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第1話

「じゃあ、大塚課長の同行は高清水くんで。顔も濃いから大丈夫でしょ?」 顔が濃いから、って何? アラビア語とか、ほぼほぼ皆無だよ。 顔が濃いと、そういうのを凌駕して全てオールクリアになるわけ? いやいや、部長………何、言ってんだよ。 濃いといっても、コテコテに濃いわけじゃないだろ?! 色は白い方だし、体もガリガリだし。 まつ毛がバサバサして、眉毛がやや凛々しいからといって〝顔が濃い〟カテゴリーに、僕を分類しないで欲しい!! そう、僕は。 部長基準の〝顔の濃さ〟で、中東にあるシャキームという小さな国に出張を命ぜられた。 このシャキームという国。 絶対王政の統治国家、小さい国ながら石油の産出量は世界一。 未だ開発されていない油田がワンサカあり、さらには天然鉱物の金やダイヤモンドの採掘も盛んで、〝衰退しない国〟として今最も注目を集めているんだ。 さらに付け加えれば、この国は美男美女が多いことでも有名で、近年シャキーム産のモデルや俳優は、多くのランウェイやスクリーンを席巻している。 まるで、この世の〝シャングリラ〟のような国。 その理想郷のような国に、僕は何をしに行くかというと。 医療機器を売りに行く。 小さくて衰退しないこの世の理想郷には、優秀な医者がたくさんいるのに、医療機器・医療器具が極端に少ない。 なぜかというと、機械が壊れるから。 この国には、他の国とは違う磁場があって電化製品が尽くオシャカになるらしい。 スマホや他の家電は、〝シャキーム専用〟のモノが数多く開発されている中、医療機器だけは未開拓だったらしく。 シャキーム王国から直々に「話が聞きたい」ということで、公用アラビア語まで流暢に話せる大塚課長と、顔が濃いというだけて白羽の矢が立った僕が行くという羽目になってしまったんだ。 まず現場にいって医療機器のリサーチをして、磁場の周波数を調べて………。 やることは普通のことなんだけど、いかんせん海外、いかんせん中東。 ……….…正直、不安しかない。 「いいなぁ、高清水くん。シャキーム行くんだって?大塚課長と」 「………よく、ないですよ。僕、喋れませんよ。アラビア語なんて」 隣の席に座っている先輩が、パーテーションの上から顔を出して言った。 「先輩、替わってください。最低でも2ヶ月はいなきゃなんないですから」 「いいじゃねぇか。シャキーム王国の国王様からの直々のご依頼だろ?ほぼ国賓扱いだしな」 「だから、替わってくださいって」 「いや、だって俺。顔、濃くないし」 「……………」 なんて会話をしていたのが、5日前。 今考えたら、あの頃はなんて幸せだったんだろうと、感慨深げになる。 そう……僕は今、窮地に立たされているんだ。 羽田からの直行便で13時間、ここまでは順調だったんだ。 シャキームの空港に着いて、大塚課長と僕のスーツケースを迎えにきた王国のリムジンに載せて。 さぁ、乗り込もう!とした時に、そのリムジンは大塚課長だけを乗せて、無情にも僕を置いて出発してしまった。 …………まさかの、まさかの……着いてその日に………。 まさかの、迷子になってしまったんだ。 見渡せば、そこにいるのは凛々しい顔をした中東のイケメンだらけ。 そりゃ、そうだ。 シャキームは、ほとんど観光地なんてない。 工業のみの、やたらGNPが高い国だから。 従って、外国人観光客なんて、全くいない。 だから、僕みたいな外国人は珍しいんだよ。 ほら、見てよ………。 僕の30倍は濃いと思われる顔のシャキーム国民に、ジロジロ見られてるよ………。 カラっとした暑さにも関わらず、僕のビジネススーツの下は変な汗でベタベタになってしまった。 ヤバいな。 英語は通じるかな? ハ、ハングルは?! 「王宮に用事があります!日本人です!悪い人じゃありません!」って言えたらいいのに。 独特の雰囲気とのっけからダメージを受けた僕のメンタルでは、どうすることもできなくて。 僕はただただ、空港の出入り口で茫然と立ち尽くしてしまったんだ。 「どうしました?」 この異国の地で、懐かしい響きの言語を耳にして、僕は思わず振り返った。 褐色の滑らかそうなきめ細かな肌に、吸い込まれそうな大きな瞳で………その彩光は、鮮やかなライムグリーン。 類い稀なき美貌と、日本語を話せるというマストアイテムを兼ね備えた異国の天使………に、僕には見えたんだ。 「え?……は、はぐれて…しまいましてぇ」 我ながら、緊張と安堵がごちゃごちゃになった情けない声で返答してしまった。 それにプラスして、僕に空腹と中東の独特の暑さが僕を襲って………。 急に、頭がクラクラ回りだす。 「大丈夫ですか?!」 「ら、らいじょーぶ、らいりょーぶ、れす」 異国のイケメンはいい声で日本語を流暢に話しているのに、純粋な日本人である僕の日本語は、見事に崩壊してしまって………。 さらには、そのイケメンが分身の術のようにダブって見えてくる。 ………あ、あぁ。 着いた早々、何という大失態。 大塚課長に怒られるかな………。 っていうか、日本に帰りたい。 帰りたいよぉ………。 「御御御付け………食べたい。………布団で………寝たい」 異国の地で不安になった僕は多分、心の奥底の願望がつい表にでてしまったんだ。 その瞬間、体の………全身の力がガクンと抜けた。 すごく肌触りのいい、ド庶民の僕でさえ上等な生地だろうと察しがつくくらい、そんな布に包まれて。 日本にある僕のパイプベッドより、何百倍とフカフカするベッドに横たわっていて。 そんな全ての感覚を吸収できるくらい、驚いたことに素っ裸で。 僕は状況がハッキリ理解できずに、寝返りをうった。 「!!」 だ、だ、だ……だれ、誰だっ!! 見ず知らずの褐色の青年が、僕の横に寝ている。 よーく見たら、あの空港で出会った日本語の流暢なあのイケメンの青年で。 さらによく見たら、その人も素っ裸で………。 ナ、ナニヲシタンダ、ボクタチハ………。 このまま無かったことにして、大塚課長に連絡して………と、思って。 そっとその豪華なベッドから抜け出そうとした。 「どこいくの?」 「ヒィッ!?」 抜け出すことした頭になかった僕は、急に声をかけられた上、手首を掴まれて。 もんどりうって、ベッドに逆戻りしてしまった。 しかも、ヒィッってなんだよ、ヒィッって。 秒殺でその人に組み敷かれて、魅惑的な緑の目で僕を覗き込むように見つめる。 「何も言わないで、いっちゃうの?」 「………い、いや……あの………あ、あ」 「空港で倒れたあなたを介抱したんだよ?」 「え………?あ、あり……がとう」 「もう、大丈夫?」 「………介抱……だけでしょうか?」 「ん?」 「介抱だけを………してくださったんでしょうか?」 イケメンは僕の問いに、意外な回答をした。 ………アップにどこまでも耐えうる顔がグッと僕に近づいて、唇の先が触れたと思ったら、僕の口の中に舌先が絡む。 僕の足の間に強引に足を割り入れて、その指先が僕のハズカシイところをグチュグチュとかき乱し始める。 …………か、介抱だけじゃ……ないじゃないかーっ!! やっぱり、違うじゃないかーっ!! 異国の地で、よくわからない行きずりの関係を………しかも男とヤッちゃうなんて!! ………でも、正直………気持ちいい。 気持ちがいいから、「…んぁあっ」とキスで塞がれた喉の奥から、自分じゃないくらい媚びを含んだ艶っぽい声が上がる。 「………もう一度、挿入るよ?」 「…っあ、あぁっ………や、やっあぁ」 その声とかその眼差しとか、一度ハマったら抜け出せない沼のように………僕は抵抗すら忘れて、ズブズブにハマってしまったんだ。 ………あぁーあ、課長…怒ってるかな……? でも、今は………人生初の、目の前にことに身を委ねて、しまおう。 これからのことは、それから考えよう……。 イケメンのイチモツは、それはもう太くて熱くて………それでいて情熱的に僕の中をうねらすように貫くから。 僕はそんな怒涛の波のように押し寄せる未経験に、酔いしれてしまったんだ。 「ねぇ………名前を…………教えて………」 「私は、ムスタファ………あなたは?」 「あお……高清水……蒼」 行きずりの相手の名前なんて、なんできいちゃったんだろうな、僕は。 でも……でも、僕の頭の中のどっかで。 この人とのコレを、いい思い出として残したいっていう作用が働いたのかもしれない。 薄い紫色の天蓋の向こう側に、人がいる気配で目が覚めた。 ………ひ、ひとっ!!なんで、ひとっ!! 思わずシーツを握りしめて、身を固くしてしまった。 ‎「أمير مصطفى」 アミール・ムスタファ??? かろうじてヒアリングができたアラビア語の単語を、僕は頭の中で組み合わせた。 アミールって、何かだったよな……? 大塚課長が「早わかりアラビア語講座」なるものを機内で僕に延々と垂れ流していた、あの時にでてきたような……。 『アミール=王子様』 ………え? 「はぁっ!?」 思わず大きな声を出して、僕はベッドから飛び起きた。 「ん?……どうしたの?アオ?」 「ムムムムム、ムスタファ!!」 「何?」 「ムスタファは、王子なの?!」 ムスタファは体を起こすと、優しく微笑んで僕に言ったんだ。 「うん、よく分かったね、アオ」 よく分かったね、って………。 瞬間、僕の背筋は真冬の滝行中みたいに一気に冷え切ってた。 ………行きずりの相手が、王子様。 さらに言うと、仕事の依頼者である王様の大事なご子息とヤッちゃうなんて………。 ………僕は、このシャキームという国から生きて、日本に帰ることができるのか………? 心底不安になってしまった。 「いやぁ。高清水くん、どこでいなくなったの?」 シャキームという中東の国の、王宮の中にある国賓が泊まる施設の中で。 ビシッとビジネススーツを着込んだ大塚課長が、白米と御御御付けに舌鼓を打っている。 いかにも「外国ですー」って感じの白い大理石のテーブルの上に並ぶは、先に言った白米に御御御付け、卵焼きと得体の知れないくらい大きな魚の焼き物。 そのテーブルの隅の方に、申し訳なさそうにナンというパンみたいなのと、数種類のジャムがのっている。 こんなところで、和食とか食べられるなんて、思いもよらなかった。 「空港ですよ!!空港!!かなり早い段階ではぐれたんです!!気付きませんでしたか?!」 「いやぁ。ごめんねぇ、高清水くん。俺、眠くってさぁ。っていうかさ、高清水くん」 「………なんでしょうか?」 「その格好、何?コスプレ?海外に来たからって、いきなりハメ外しすぎでしょ?」 「違います!!僕のスーツケースの中身が、全部無くなってたんです!!」 課長が言うのも無理はない。 僕は、朝っぱらからとんでもない服を身につけているんだから。 ベリーダンスの……衣装みたいな。 そんな、摩訶不思議な服を着ているんだよ、僕は。 胸の部分と腰の部分にキラキラしたストーンが縫い付けられて、腹は丸出しだし。 薄っいスケスケ布地のズボンを身につけてはいるものの、下に履いたほぼほぼティーバック的な下着が、地味ぃに丸見えで。 ………き、着たくて着てるんじゃないぞっ!! ムスタファと故意じゃない一夜を共にした後、僕はムスタファの侍従によって、本来の宿泊場所へと案内された。 案内されたのは、いい。 シャワーを浴びようと、スーツケースを開けたら………。 アラビアンナイトで金銀財宝が宝箱から飛び出したような、目も眩まんばかりのキラキラがスーツケースの中から溢れ出したんだ。 ………な、な、なんだこりゃーっ!!! 僕が日本から持ってきたホワイトカラーのシャツは、辛うじて乳首が隠れる程度の上着に変わり。 渋い色合いのスラックスは、薄っいスケスケの布地でできた、フワッとしたズボンに変わり。 お気に入りのチェックのボクサーパンツは、ラクダ色のティーバックのパンツに全て変わっていて。 ………なんだ、コレ? 一瞬、空港で他人のスーツケースを間違って持ってきたかと思ったんだ。 でも、間違いなく僕のスーツケースで。 まるで魔法がかかったみたいに、スーツケースの中身がまるっと変身していて………。 これしか………これしか….……。 これしか着るものがなかったんだよーっ!! だって、真っ裸で! 色んなトコをプラプラしていられるワケないだろーっ!! 「まぁ、いいけど、似合うから。しかしさ、高清水くん。それで王様に会うの?」 「だって……これしかないんですよ?………あ、あとですね」 「何?高清水くん」 「僕………先に、王子様に会っちゃったんですけど」 「ぶはっ!!」 僕の突拍子もない発言に。 大塚課長は口に含んでいた御御御付けを喉に詰まらせて、苦しそうに噴き出してしまった。 「おはよう!アオ!!君が食べたがっていた御御御付けは、口に合うかい?」 課長がむせてる真っ最中、太陽を背負ってきたかのようなキラキラなムスタファが、イスラム圏独特の民族衣装に身を包んで部屋に入ってくる。 こうしてみると、やっぱ王子様だな。 褐色の肌と整った顔立ち、そして惹きつけてやまないライムグリーンの瞳と溢れんばかりの気品が、ムスタファの育ちの良さを隠しきれずに全力で輝いている。 しかも、なんだ。 昨日、僕がうわ言のように呟いた「御御御付け食べたい」をキッチリ覚えて、チャッカリ出してくるあたり、王子様のクセにかなりの手練れとみた。 「げほっ!……ご、おうじさまっ?!」 一国の王子様の突然の登場に、大塚課長が激しく咽せながら席をたつ。 「気を使わないで、そのままで結構ですよ」 いかにも王族といった洗練された気遣いで、課長に声をかけたムスタファは、同じテーブルの席についた。 「アオ!やっぱり似合うね!!思ったとおりだ!!」 「はぁ?」 「アオには、ビジネススーツよりこっちの方が似合うと思ったんだ」 「………僕の服は?」 「明日は紫色のを着て欲しいなぁ」 「ねぇ。僕の話、聞いてる?」 「ようやく手に入れた。私の宝石」 「何言ってるの?ムスタファ!ちゃんと聞いてくださいってば」 「一刻も早く君を手に入れたくて、空港まで迎えに行ってしまったよ」 「………と、言うのは?」 「何?アオ」 「リムジンが僕を置いていったのも。混乱している僕に、親切声をかけたのも。こんな服に全部すり替えたのも………。全部、あんたか?!ムスタファ!!」 ムスタファはテーブルに肘をついて顎を乗せると、穏やかな笑顔と口調で「大正解」と、曰う。 優しい、王子様かと。 親切な、王子様かと。 一瞬でも思った僕が、バカだった。 わがままで、強引で、バカ王子だろっ!! そんな怒りと恥ずかしさでワナワナする僕の手を、ムスタファはそっと手にとって、僕の手の甲にキスを落とした。 「愛してるよ、アオ」 その瞬間、フラーッと体を揺らした大塚課長は、白目を向いて椅子から転げ落ちたんだ。 「いいか、高清水くん!ここにいる間は、くれぐれも王子様の機嫌を損ねるなよ?!いいな?」 さっきまでビシッとしていたビジネススーツが、若干縒れた感じになった大塚課長と。 オカマバーのショーに出てくるような出たちの僕は。シャキーム国王に接見後、国王にあてがわれた執務室に向かった。 その道すがらの、課長のこの一言。 そりゃ課長は、このビジネスを成功させたいだろうよ。 僕だって仕事に来たはずなのに。 何やら様相が激変して、王子様の愛人みたいになっている。 ………僕が王子様の機嫌を損ねたらって、そもそもの目的が違うのに。 何言ってんだよ、この人は。 「課長。僕、日本に帰っていいですか?」 「だめ」 「帰ります」 「だめ、絶対にだめっ!」 「2か月間、僕はこんなヤバい格好で仕事をしなきゃならないんですが、課長はそれでもいいんですか?」 「別に。仕事ができれば、俺は全然かまわないよ」 「…………」 用意された執務室には、日本からボチボチ送付された医療機械やパソコンがキレイに置かれていて。 僕と課長は、無言のまま作業に取りかかったんだ。 「固定器具のだいたいは、除去シートと回避アンテナがあればよさそうだな」 「電磁波の影響なんでしょうけど、周波数が不安定ですね。変圧器を取り寄せてから、周波数は調整します」 「あとどれくらいある?」 「ここにあるのが全体の1割ほどなんで………道のりは長いですよ?課長」 「………見慣れてくると、別にたいしたことないな」 「何がです?」 「高清水くんの格好」 「!!」 かたやビジネススーツに身を包んだオジサンと。 かたやヒラヒラのスケスケの服を来た僕と。 この対極の格好をした2人が、難しい顔をしてパソコンやら機械やらをいじっているなんて。 ………滑稽以外、何ものでもない。 シュールだろ、マジでさ。 それに、課長はよくても、僕はよくない。 このヒラヒラの布はやたら腕と足に絡まるし、動くたびにシャラシャラ音がして、正直うるさい。 今日の分の仕事がひと段落したら、ムスタファに服を返してもらわなきゃ。 ーコンコンコン。 仕事がひと段落し。 宿泊している部屋のベッドで背中を伸ばしていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。 「はい」 「私だ。ムスタファだよ」 ………!! こ、ここであったが100年目だぞ、ムスタファ!! 僕はこみ上げる怒りを必死に抑えて、ドアを開ける。 「やぁ、アオ。仕事は終わった?」 「終わったも何も!!仕事が物理的にも心理的にもやりにくいから、服を返してください!」 「あぁ……アレね。捨てちゃった」 「はぁっ?!」 「あんなダッサいの、アオには似合わないよ。それより来て、アオ!私と一緒に、来て!」 そう言ったムスタファは、僕の手を強引に引っ張ると広くて大きな回廊を走り出した。 ちょ、ちょっと……ちょっと、待て! 僕は慣れない異国の土地で一日中仕事をして、疲れてんだよ! ゆっくり、休ませろよ!! 今すぐにでも、ムスタファの手を振り解きたかったのに。 走りながら時折、僕の方を振り返っては穏やかに笑うその笑顔を見せられたら、さ。 何もかも言う気が失せてしまって………。 僕は、ムスタファの意のままに、そのあとをついて行ったんだ。 「わぁ……すごい………」 思わずもれる、感嘆の声。 ムスタファが、僕を強引に連れてきた理由がわかった。 王宮の外れの塔の上。 誰も立ち入らないような、王宮の中だということを忘れてしまうくらい静寂が、この空間を包んで。 そこから一望する砂漠の景色が………この世のものとは思えないくらい幻想的で思わず息をのむ。 日の入直後の砂漠の地平線と空の境界が、紫色から紺色へとグラデーションに変化し。 その境界を曖昧にする。 砂漠の砂が月明かりに照らされるとキラキラ輝いて、満点の星はそれに負けじと光を放つ。 上にも下にも空があるみたいで、僕は宇宙のど真ん中に放り出された気分になった。 「私がシャキームで、一番好きな風景なんだ」 僕に対する強引さが、すっかりなりを潜めたような優しげな表情で、ムスタファは言う。 「……キレイ。僕も、この風景………一生忘れないと思うよ」 「気に入ってくれた?」 「うん。ありがとう、ムスタファ」 ムスタファは僕の言葉に機嫌を良くしたのか、ニッコリ笑って僕をソファーの上に押し倒した。 「わっ!!ちょ、ちょっと!!だめだってば!!」 「どうして?気持ちよかっただろう、アオ」 「まぁ、気持ちよかっ………違う!!違うよ!!やだっ!!やだぁっ!!」 ありったけの力でムスタファを押し返そうとする僕と、服の下にはガチで筋肉質なムスタファとは、体格差がありすぎて。 抗う僕の両腕を、まるで赤子の手を捻るように、あっという間に片手でねじ伏せる。 「この服はいいな。いちいち脱がさなくても、アオを愛でる事ができる」 「あ、っ!……や、….!………やぁ」 この服は………男の人目線からいうと、よくできている。 鼠蹊部まで深く入ったスリットは、少し手を入れたら僕のダイジな部分にすぐ手が届くし。 舌で少しずらせば、乳首が丸見えになるし。 男目線だと、非常に合理的な作りになっている。 ……で、でもな!! 着てる身にもなってみろ!! 抵抗する間もなく、あっという間にヤられちゃうんだぞ?! 男だというのに………。 僕は乳首を舐められて、指を中に突っ込まれて………たまらず、身をよじって声を上げた。 「昨日あんなにシたからか?……アオのは、もうこんなにも柔らかいぞ?」 「い……っ、やぁ………広げない……でぇ」 「広げないと、私のが入らない」 「………や、やらぁ………太いの………やぁ……」 「……アオっ!!……アオっ!!」 グッとムスタファの体に力が入って。 その整った顔立ちを歪めると、僕の中に間髪入れずにムスタファのイチモツが、ヌチヌチ音を立てながら僕の体の奥底まで貫くように入ってくる。 「あぁっ!!やぁ……んっ!!や、や、っ!?」 ムスタファと一つに繋がったと思った瞬間、僕の体はいきなり宙を舞った。 「や、ちょっ………駅弁………ぁああっ!!」 僕を軽々と抱き上げたムスタファは、なんと駅弁スタイルで僕を激しく揺さぶるから。 ムスタファのが僕の体のさらに奥まで、突きあがる。 「はぁ!……あぁっ………奥………やぁ、あっ!」 「アオ、顔を上げて」 ムスタファに揺さぶられて。 前を触りもしないのに、イキたくてイキてしょうがない僕は、襲いくる快感と戦いながら懸命に頭を上げた。 「………見て、アオ。この世界にいるのは、私達だけだ」 ムスタファにしがみついて、視線をムスタファと同じ方向に向けると。 砂漠と宇宙が、一つになったように見えて……。 本当に、この星に………僕らしかいないんじゃないかっ、錯覚を起こして。 ……視覚的にも、感覚的にも。 今まで経験がないくらい、気持ちがいい………。 「あっ……や、だぁ………やっ、ん………イ、イっちゃう………イっちゃう………!!」 「なら、共に」 ムスタファのその声が、合図のように。 ムスタファのが僕の中で弾けると、僕の中に温かな感覚が広がって。 僕は薄い布地を汚すぐらい、勢いよくイってしまって。 …………ありえないことに、僕は何も考えられなくなったんだ。

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