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vii ③

「今日は静かだな。気持ちよくないのか?」 「ひうっ……きっ、気持ちいいっ、よっ……けど、はず、恥ずかしっ……」  押し殺した嬌声の合間に紡がれる言葉を合わせると、自分の乱れぶりが冷静になってみれば恥ずかしかったらしい。 「冬真、俺だって恥ずかしかった」  夕べは一生出てくる筈のなかった、己の欲望と対峙したのだ。理性と取って代わられた獣を冬真にさらけ出すのは勿論恥ずかしいことだったし、恐ろしくもあった。冬真と肌を重ねている間はそこまで感じる余裕はなかったが、改めて思うとゾッとしない。 「そう、なの……春、も……?」 「そうだ、お前だけじゃない。こんな、こんなの……今までの自分じゃない……」 「春……?」 「……俺は、さ。お前、冬真の、恥ずかしいところも全部知りたい」 「春、春っ、あ、やめて……ああう!」  言いながら春樹は冬真を押し広げ指を増やす。一層激しく擦り上げれば、冬真の声は段々大きくなってくる。 「あっ! あああっ! きかっ、聞かないでぇっ! 恥ずかしいよおおっ!」 「俺だってこんな事言うの恥ずかしいんだよ! 俺はっ、こうやってお前の恥ずかしいところ触って、恥ずかしい声聞いて、恥ずかしい顔見て、気持ちよくなるんだよ! そんなの恥ずかしいに決まってんだろ!」 「…っ、は、る、うあああっ!」  遠慮もなく春樹が冬真の弱点を攻め立てると、冬真は脚を痙攣させ悲鳴のような嬌声と共に激しく果てた。指を引き抜くと、すっかり弛緩した後腔が名残惜しそうに収縮した。 「あ……ぅ……はるが、春も恥ずかしいなら、一緒だね……」 「そうだな……」  力ない腕で冬真が縋り付く。その腕を引いて胸に抱き、白銀を梳いて冷たい唇を貪る。肩で息をする冬真は、春樹の耳元で小さく懇願した。 「春の、欲しい……」  獣がもどかしげに肢体をうねらせる。  もうひと押し、焦らして具体的な言葉を引き出したかったが、これが今精一杯、羞恥を共有して安心した冬真の言葉だろう。  応えないと二度と冬真からは欲しがらないかも知れない。  春樹はもう一度唇を重ねながら、夕べと同じように冬真の腰の下に枕を押し込む。  待ちわびたように吸い付く後腔に向かい、ゆっくり腰を進める。じわじわと、冬真の中に侵入する。 「ううぅっ……!」 「……痛いか?」 「うう……い、痛い、痛いよぉぉ……でもやめないでぇ……」  冬真は目に涙を溜め、肩に爪を喰い込ませてくる。  そんなに痛いなら無理はさせたくないのだが。 「い、い、痛いけど、気持ちいいから、やっ、やめちゃ嫌だ」  そうだ、明日、ローションを買って帰ろう。  頭の後ろで理性がそう囁いた。 「……動くぞ、いいか?」 「うん、うん、大丈夫」  春樹は咄嗟に、出せるだけの唾液を掌に受けて春樹の熱ばかりが熱い根元に塗りたくる。少しでも潤滑剤の代わりをしてくれればいいのだが。  手強い獣と闘いながら、春樹はゆっくり動く。  獣が叫ぶ。蹂躙したい。  理性が制止する。労りたい。 「ああ……あうう……春ぅ、もっと……」 「痛くないのか? 夕べみたいにして……平気か?」 「うん……昨日みたいに、して。あ、あっ、後で、薬とか、塗ってよね……!」 「そんな、薬があればなっ!」  たまらない。可愛すぎる。愛おしすぎる。  了解を得た春樹は遠慮なく腰を打ち付ける。その度冬真は目一杯の嬌声で応える。最早隠しも我慢もしない。 「ああっ! 春ぅ! 気持ちいいよぉ! あ、あ! 春、はる、すき、すき、大好きっ!」  ああ、俺は今、冬真からどう見えているだろうか。獰猛な獣に見えるだろうか。恐ろしいだろうか。  律動に揺さぶられながら必死に言葉を紡ぎ、汗だくになって感じている冬真は、春樹を見る余裕もないようだ。  春樹は必死に紡がれた言葉に答えてやりたかったが、やがて冬真は激しい律動と興奮で舌が回らなくなってきたようで、時折舌を噛みそうになる。  咄嗟に指を差し込むと、案の定思い切り噛まれた。しかしその痛みさえも、今は甘い媚薬のようだ。 「いっ、つ……」 「は、はう……ごめ、ごめ、んっ! あうっ! んううっ!」  噛んでしまった謝罪のつもりなのか、傷口を舐めようとするが、舌を突き出し拙く舐める様は春樹を煽っただけだった。春樹は今にも爆発しそうな欲望の出口に向かって突き進む。 「ああっ! あ! はやっ、はげし…っ!」 「お前が……っ、煽るからだろっ!」 「うあっ、あああっ! くる、はるっ、凄いのくる! だめ、だめ、止まってえぇぇ! 溶けるよおぉっ!」  冬真の体内に欲望をぶちまけ、同時に果てたらしく小さく痙攣する体を抱き締める。  真っ白になった頭の中には、ただ幸福だけがあった。二人とも言葉もなく、短い呼吸だけ繰り返し、しばらく折り重なっていた。

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