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溶け合う心 ④

 煌隆の手に、橙の灯に反射してきらきらと輝く液体が垂らされるのをじっと見詰める。その手が後腔にやんわりと触れれば、瞼をきつく閉じ、訪れるだろう痛みに備える。 「そう、緊張せず力を抜け」  そう言われても、心臓だってうるさく鳴っているし、そうそう緊張が解けるものでもない。  暫く入り口を揉み解していた煌隆は、響の呼吸に合わせ指に力を入れる。 「あうっ」 「痛むか?」 「ううん……平気、です……」  想像していた痛みは無く、油と煌隆のマッサージのお陰だろう、あっさりと指を受け入れた。煌隆の細長い指がゆるゆると蠢き、緊張を解す為円を描いて内壁を擦る。そろりと引き抜いてはまたゆっくりと侵入する。 「あ、あう、んっ!」 「気持ちいいのか? 響」  始めは侵入してきた異物感に不快なものを感じていたが、煌隆が空いた手を伸ばし小さな突起を捏ねると、不快は一瞬で違うものに変わった。ぞくぞくと背筋を走るそれが快感だと言うのなら、響はこくりと頷く。薄く瞼を開いてみれば、すぐ近くに愛しい人の微笑み。それだけで幾分安心した響は僅かに体の力が抜ける。  見透かすように煌隆が指を増やせば、抵抗なく飲み込んでしまう。  煌隆は熱く脈打つ中にこりこりと当たる部分を見つけ、指で軽く押し上げる。 「は、あっ!?」  途端響は背中を仰け反らせ、指から逃げるように腰を浮かせる。 「はうっ、ああっ! そこ、だめっ!」 「だめ? ここが良いのだろう、響?」 「ちが、だっ……め……変、へんだよぉ!」  執拗にそこを攻めれば、煌隆は体を起こし響が逃げないよう片足を抱え上げ肩に担ぐ。  響は羞恥を感じる余裕も既に無く、与えられ続けるびりびりとした強い刺激に布団を握りしめ耐える事しか出来ない。 「あう、ああっ! だめっ、やめ、こうりゅ、うぅ……!」 「気持ちいいのだろう? やめてよいのか?」 「や……だ、やだ、やめな……いでっ! い、うっ!」  二本の指で既にきつそうな響に、煌隆は更に指を増やす。捩じ込むように入れられ僅かに痛みを感じたが、それもすぐに吹き飛ぶ。同じ場所をこすりあげながら、激しく出入する指。強い刺激と卑猥な水音に頭の中はちかちかとして、見開いた目は瞳孔が開いているのかやけに眩しい。  真っ白になった思考は、打ち寄せる度に高さを増す快感の波にのまれて溶けて失せる。  激しい波に身を委ねれば、それは唐突に訪れた。 「な、に、煌隆っ、オレ……なんか、ああっ、変っ……ぅあ!」  煌隆は響を気遣う声を掛けるも、刺激を与える動きはそのままに。 「あ、ああ、だめ、なんかっ、来る、くる、うぁ、ああっ! あうあああ!」  全身雷に打たれたように硬直し、爪先が痺れ煌隆の体を挟み込む。固まったまま浮いた腰は煌隆を誘うように揺れ、後腔は指を締め付ける。  頭の中を飛んでいた星が一斉に弾け、溶けた思考も理性も奪い、やがてじわじわと身体中の緊張を取り去っていく。 「はっ……あ……ん、う……ぁう……」  顔を紅潮させ髪の貼り付く額を煌隆はそっと撫で、響の中を掻き回していた指を引き抜く。その刺激さえも快感に変換され、響の体はぴくりと跳ねる。 「やうっ、あ」 「響……凄いな、あんなにきつく閉じていたのに。今のはどうした?」 「わかっ……ない……ひゃう」  響の額に口付けを落としながら襯衣と下帯を脱ぎ去った煌隆は、熱く猛ったものを太股に押しあてる。 「響、お前の体を気遣ってやりたいが、そうもいかないようだ。だが苦しければ、耐えずに言って欲しい……」 「うん、うん……」  煌隆は自身に油を垂らし、響の足を持ち上げる。愛撫にぽかりと開き収縮する後腔に先端をあてがう。ゆるゆると腰を動かせば、先端をじわりと飲み込む。  再び押し広げられる感覚に響は僅かに肩を竦め煌隆を見上げる。  下帯を取った時に橙の灯に照らされ輪郭のくっきり浮かんだ熱の塊のようなものは、響のそれとは比べ物にならない。 「煌隆……怖い」 「大丈夫だ、私にしがみついておれ」  優しい口づけの後にふわりと髪から漂った煌隆の匂いと、きつく抱き締めた体に伝わる心臓の音に、響は少し安心した。愛しい人も、緊張している。  じわり、じわりと、指では届かなかった深いところまで掻き分け侵入する。時間をかけて二人の体がぴたりと合わされば、その存在感に響は息を詰まらせる。 「あ……お……大き……ぃ」 「痛むか……?」 「ん、ん、平気……少し、苦しいだけです……」  限界まで広げられ僅かに痛みを伴ったが、すっかり弛緩したそこは抵抗なく煌隆を受け入れた。体は反射的に煌隆を押しだそうとするが、それを望まない響は抵抗して思わず下半身に力を入れる。 「っ……!」  抱き締めた煌隆の肩が揺れ、苦しそうな呻き声が耳元で聞こえた。下半身に力を入れた事で体内の煌隆を締め付けてしまったらしい。煌隆は体を起こし、恍惚と苦痛の混ざった瞳で響を見つめた。 「響……そんなに締め付けられては耐えられん。動いてもよいか? 駄目だと言われても、無理そうだが……」  響は返事のかわりにこくりと頷いて見せた。煌隆はぎこちなく笑い、ゆっくり腰を引く。同じくゆっくり腰を戻し、再び響の体内を広げていく。指で執拗に攻めたところをこすりながら。 「は、あ、ああ……! んぁっ!」 「響、響、ああ、やっと、お前と一つになれた……」  響が苦しまない事を確認すると、煌隆はぴたりと重ねていた体を少し離し、徐々に動きを早める。見上げた響の瞳に映るのは、流れる黒髪の間で眉をひそめ、熱を帯びて灯を反射させ響を愛おしく見詰める、黒い瞳。濡れた唇からは荒い息が漏れる。何度も何度も、響の名を呼び、愛しいと重ねながら。  身体中が煌隆の愛に満たされる。頭の先から爪先まで、髪の毛の一本一本、細胞の一片までも。 「すまない……お前を、壊してしまうかも」 「壊れても、いいっ……煌隆が、オレで、感じてくれるのが、嬉しい、から、ああっ!」  灯の届かない暗闇にまで響の嬌声と煌隆の腰を打つ音が届き、反射して耳に入れば渦巻く熱気は燃え盛り、快感と愛に溺れ、委ね、ただただ頂に昇る。  二人の熱が部屋中を満たせば、このまま溶けて、混ざって、ひとつになるようで。 「ああっ! 煌隆っ! いっ、う、すご、い! オレっ、へんになる、変になっちゃ……はあっ……!」 「っ、響……っ、私もだ……!」  煌隆が一層激しく響を突き上げればもう言葉を発する事も出来ず、開いて渇いた口から零れるのは甘い叫びだけ。  脈打つ熱は幾度も腹の内側を突き上げ、かき混ぜ、何度も響を快感の頂点に向かわせた。 「ひぃ、いっ、うぐ、ああ、あああ……!」  放出を伴わずに果て、体力が限界に近づいても、煌隆が与える快感は容赦なく響を何度も快感の海に溺れさせる。 「煌隆、も、だめ……あ、あっ! ほんとに……壊れちゃ、うぁ!」 「響、私ももう、限界だ……響の中に、出してもよいか」 「いっ、い……こ、煌隆の、ちょうだい、オレの中、煌隆で、満たして……!」  煌隆は響を抱き締め、いっそう激しく腰を打ち付ける。響は力任せに煌隆の背中にしがみついて許容範囲を超えた快感に耐える。爪が食い込んで血が滲んだようだが、最早響に傷を気づかう余裕はない。愛しい人の背中を傷つけてでもそうしていないと、あまりの快感に心も体も壊れて溶けてしまいそうだった。 「響っ、響!」 「ああ! 煌隆! また、くる、くるっ! ああ、いああああ!」  煌隆が響を壊れる程抱き締め、響の中に欲望を解き放てば、体の間に挟まれていた響自身が僅かに力を持ち、押し出されるようにどろりと熱が溢れた。  響の肩に顔を埋め荒い息を吐く煌隆は、頭をゆるゆるともちあげ響の額を撫でる。音を立てて口付け、体を起こす。 「ぅ……ん……」  すっかり力のなくなった響の後腔から煌隆が自身を引き抜くと、塞ぐものがなくなり煌隆の残した熱が溢れて流れた。  煌隆は敷布の端を引いて手拭い代わりに自分と響の腹と、響から溢れたものを簡単に清める。  いつの間にやら隅に固められていた掛け布団を引き寄せ、仰向けに弛緩したままの響に掛けてやる。 「煌隆……」 「響、疲れたろう……最後はお前を気づかう余裕もなかった、すまなんだ」 「ううん……煌隆がオレを求めてくれて、嬉しかった……」  未だ熱を帯び、汗ばんだ体をぴたりと合わせ、煌隆は響の頭の下から回した手で額を撫でる。 「ねぇ、煌隆……オレ、気持ちよかったですか?」 「ああ……これまでのどれと比べることもできぬ程に」 「よかった……」  安堵と幸福に笑みを浮かべるも、疲労と、優しい手の感触にすぐに睡魔が訪れる。響は愛しい人の微笑みを見つめながら、その腕の中で眠りに落ちた。 「おやすみ、響……愛してる」  体を重ねた事で溶け合った心が、このまま一度たりとも離れない事を願う。

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