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はじめての巣作り3※

 ◆ 天 ◆  離れ家内に立ち込めるのは、濃密な二つのフェロモンとスパンキングのように激しく肌同士がぶつかる音、そして天の控えめな嬌声。  Ω性の発情フェロモンは、特にα性には抗う術が無い。とは言いつつ、天にはまるで根拠のない過信があった。  発情期中でなくとも、潤とのセックスはいつも濃厚で激しい。  週末ごとに若く猛々しい性欲をぶつけられ、精液も愛液も枯れ果ててしまうのではないかというほど彼に愛される天は、発情期だろうがそうでなかろうがあまり変わらないだろうと、たかを括っていたのだ。  しかし、その過信は大きな過ちだった。  潤よりも天自身の方に問題があった。 「……っ! あ……っ、潤、くんっ……だめ……も、おれ……っ、らめ……っ」  抑制剤を服用しないと決めた、潤と迎える初めての発情期。  ここへ来て何日経ったのか、今は朝なのか夜なのかさえ分からない、カーテンの閉め切られた離れ家での密事。  潤の腕にしがみつく握力さえ無くなり、腰を掴まれ揺さぶられ続ける天は、回らない舌で「やめて」を繰り返した。  だが潤は、据わった目でただジッと揺れている天を見下ろすばかり。 「うん、僕もイきそう」 「ちが、……っ、ちあう! おれ、ねむい……っ! 潤くん、寝かせて……っ」 「誘ってきたのは天くんでしょ? わがまま言っちゃダメだよ」 「そんなの……っ、知らな……!」  行為の最中、理性を失った潤は天から放たれるフェロモンが一時的に消え失せるまで、絶えずいたぶり続ける。  天の後孔から愛液があちこちに弾け飛ぶほどの激しいピストンに、何度も気を失った。かと思えば「起きて」と無理やり覚醒させられ、潤の性器で限界まで拓ききった孔を執拗に攻め立てられる。 「はぁっ、……うっ……あっ……!」 「匂い、まだ全然消えてない。欲しがりだなぁ、天くん」 「う、んぁっ……も、……むりっ……潤くんっ」 「そんな弱気でどうするの? あと五日も残ってるよ?」 「へ……っ!?」  力無く驚いた天の虚ろな視界の先に、潤の甘い顔立ちがいやらしく微笑んでいるのが見えた。  あと五日も残っている、という事は、ここへ来てまだ二日しか経過していない。  発情期がきっちり七日間あるとすれば、あと五日でこの快楽漬けの日々も終わるのだが、天にはそれが途方も無い日数に感じた。  ──長い……っ、あと五日もあるだなんて、体壊れちゃうよ……!  潤との普段のセックスは、たっぷりの愛情と少しの照れくささが入り混じった最高の性愛行為なのだ。  Ω性である自身の体をあれだけ汚らわしく思っていた天が、潤とならいつでも「したい」と思えるほど、幸せな気持ちに浸れる尊いセックスがもはや懐かしい。 「潤、くん……っ、やめ……もう、おれ……っ」 「やめていいの? 天くんがそんなに言うなら、僕もう動かないよ」 「やらっ、なんで……っ! なんれそんな意地悪言うんらよぉ……っ」 「天くんがずっと〝やだ〟って言うから」 「うぅっ……!」  それまで激しく打ち付けていた腰の動きを、潤は本当にピタリと止めた。そして天にのしかかるように華奢な体を抱き締め、もどかしげに真新しい首輪を食む。  天も、自分が何を口走っているのか分かっていなかった。嫌だとか、面倒だとか、否定的な意味で「やめて」と言っているわけではない。  本能は確かに、潤との交わりを求めている。  コンドーム越しではあるが、張り詰めた彼の性器の熱さを今は何よりも欲している。  出来るものならずっと快楽に溺れて揺れていたいのだが、天の本能がまともな睡眠を取らせてくれない。すなわち潤も、天のフェロモンにあてられて我を忘れて動いている。  天は完全に、発情期を舐めていた。  思わず涙を流しながらグズってしまう天の唇に、悪戯にキスを仕掛けてくる潤の方もフェロモンを垂れ流していて、もう何が何だか訳が分からない。  ただでさえ大好きでたまらない年下の恋人が、腹を空かせた肉食獣を思わせる獰猛な瞳で天を射抜くので、たちまち思考は皆無になり快楽を優先してしまう。 「天くん、おいで」 「えっ? あっ、らめ、それはっ……! はぅぅ……っ!」  背中に回った大きな手のひらが、脱力した天をゆっくり抱き起こす。  細腰を持ち、ふにゃふにゃと首の位置が定まらない天の身体を、潤はそのままストンと下ろし座位で容赦無く貫いた。 「ひ、っ……! あぁぁっ……!」  グジュグジュっと音を立てたそこから天の愛液が弾け飛び、またも二人の下腹部を盛大に濡らす。 「気持ちいいね? あ……腰揺らしてる? もっと深く挿れてあげようか」 「ひぁっ……! あっ……あっ……潤くんっ、それ、らめっ、やめ……っ!」 「イっちゃった?」 「ふぅ……っ、ふぅ……っ、らめって、言ったのに……!」 「〝らめ〟は〝もっとして〟ってことだよね? 僕覚えたよ、天くんの好きなとこ」 「う、ぁあっ……!」  精液の出ない絶頂を、何度味わったか分からない。  潤は掠れた嬌声を上げる天の腰を掴み、自らの腰をグンッと突き上げた。  刹那、天の下腹内部がジワ……と熱くなる。最奥をこじ開けられ、愛液の出どころを刺激されたせいだ。  潤にもたれかかり、臀部を震わせて啼く天などお構いなしに尚も下から突いてくる恋人は、内壁を抉りながら背中を丸めて乳首まで食んでくる。 「はぁ、……可愛い。もっと動いて、天くん。自分でも好きなところ分かってるでしょ? イった後だから、今擦ればもっと気持ちいいよ?」 「やっ……そんな、の……むりっ……むりだよぉっ」 「無理じゃない。やって。天くんなら出来るよ」  温かな舌で天の小さな乳首を舐め上げ、嬉しそうにそんな無茶な提案をする潤にいつもの面影は無い。  天には蕩けるように優しく、甘やかな愛を惜しみなく注いでくれる潤が理性を失うと、こうも性に貪欲で意地悪な肉食獣になるとは思いもしなかった。

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