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第2話

男と経験なんて、あるわけない。 あるわけないのに。 僕はムスタファに抵抗できずに、ありとあらゆる経験を一気にしている気がする。 コスプレ気味の女装やら。 未開発だった後ろの穴とか。 冷静になったら、常識から逸脱しているこの状況に、いてもたってもいられないくらい恥ずかしいのに。 仕事とはいえ。 海外という環境が、何故か「別にいいかな?」という考えに次第になってくるあたりが。 感覚が麻痺………いや。 ムスタファにもたらされる行為により、僕の人間としての常識が、崩壊してきているのかもしれない。 その証拠に。 僕自身、ムスタファと男同士でセックスなんてしちゃってるにもかかわらず、全然、気持ち悪いと思わないんだ。 い……いやは、いやだよ? これが大塚課長なら、全力拒否だ!! いやなんだけど……ムスタファのは、拒めないというか。 むしろ気持ちいい、というか。 ………なんか、変なんだよなぁ。 『なっ!?なんだよ?!高清水、なんなんだよ!!その格好』 「いや、これには色々事情がありまして。あっ!!そうだ!!先輩!!日本からビジネススーツ一式、送ってください!!」 紫色のベリーダンスの服に袖を通した僕は、社用スカイプで、日本にいる先輩へ連絡をした。 ここ最近は、いつもそう。 朝起きたら、スーツケースにはキラキラを通り越したギラギラなソレが一着のみ入っている。 昨日は、赤で。 一昨日は、白で。 ………必然的に、僕はソレを着るしかなく。 そして、そのまま………カメラの前に座るしかなく。 『やだよ』 「なっ!?なんでですか?!お金なら払いますからっ!!」 『高清水が面白くなくなるから、やだ』 「……………」 課長といい、先輩といい。 僕のことをいじりがいのある、オモチャにしか思ってないんだろ!! 『追加分と変圧器を、航空便で今日送ったから、明後日には着くと思うぜ』 「ありがとうございます。………ニヤニヤしないでくださいよ!先輩!!好きでこんな格好してるわけじゃないんですから」 『じゃあ、どんなワケなんだよ』 「………話すと1時間くらいかかりますけど、いいですか?」 『俺もそんなに暇じゃねぇよ。〝今きた3行〟で要約しろよ』 「………シャキームの王子様に気に入られて、スーツからパンツまで捨てられて、こんな格好してます!!以上!!」 『ぶはっ!!なんだよ、それぇwww』 「だからスーツ、送ってください!!お願いします!!」 『それ聞いたら、余計送れねぇだろwww。ま、頑張んなぁ』 ………先輩の爆笑と共に。 無情にもスカイプがブツっと切れた。 ………スーツ、送ってくれよぉ。 なんでも言うこと聞くからさぁ………。 「あーあ……なんだよ、もう」 ため息と同時にマイクを外して、僕は机に蹲るように体を預ける。 ………そういや、さぁ。 僕は、ムスタファのことを何にも知らない。 シャキーム王国の王子様って、ことくらいで。 何であんなに日本語が堪能なのか、とか。 何でこんなに僕に執着するんだろうか、とか。 別に課長でもいいじゃん、とか。 日が暮れると、必ずムスタファは僕の目の前に現れて、ムスタファの雰囲気に流されて………声が枯れるまで喘がされて。 ………僕の後ろは、ムスタファの大きさとか熱さとかを、全て覚えていて。 ………ムスタファに溺れる、溺れさせられる。 何しに、来たのかな………僕は。 「高清水くん、今日はもう上がろうか」 「え?」 仕事熱心な課長が、そんなことを言うなんて信じられなくて。 僕は思わず顔をあげた。 「イズールの大使館に駐在している友人から連絡があったんだ。この後イズールに入国して、2・3日休みをもらおうと思って」 「………交友関係がグローバルですね、課長」 「だろ?」 めずらしく課長が、照れ臭そうに笑って。 その笑顔に僕は、少し安心してしまったんだ。 「ここんとこ、ずっと忙しかったからな。高清水くんもゆっくり休みなよ」 「………課長」 「王子様の相手も大変そうだし」 「!!」 そう言って、晴れ晴れとした笑みをたたえたまま、課長は隣国・イズールへと旅立っていった。 いきなり、休みとかさ。 言葉もわからない異国で、僕は何をしていいか分からなくて………。 「……あーあ」 僕はまた、ため息をついてしまった。 「あっ………んぁっ………そこ、やぁ」 「どうしたの?今日は大人しいね、アオ」 なんだか一気に力が抜けて、僕はムスタファに体を預けていた。 確かに、昨日までの僕は。 暴れて、抵抗して、結局ムスタファにグズグズに溶かされて………。 でも、今日は……。 全身で、ゆっくりと、ムスタファを感じたかった。 ムスタファの舌先も、ムスタファの指先も。 伝わる熱も、太いイチモツも。 全て………全て………。 よく考えたら。 僕は、寂しかったのかもしれない。 言葉も通じないような異国の地で、一人、対して親しくもない課長が、僕の前からいなくなっただけで。 こんなにも力が抜けるなんて、思いもよらなかったんだ。 「ムスタファ……ムスタファ………」 「何?アオ」 「ムスタファのことを………教えて………」 「私のこと?」 「どうして日本語が上手なのか………。どうして僕が好きなのか………。ムスタファのことを……もっと………ちゃんと………知りたい」 「アオ……」 「………ムスタファ」 自分からムスタファの首に両腕を回して、僕はムスタファにキスをせがむ。 互いの舌先が触れて、それが奥深くまで絡んで。   ムスタファは薄っぺらい僕のズボンを下着ごと脱がすと、僕をうつ伏せにして、腰を高く持ち上げた。 「あぁっ!………やぁ………」 僕の後ろから、ムスタファの太くて熱いのがズブズブ音を立てて入ってきて。 僕のこと体の奥底から、うねらすように突き上げた。 もう………多分。 僕は限界だったのかもしれない。 いつの間にか、泣いてて…………。 喘いで、よがって、腰を振りながら。 僕は、ムスタファを全身で感じ取ろうとしていたんだ。 「ムスタファ………。もっと………もっと、知りたい………。ムスタファ………もっと………!!」 「アオ……!!アオ!!」 イッたのに………まだ、足りない気がした。 僕はムスタファに突っ込まれたまま、体を反転させて。 また、キスをせがんだんだ。 僕とムスタファの、2人だけの秘密の塔から。 朝日が昇るのを初めて、見た。 夕方と夜の間の、あの幻想的な空間とは違い。 強い光を放った太陽が、砂漠のむこうから産声を上げる感じがして。 その瞬間、ムスタファによってだいぶ取り除かれた僕の不安は、一瞬にして無になった気がした。 「私は日本に少しの間、留学をしていたんだ。日本画を学びたくて」 僕が喘いで、よがって、散々腰を振った結果、立たなくなってしまった腰を労るように。 ムスタファは、僕の頭をその膝の上にのせてくれた。 「だから日本語が上手なんだ、ムスタファは」 「あと、日本のおにぎりが好き」 「おにぎり?」 洗練された一国の王子様が、なんて庶民的なものが好きなんだろうって、僕は思わず笑ってしまったら。 「アオは、何の具のおにぎりが好き?」 「僕?僕は、梅干しかな。あとは、鮭。日本人のセオリーそのものでしょ?ムスタファは?」 「ツナマヨ」 「ツナマヨ?」 「この世にあんな美味いものがあるなんて、私はとても衝撃を受けたんだ。………あと」 「あと?」 「………アオは、もっと好き」 ………いやぁ、僕、ツナマヨ越えしちゃったよ。 って……喜んでいいのか?! そうはにかみながら言った王子様は、僕の首筋にキスを這わす。 たまらず、体がのけ反った。 「………んで……。何で、僕のことが好きなの?」 「それは、まだ………教えない」 ムスタファのキレイな手が僕の体をなぞり、さっきまでムスタファのイチモツを咥え込んでいた僕の中に指を入れる。 「あっ………やめ………。も、無理………」 「どうして?アオの体は、すごく欲しがってるよ?」 「でもぉ………でもぉ………」 「ひょっとして、今日も仕事?」 「………休み」 僕の返事に、ムスタファはいたずらっ子のように笑った。 イケスカナイ、バカ王子様の………すごくかわいい笑顔に、僕は顔から火が出るんじゃないかってくらいドキドキしてしまった。 「なら、大丈夫だね」 「大丈……夫………じゃな………」 「もう一回、シたら。………私が、アオに休日をあげる。………一緒に来て。シャキームを案内してあげるから」 「……ぁあっ!………やぁら……らめぇ………」 シャキームの、休日………。 行きたいけど、その前に僕の体が持つのかどうか。 ユルユルに広がった僕の入り口は、すんなりとムスタファを受け入れて、いとも簡単に僕らは一つになる。 体内に残っていたムスタファの精液がグチュグチュ音を立てるから………。 また、僕はムスタファに体を預けて、しまったんだよ………。 ありえないだろ、僕。  「………ムスタ……ファ」 「何?アオ」 「外に出る………時くらいは…………普通の服を………」 「ダメダメ。アオは常に美しくなくては。アオの美しさを最大限に引き出せるのがその服なんだから。絶対、あんなダサいスーツなんか着たらいけないよ?」 「………じゃあ、コレ…………コレ、とってぇ」 「ダメダメ。休みの時くらい、開放しなくては。身も心も、この広大な砂漠のように開放して。私に身を委ねてごらん、アオ」 ………いや、いやいやいや。 今日はさ、映画さながらの〝シャキームの休日〟なんだろ? シャキームの色んなところを案内してくれるって。 久しぶりの休みだから、ゆっくりしようって。 ………実際、ムスタファは色んなところを案内してくれている。 でも……でも………これじゃ、全くゆっくりできないじゃないか!! さすが王子様と言わんばかりの。 何人かの侍従とともに、ラクダにのってオアシスに向かう道すがら。 僕はいつものヒラヒラでスケスケの、露出の高い白い服を着て、ラクダにムスタファと2人乗りをしている。 それだけなら、まだいい。 この砂漠の地にも〝大人のオモチャ〟が存在するなんて、思いも寄らなかった。 ………ロ、ローターが……全力でブルブルいいながら、僕の中に入ってるし。 僕の情けないくらいに小さな乳首には、これまた小さなクリップが引っ付いているし。 そんなの、自分ですぐとればいいいじゃんって、思ってるでしょ? 自分で取れたら、こんなに苦労はしない。 僕の手はシルクの白い布で後ろ手に縛られちゃって、ムスタファに握られているから。 取りたくても、取れないんだよ……!! ………ゆっくり、なんてできない。 〝広大な砂漠のように体を開放〟じゃなくて、〝開発〟の間違いだろ? ラクダの微妙な上下運動と振動により、ピンポイントで僕のなかを刺激してくるし、乳首は痛いんだかなんなんだか………。 思わず、吐息が漏れる………。 たまらず、腰が揺れる………。 ………我慢大会、か? じゃなきゃ、調教か拷問だ。 ムスタファと僕だけじゃない。 屋外で、晴天の下、さらには人までいるというのに………。 完全に発情してんじゃん、僕。 「………っぁは…あ………」 一人で座っていられなくなった僕は、ムスタファに体重をかけた。 「ムスタファ………も、無理………」 「イッてもいいよ、アオ」 「………やだ………やだぁ」 正直、そんな余力すら残ってない。 昨晩から今朝までずっとヤりっぱなし、イカされっぱなしで。 そういうムスタファは、その絶倫の神様か!ってくらい、その勃ち上がったイチモツが僕の腰にあたって………。 ………な、なんでこんなに。 なんでこんなに、淫乱になっちゃったんだ………僕は。 ガクンっー。 ラクダが砂漠の窪みに足をとられ。 その衝撃が、刺激を受けっぱなし中の、僕のあらゆる感覚に伝達する。 「んあぁっ!!」 頭が、真っ白になった。 ………イッちゃったぁ…。 イッちゃったのに………イッてない。 ………下が、イッてない。 ………あれだけイかされたから………もう僕の精子は、枯れてはててしまったのかもしれない。 なん………だ、これ………? どう…した……んだ……僕。 「アオ?………もしかして、ドライで……?」 「………ひ………ひぁ………」 ムスタファの問いに、僕は全身がフルフル震えて、答えることもままならなくて……。 そのまま、ムスタファの鍛え上げられた胸に、体を預けて………目を閉じるしかなかった。 よく、考えたら……アレ、空イキってヤツだよな? 聞いたことはあっても、実際に自分自身が経験するとは思わなかった。 ………でも、今までに経験したことないくらい………ぶっ飛んで、ゾワッとして。 ………どうにかなっちゃうんじゃないかってくらい、気持ちよかったぁ。 医療機器メーカーに何年っているけど、自分の身を持って人体の不思議を実感するとは、思いもよらなかったよぉ。 あぁ………まだ。 気持ちよさの余韻が、体にも頭にも残って………。 フワフワして………気持ちよさの、渦に飲まれてしまったみたいに………。 深く、落ちていくようだ………。 「…………ん」 「起きた?アオ」 カラッとした心地よい風が肌を通り抜けて、僕は目を開けた。 ………すごく、熟睡した気がする。 深く、何も考えられないくらい、眠った感じがして………ムスタファの声がする方に、視線を移した。 「よく眠っていたね、アオ」 「………ここ、どこ…?」 「西のオアシスだよ。私のお気に入りの場所」 フカフカの肌触りのよいインド綿が敷かれたソファーに寝そべっていた僕は、ゆっくり体を起こして周りを見渡す。 「……ぅ……わぁ…………すご…い。何……ここ」 砂漠のど真ん中に突如として現れた、透明な水を渾々とたたえた泉。 その周りは白い大理石で綺麗に造成されて、栄養が行き届いた木々が生い茂り。 とても砂漠のど真ん中とは思えない涼やかな風をおこすと。 甘い、いい香りが………鼻腔をくすぐる。 こんなとこ、日本には絶対ないよ。 「体は、大丈夫?」 非常に気品のある笑顔で、僕の体を優しく支える王子様の顔を見ると………。 「大丈夫って!?どの口が、そんなことを言うんだよ!!」 その一言に、フツフツと怒りが湧いてきて。 思わず、ムスタファのほっぺたを両手でギューっとつまんでしまった。 「誰のおかげで、意識がトんじゃうくらい空イキしたと思ってんだよ!!」 「でも我を忘れくらい、グッスリ眠れたでしょう?」 「眠ったんじゃないよ!!失神したんだよ!!」 「アオ……」 「ふぁあっ!!」 突然、僕の穴の中に仕込まれていたローターが、出力全開で震えだす。 僕は情けない声を上げて、大きく体をビクつかせてしまった。 ………まだ、とってなかったのか。 手は自由になっていたから油断した……!! 「……っあ、ぁあ。と……取れって………取って……ムスタファ………」 「だめだよ。こんな小さな機械で、アオが素晴らしく可愛らしくなるんだから、取れるわけないじゃないか」 「い、い……いじ………わる………」 懲りずに震えるローターに耐えきれずに、僕はムスタファにしがみつく。 「今すぐ、アオを食べてしまいたいよ」 「………や、やだぁ………む、りぃ」 自然と腰が揺れる。 ………呼吸が荒くなって。 普通の日本人の僕が、ムスタファの王子の魅力によって、だんだん淫魔に変化していく錯覚に陥るんだ。 『なんだ、ムスタファも来てたのか。そいつは、新しいオモチャか?』 その時、背後で聴き慣れない声と理解不能な言葉がして、僕は体をよりムスタファにしがみつかせて、振り返った。 ムスタファにどことなく似ている背の高い人が、木々の中から現れる。 その隣には、透き通るように色白で華奢な男の子がいた。 『サイード!何故、ここに!』 『バカンスだよ、バカンス。ここに来たら、ヤルことと言ったら一つだよな?ムスタファ』 2人が何を言っているのかは、全く分からなかったけど。 ムスタファの表情から、その人が苦手な人なんだろうなってのは、容易に想像がつく。 『おまえと一緒にするな、サイード!それにアオはオモチャじゃない!』 『そうか?そのオモチャ、ずいぶんいい感じに飼い慣らしているみたいだな』 『!!………サイード!!』 『今度、味見をさせてもらえないかな?東洋人の肌はシルクのように滑らかで、その中は太陽のように情熱的と聞く。ぜひ、試してみたいものだな』 『去れ、サイード!!これ以上ほざくと、ただじゃおかない!!』 『わかった、わかったよ。じゃあ楽しめよ、ムスタファ』 ただならぬ状況の2人のが交わした異国の言葉の会話に、異様な雰囲気を感じたのは事実で。 それでも僕は、ムスタファによってしこまれたローターにその身を振り回されて………。 ただ、ムスタファにしがみつくことしかできなかったんだ。 「………アオは、私のものだ。絶対に渡さない……!!」 「ム…スタ………ファ……」 ムスタファは、僕の首根っこをグッと引き寄せると、今までにないくらい、強くて激しいキスをした。 ………独占欲の、塊のような。 ………普段見せない、感情を爆発させたかのような。 そのままの勢いで、僕はソファーに押し倒される。 「………ムス……タ………取って……お願い………中、取ってぇ……」 「いや、このまま……このまま、いく………!!」 「えっ?!……え?………あ、ぁあっ………やっ!!やめぇ………やぁっ!!あ、あぁーっ!!」 縦横無尽に僕の中で震えるローターを、後ろから貫くようにムスタファのイチモツが挿入ってきて……。 僕は、気が狂うんじゃないかって。 おかしくなって、壊れちゃうんじゃないかって。 ………ムスタファによってもたらされる快楽に、身を沈めたんだ。 ………ある意味、映画より衝撃的な。 シャキームの休日になってしまった。

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