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溶け合う心 ⑤
翌朝、遠くに聞こえる鳥の声に響は目を覚ました。格子の窓から射す朝の光に目を細める。
頭が覚醒する前に無意識に何かを探し手を動かす。指先に触れた温もりは響の手を握り、同時に美しい声。
「おはよう。よく眠れたか?」
トン、と小さな音がした後、背を向けていた煌隆が響を振り向く。暖かい掌が額を撫で、唇に柔らかい感触。
口付けはほんのり煙草のにおいがした。
朝の光に照らされた煌隆は、襯衣も纏わず程よく筋肉のついた胸板を惜しみ無く晒す。男の色香の漂う肢体に、響は昨夜を思い出し顔を染める。
「いつもと同じ朝のようで、今朝は全く異なる朝だな」
さらさらと額を撫でながら微笑む煌隆に、響は首を傾げてみせる。
「響の総てを知った。いっそう愛おしい。特別な朝だ」
「……よくそんな事、平気で言えますね」
響は掛布を引き揚げ、鼻まで持ち上げる。きっと真っ赤に染まっているだろう己の顔を隠して目をそらす。
「私がかような事を口にするのは嫌か?」
「ううん……嬉しいです。ただちょっと、恥ずかしいだけで」
心が溶け合ったまま迎える朝は、なんて眩しい。響も、朝の光に照らされる煌隆を見て同じ事を思っていた。愛しい人の一挙手一投足すべてがいっそう愛しく感じる。同じ事を思い、それを相手が口にすることは、この上なく幸せだ。
煌隆はするりと掛布を引き抜き、額に口づける。
「湯を用意させた。朝食の前に浴びるといい」
「うん……煌隆?」
「ん?」
響が煌隆を呼ぶと、優しく微笑んで額を撫でる。
煌隆は額を撫でるのが好きなようだが、響も煌隆に撫でられる事が一番好きだった。
「一緒に入っても?」
「構わんが、どうした?」
「今凄く、幸せでふわふわしてるから、離れたくないんです」
煌隆は響を起こし、寝間着を肩に掛けてやり頬を撫でて口付ける。
「可愛い奴だ」
頭をぽんぽんと撫でれば自分は襯衣に羽織りを掛け、響を抱える。慌てて下ろしてくれと頼んだものの。
「……煌隆、歩けないみたい」
一人で立ってみれば全身は重だるく、特に腰から下はろくに力が入らず、結局は抱えられて風呂場へ連れて行ってもらう事となった。
くすくすと笑う煌隆に、響は少し唇を尖らせるのだった。
部屋の前で待機していた将極に、煌隆は世話は無用と言い自分の風呂場へ向かった。
煌隆が専用に使う風呂場は響のものより狭い。聞けば、后妃の風呂ははじめから大勢が世話をする前提で作ったものだとか。
「女官の世話を断ったのは響、お前が初めてだな」
板張りの浴室に先に入った響は、座り込んで湯を掬う。
「オレだって、秌さん一人で充分です」
「では今日は、私が響の世話をするとしよう」
一糸纏わず浴室に入ってきて響の手から桶を奪う煌隆の下半身に思わず目が行き、響は慌てて視線を外す。
「何だ、別に己で見慣れておろう」
「でもその、全然違う……」
「ふむ? どれどれ」
響の背中を流していた煌隆が言ってぴたりと背に張り付き、気付いた響が抵抗する前に足を絡め、大きく開かれてしまう。
「ちょ……煌隆、昨夜さんざん見たでしょ……」
「昨夜は暗くて良く分からんかったからな」
「う、嘘ばっかり!」
顎を肩に乗せた煌隆の視線に、心臓がやかましく跳ねだす。
ねっとりとした視線を感じていると、腹に回された手がするすると上がって来て左右の突起を摘まむ。
「あっ」
こねられればすぐに響は反応し、起き上がって主張を始める。
「敏感だな。成程、確かに私とは違うようだ」
「やっ、だめ……」
「だめ? ここは私を誘っているぞ」
煌隆は右手を伸ばし、反り立ったものを掌に包む。ぴくりと反応し、一層膨らんだようで。
ゆるゆると擦ってやれば、響の体が小さく震える。
「あ、んっ、煌隆……朝から、こんな……」
「……一緒に入るとねだった響が悪い」
「そんな、あっ!」
気付けば響の腰に当たっていた、煌隆の力ない柔らかなものも、すっかり熱を持って押し返している。
「やめ、やめて、もう……出る……っ」
「このまま、出せ。見てみたい」
「やだっ! そんなの……あ、やっ」
響は煌隆の腕を掴みなんとか止めさせようとするものの、びくともせず激しく動かす手は微塵も力を緩めない。
そこはむずむずとして来て、腰全体が快感に満たされる。
「も……だめ、やめ……出る、でちゃ、あっ! だ……見……ないでぇ!」
勢い良く吐き出す熱に合わせるように腰が揺れてしまうも最早止まらず、響は煌隆に見られながら浴室の床に撒き散らす。
羞恥に顔を覆うも、感じる視線からは逃げられない。
黙る煌隆がごくりと唾を飲み込んだのが、肩に伝わる喉の動きでわかった。耳にかかる吐息も熱い。
煌隆は足をほどき胡座に組むと、響を持ち上げ腰を浮かす。
「え……ちょ、煌隆、まさか、待って、そんないきなりっ」
響の反対も聞かず支えていた腕から力を抜けば、場所を探してゆるゆる滑っていた熱が、昨夜さんざん掻き回されすっかり馴染んだ響の中にずぶりと入ってしまう。
自分の体重が掛かり、それは一気に奥深くまでささる。
「ぁ……ぁ、く……」
突然の圧迫に、響は言葉を詰まらせ喘ぐ。響を後ろから抱き締め、律動を始めた煌隆が途切れ途切れに話す。
「響……真、不思議だっ」
「やっ、はっ! な、なに、いっ……」
「女とは全く、違うお前の体が……こうも私を、興奮させる……!」
「はぁ! ああ! すご……ぃ、奥まで……っ」
煌隆は響を前のめりに倒し、繋がったまま膝で立ち響の背を押さえ胸を床に押し付ける。
尻を高く突き上げる格好になり羞恥は増すが、同時に快感も増す。
ぎりぎりまで引き抜き一気に腰を叩きつけられ、その度響の思考は飛ぶ。
「す、凄い、煌隆っ! あ! うあ! く、く、くる!昨日のまた、くる、うっ!」
昨夜はじめに、放出を伴わず果てたのが癖になってしまったのか、響は激しい快感にびくびくと体を震わせる。
昨夜はそれが何なのかも分からなかったが、これは快感の極致なのだと、硬直し小さく痙攣する体が教えてくれる。
快感の余韻が続くままに、煌隆が緩める事なく響を攻め立てる。刺激に敏感になったそこは、激しく擦られ突かれ、響は泣き叫ぶように煌隆を求める。
「ひっ! あっ! こうりゅ、煌隆っ! ああう!」
「凄いな……響の、中……絡み付いて、離さぬ」
「だっ、あ……気持ち、きもちいっ、の! ああまたっ! くる……ぅ……!ひあああっ……!」
一度絶頂を迎えれば沸点は下がり、何度目かに煌隆が響の中に欲望を叩きつけた頃には、響はぐったりと力が入らず、覗いた煌隆の顔をうつろに眺めた。
「……煌隆、お尻がひりひりする」
改めて体を清めてもらい、湯舟につかれば煌隆が響の後ろに回り、背中からふわりと響を抱き締める。響は煌隆の胸に背中を預け足を湯に投げ出す。
煌隆の逞しいものを受け入れた小さな穴は、温かい湯の刺激でひりつく。あんなに大きなものが入っていたのだ、今そこがどんな状態になっているかなど確かめる勇気はない。
「後で医者に薬を作らせよう……無理をさせたな。お前が愛おしすぎて驚く程理性がきかん。これまでどうして耐えられたのか最早わからぬ」
煌隆は響を振り向かせ、額を撫で濡れた髪をかきあげる。湯舟に浸からないように板に出している長い煌隆の髪に響も触れてみれば、濡れているのになめらかに指の間を滑る。
「無理なんてしてません。でも次は……痛みがなくなってからにしてくださいね……」
尻すぼみにぼそぼそと言って俯いてしまった響に、煌隆はくすりと笑う。耳まで真っ赤にしているのは、のぼせたからなのか、恥じらいによるものか。
「さて、そろそろ上がるとしようか。しっかり掴まっておれ」
言って響を抱え上げた煌隆は、響が何か言う前に口づけで響の口を塞いでしまった。
起きた時と同じく、いや、それ以上に下半身がだるくてはろくに歩けない事はわかっている。しかし風呂場に来る時と違い、今度は直接肌が触れ合う。濡れた体が密着し、渇いた肌を重ねるより生々しい感触が響の体を包む。
「滑って転びでもしたら大事だ。黙って私に甘えていろ」
「う、うん……」
「ん? なんと……これだけで反応するとは。足りなかったのか?」
煌隆に見つからないよう精一杯腰を折ってみたが、横抱きに抱えられた響の足と腹に挟まれ、頭を上げたものを煌隆は見逃さなかった。隠そうにも、両手は落ちないよう体を支える事で手一杯だ。
「そ、そんなんじゃありません! またしようったってもう無理ですよ!」
「冗談だ。そんなに顔を赤くして、まこと可愛いやつだ」
口を「へ」の字に結び煌隆を睨む響の額に軽く口づける。響はくすくす笑う煌隆の顔をまともに見れず、逞しい胸板に顔を埋めた。
脱衣所の椅子に響を降ろした煌隆は、体が冷えないうちに素早く水滴を拭く。自分は簡単に襯衣だけ被り、響に衣を着せようとしたものの。
「……どうやって着せるのだ、これは」
一人で着替えもした事のない煌隆には無理難題なのだった。
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