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第1話
平日ど真ん中の夜7時。
街はまだ華やいでいて、サラリーマンやOL、学生が目の前を通り過ぎていく。
スマホの画面に視線を落として、なるべく目立たないように気持ちも体も小さくしている、つもり。それでもチラチラと視線を感じるのは気のせいではないだろう。目立たないようにしてもどうしても目立ってしまう容姿は昔から嫌いだった。
今日の待ち合わせ場所はオフィス街も近い駅の改札前で、行き交う人が多すぎる。日中の暑さは和らいで、涼しい風が吹いている。
(早く来ないかな)
左腕に付けている腕時計をちらりと見る。
秒針が確実に時を刻んでいる。
プラスチック製で1万円もしなかったこの時計は、安くてペラペラなものだけれどアナログのカチカチという大きめの音が心地よい。安い割に時計盤が大きく、秒針が見やすいことから結構気に入っているのだ。
「レーオ!おっまたせー」
突然背後から声を掛けられて、飛び跳ねるように振り返った。
「ユウくん」
女の子にモテそうな爽やかイケメンな彼は俺より少し小さめだけど175cmはあるそうで、元強豪高校サッカーチームのキャプテンであり、現在は都内の医大生であり、どこからどう見たって順風満帆な学生生活を送っているであろう人物なのにも関わらず俺の大事な常連のお客様である。
「ごめん、待った?」
「待ったよ」
正直に口にすると、何故か嬉しそうに笑う。
「じゃあお詫びしなきゃだな!」
さり気なく腕を掴まれる。今日は飲みに行ってからのセックスが彼からのオーダーだ。
こんな風に友人のように振舞っておきながら、彼は俺を金で買っていて、俺は金の為に彼と寝るのだとは誰も思わないだろう。
「今日もレオは目立ちまくってるなあ」
ニヤニヤ笑う彼をまじまじと見た。
「そう?」
「うん、今日もカッコイイ」
伏せ目になったユウくんは、少し寂しそうに見えた。
「ありがとう」
こんな形で出会わなければ、きっと彼とはいい友人になれたかもしれない。もしかすると恋人にだってなり得たかもしれない。
そんなことを思うのは彼に限らず、そして1度や2度ではない。だけどこれが現実でどうやったって俺の住む世界は違うのだと。
この事実は変えることが出来ないのだと。
そう突き付けられる度に、深く呼吸をして自分の心を空っぽにする。
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