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第102話※

 自宅へ帰ろうとした天の腕を取った潤に熱く見詰められた時から、覚悟は決めていた。  まさか会社で潤に出くわすとは思わず、豊と兄弟だったという驚きの事実まで判明して困惑したが、会いたくてたまらなかった潤を目にした瞬間のあのときめきは、尋常ではなかった。  嬉しかった。  照れくさい気持ちより、抱き付きたい衝動の方が強かった。  潤になら、支配されても構わない。  潤になら、恐怖さえ感じていた自身の体を拓かれても喜びが勝るだろう。   現に今、この状況でも逃げ出したいなどとは少しも思わない。 「ぅ、っ……ぅぅ……っ」  だが潤のそれは、そのまま貫くと天の華奢な体を半分に引き裂いてしまいそうなほどの代物だった。  先端をあてがわれ、くぷっと亀頭が侵入しようとしてきたその時、これは指とは大違いだと全身に力が入った。 「天くん、天くんっ、痛いんじゃない? 大丈夫っ?」 「ふぇ……っ」 「まだ先っぽも入ってないんだっ、抜こうか? 痛そうだよっ?」  無意識に、涙声で何度も潤の名前を呼んでいた。  僅かに入っている性器の先端の丸みが、たっぷりと解された内側に隙間なく埋まっている。  情けない顔で涙目になった天を見下ろして焦った潤が、すぐに自身を握って早々と抜こうとした。  天は縋るように腕を伸ばし、「そうじゃない」と頭を振る。 「ち、ちが……っ、痛くはない……。 すごいからっ。 なんか、ぶわって、迫ってくるかんじ……んぁっ」  想像以上の圧迫感があったのだ。  肉壁を拓かれる感覚も、挿入ってきた性器の熱さも思っていたのと違った。  潤の指で念入りに解されて腰を揺らした、天の内部の潤滑は問題ない。  心配されるような痛みもないので、とにかくこれが貫かれるという事なのかと驚いていただけだ。  天が伸ばしたその腕を取り、ちゅ、ちゅ、と二の腕に口付けてくる潤は困り果てていた。 「ねぇ……どうしてそういうこと言うの?」 「えっ? ご、ごめん……」 「……可愛いよね、天くん。 ほんと、年上とは思えない」 「あ、うっ、ちょっと……待っ……」  困ったように笑う潤に見惚れていた隙をつかれた。  ぐぷぷっと愛液を散らして先端を突き入れられ、潤に掴まれた腰が浮く。  どこが失言だったのか分からない。  ゆっくりゆっくり、ほんの少しずつ性器を埋められていた天は、天井を向いた自らの両足を見て思わず目を背ける。 「はぁ、……やば……」 「あ、っ潤、くん……っ」  潤のセクシーな吐息が、以前よりも天の耳を犯した。  ただでさえ潤のフェロモンが濃くなっているというのに、片目を細めた恐ろしいほどの扇情的な表情で目もやられた。  瞳を瞑ると、入り口をじわじわと往復して慣らそうとする性器の感覚がとてもよく分かる。  どうしたらいいか、天は考えようとした。  少しだけ体を起こし、もっと潤に近付けばいいのか。 否、勝手に動くと潤の好きにさせてやれないかもしれない。  性器が襞を擦る、くちゅくちゅという卑猥な音が耳に入らないようにすれば、この羞恥が少しは無くなるのか。 否、耳を塞いでしまうと天の大好きな潤の声と吐息までも聞こえなくなる。  痛くはないが怖くはあるので、本当は抱き締めていてほしい。 しかし挿入の時は離れているのが一般的で、あまり強請ると鬱陶しがられそうで出来ない。  舌を絡ませるあのいやらしいキスをもう少ししてみたいけれど、潤も余裕が無さそうなので我儘は言えない。  天は様々、正解の分からない事を考えては腰をビクつかせていた。  ひたすら慎重に、今もなお彼は本来の欲を殺しているかの如く、優しく天の体を拓こうとしている。  そんな潤に見詰められると、どうしようもない熱い想いが本能を揺さぶった。  様々考えていた事が、一気に真っさらになった。 「天くん、……気持ちいいって顔してる」 「あっ……あぅ……っ……うぅぅ……っ」 「………………っ」 「潤くんっ、匂い、らめ……、」 「それを言うなら天くんもでしょ。 こんなの、もう無理だよ……僕はとっくに理性なんか無いのに」 「んぁぁっ……っ……ふぁ、っ……」 「力抜いて、天くん。 奥までいけない」 「ひぁっ、いや、……そんなの、むぃ……」  ずぶ、ずぶ、と少しずつ確かに進んできている。  フェロモンのせいなのか、貫かれているせいなのか、潤の声に興奮するからなのか、思考があやふやになってきた天の呂律が怪しい。  潤の言う "奥" が分からない天は、シーツをくしゃっと握って背中を反らせた。  脳が機能しない。  圧迫感によって苦しいと嘆きたくとも、襲ってくるのはそれだけではないのだ。 「天くん、泣かないで。 痛いんじゃない?」 「ん、っ……んっ……らい、じょぶ。 でも、くるしい……っ」 「まだ半分だよ。 ここで擦ったらイイとこあたるかな? ……どう?」 「あっ……あっ……ちょっ、……潤くん……っ」 「う、……っ、天くん、……締めちゃダメだよ。 抜けちゃう」 「ぅあっ……んっ……」  腰から腹をさらりと撫でられ、先端で器用に前立腺を擦られると知らず後ろに力が入る。  快感が全身を突き抜けた。  勃ち上がった自身の性器が、先走りを滲ませながらぷるぷると小さく揺れ動くのを感じる。 ベッドに手をついた潤が、それを見て何やら嬉しそうに微笑んだ。

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