度あった。
でも、こんな俺に付き合わせなくて良かった、とも
同じくらい感じていた。
そして結局俺から和真に連絡することはなかった。
αの小さなプライドもあったのかも…。
まだ成人もしてない子供に本気になるなんて…。
東京に戻ってきてから、もう2年が過ぎる。
俺は相変わらずフラフラと暮らしていた。
今日もこれから、最近できた恋人と待ち合わせだ。
川沿いに咲いた桜が風に吹かれて
雪のように舞っている。
信号待ちの間、俺は運転席から、しばし
その景色に見とれていた。
その時、目の前の横断歩道を小走りで横切る
青年の姿に目が釘付けになった。
ー え、和真!?
クラクションを鳴らして振り向かせようと思って
やめたのは、自分が知っている和真とは
全く別人のように見えたから。
無理もない、もう別れて5年以上?経っている。
痛々しいほど、細かった体の線も、心なしか
しっかりして、頬もふっくらして見えた。
あの、触れる場所を少し間違えれば
粉々になってしまいそうな危うさも消えて
柔らかく、角がとれ、穏やかな空気を
まとっている。
「………か、」
「カズ!」
窓を開けて名前を呼ぼうとした時
後ろから追いかけて来た青年が
一瞬早く和真を呼び止めた。
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