101 / 132

第101話※

 出会った時から思っていたが、潤は優し過ぎる。  繊細で、寂しがりやで、相手の気持ちばかり考えて自身の心と体を犠牲にする事も厭わない。  潤がα性であると知ってから、天は自分の性別をすんなりと受け入れられるようになった。  嫌悪でしかなかったα性への偏った思いこそが、差別的な考えだったのだと気付く事が出来た。  特にΩ性が生きにくい世の中である現実に変わりはない。 これまでも、これからも、その生きにくさと隣り合わせで生活していく事になるだろう。  しかし天には、潤がいる。  二人の出会いと関係性を知らしめるかのように、幾多のしるしが性別を二人ともに受け入れさせようとしている。  性別などどうでもいい。 性別よりも潤その人を見て、想いたい。  だが見目麗しい潤を見ていると、どうしようもなく照れて恥ずかしくなり、会いたいのに会えないというジレンマと戦わなくてはならなくなった。  我慢出来ずに抑制剤を飲んでいた天だからこそ分かるが、体内の性質を無理やり殺す行為は悪循環しか生まない。  潤は、天よりももっとそれを殺していた。  α性を嫌い、番関係に疑問しか感じていなかった天のそばに居たいからと、性別を隠していただけでなく自らの性質を根本から絶とうとしていた。  そんなαが居るのかと、信じられなかった。  自分の事は棚に上げて、思わずその場から逃げたくなるほどのオーラを放たれても、牙を剝かずにはいられなかった。  もっと自分を大事にしろ。  α性だからと、同性の者達と比べなくていい。  そう言いたかった天は、それは自分にも言えることだと口を噤んだ。  性欲とはかけ離れた爽やかな見た目の潤が今、天の鎖骨から胸元へと舌を這わせている。  意識が飛びそうになるほどのフェロモンを全身から漂わせ、限りなく控えめな愛撫を何十分も施してくる潤は、天の知る限りでは一番優しくて穏やかな人だ。 「んぁ……っ、潤くん……っ」  暖房が効き過ぎているのかと思った。  潤の掌や舌が体を這い回り、ピクピクと背中を震わせていると熱くてしょうがない。 終始庇い続けてくれているうなじにもたっぷりと汗をかいていた。  「触っていい?」と聞かれて反射的に頷くと、潤の指先が天の性器にちょんと触れる。  初めて舌を交わらせたキスの間から、そこはずっとピンと反り立っていた。  羞恥に瞳を瞑る。  掌でやわやわと扱かれた後、指先はヒクつくそこへあてがわれた。 「もう濡れてる……。 天くん、気持ちいい?」 「ん、ぅぅん……っ、っ……」 「少し奥まで入れていい?」 「あぁっ……う、うぅっ……っ」  自身でも、分かっていた。  触れられる前から、何なら潤とここへ帰ってきた時から、そこは貫かれる期待に満ちていた。  指先が奥へと入っただけで、くちゅ、と音がする。  締まりきったそこが潤の指先の侵入を喜び、勝手に迎え入れる準備を始める。  潤とは会わないと決めていた日々、この指先の感触を何度も思い出した。 「天くん? 泣いてるの? 痛い?」 「ちが、う……、きもちい、から……っ」 「…………っ」 「潤くん、ゆび……ながい……」 「え、そう?」 「う、ん……っ、全然、……ちが、う……」  前立腺を通り過ぎ、根元まで挿れられてギリギリを掠められて喉を仰け反らせた天は、こうも違うものなのかと快感に涙した。  濡れそぼったそこは、潤の指先が走る度に奥から液を湧き立たせる。  二本に増やされた指が、天の顔色を窺いながら襞を擦った。 「……え、違う? え、? それ誰と比べてるの?」 「あっ……い、っ……待って、そんな……っ」 「誰かにぐちゅぐちゅしてもらった事あるの? ここ、僕だけが知ってるんじゃないの?」 「あぁっ……だ、だめだ……っ、潤くん、っ……きもちぃ……っ」 「ちゃんと答えないと僕の挿れちゃうよ? いいの?」 「う、ぁっ……だめ、だめ……っ」  二本の指先がぐちゅぐちゅと中を掻き回す。  何故急に怒り始めたんだと、瞑っていた瞳を開くと潤には似合わない鋭い視線が天を射抜いていた。  怒られて責められても、頭の中が真っ白になるほど気持ち良かった。  潤の指は長くて美しい。  それが自身の中を一心に蠢いている。  香りのしなくなったコートを握り締めて、恐る恐る触れてみた自慰行為とは比べものにならない。  足先だけをぴょこぴょこと動かし、羞恥を誤魔化す。 「潤くんの、真似したんだ! ……俺が、……自分で、……してみた、だけ……!」 「えっ? 天くんが? 自分で?」 「そうだよっ」 「えぇぇ……っ♡ それ動画に残してない?」 「はっ? 残すわけないだろ……!」 「だって天くんが自分でここ触ってみたんでしょ? Ωの体がこわい、嫌だって言ってた天くんが。 そんなの記念に残しておかなきゃ!」 「な、っ? 何を言ってんだ!」  やっぱり言わなければ良かった。  鋭く光っていた潤の瞳がとろんと目尻を下げたのを目の当たりにすると、こっそり耽った自室での行為がひどく恥ずかしくなってくる。  潤を思い浮かべるだけで、下腹部が疼いて勝手に濡れた。 少しだけ…と思いつつ中指を孔に入れてみても、何にも気持ちよくなかった。  奥まで入れてじわりと動かしても、中の滑りが渇いていくような気さえした。 「天くん、……僕もう……」 「え、っ……?」 「初体験、しちゃお」 「────!」  全身をピンク色に染めた天が一人で羞恥に悶えていると、潤がふと上体を起こす。  ふっと微笑まれて、天の心臓が一瞬だけ壊れた。  未開封だったそれを装着している様は、とてもじゃないが直視出来なかったが、チラッと覗き見はした。  潤の性器をまじまじと見る事も怖くて出来ず、ベッドに横たわってドキドキと高鳴る心臓を休めているその僅かな合間に、天はさらにフェロモンを放つ。 「あの……っ、天くん、ほんとにいい? 後悔しない?」 「するわけないだろ! ちょ、ちょっとだけこわいけど、潤くんなら……いいよ。 でもゆっくり……してくれ」 「天くん……あんまり煽らないで……」 「────ッッ!」

ともだちにシェアしよう!