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はじめての巣作り6※
まともに立つ事さえままならないというのに、前のめりになった天を左腕のみで支えている潤から一気に貫かれ、目の前に星が散った。
ただ潤に嫌な思いをさせたくなかった一心だったのだが、何がそんなに彼を怒らせたのかまったく分からない。
太ももに滴る愛液が欲情を表し、潤が動く度にグジュ、グジュ、と容易く潤滑の役目を果たす。
彼の性器は並みではない。勃起すると天の内襞を限界まで拡げ、最奥まで簡単に届いてしまうほどに膨張する。
「あっ……あっ……潤、くん……っ、おれ、立てな……あぁっ……!」
「僕が支えてるから大丈夫だよ」
「ひぁっ……!」
激しい挿抜に、項垂れて揺れる天は後ろを振り返る事も出来なかった。
α性のオーラとフェロモンに負け、ずるずると内側を擦られて嬌声を上げる天の心は、完全に本能によって支配された。
「潤くん……っ、きもち、いい……っ」
「……うん。僕もだよ」
「ちょうらい……っ! はやく、潤くんの……っ、ちょうらいっ」
「天くん……そんな、エッチなこと、言わないでよ……っ」
「あっ……あっ、うぁ……っ」
突き上げに合わせ、潤の苦々しいようにも聞こえる声が天の鼓膜を震わせた。
足元でクシャクシャになったスラックスは床を這い、ずらされただけの下着は太ももで止まってこぼれ落ちる愛液を吸い取っている。
最奥をこじ開けようとする潤の突き上げにより、動きに合わせ揺れ動く天の小ぶりな性器がぷるんぷるんと宙を踊った。
「ひっ……あぁっ……!」
中を抉るように腰を回され、背中をしならせた天はたまらず天井を仰いだ。刹那、貫かれた奥がどぷんっと疼いた気がした。
それが潤にも感じられたらしく、悦楽に酔った甘い吐息を耳元で吐かれる。
「あ、……っ、天くん……っ」
「んっ……んっ……!」
「僕の先っぽ、温かくなった。天くん気持ちいいの? 中からいっぱい、溢れてきたよ」
「やらぁっ! そん、なこと、言うなっ、……言わないれぇ……っ」
「感じてるの、恥ずかしいから?」
「ん、……っ、ん!」
「じゃあもっと言っちゃお」
これ以上の羞恥は無いと、赤面して必死で頷く天の耳に恐ろしい言葉が聞こえた。
セックスの最中、潤は天を執拗に可愛がる。正気に戻れば直ちに天の足元で土下座する羽目になるのだが、彼はいつも理性を操れない。
愛する人との幸福感溢れる営みに我を忘れる気持ちは分かるが、瞳に獰猛な光を宿した潤は、今もなお上等な首輪を噛み千切らんばかりに牙を剥いている。
「潤、くん……っ! くびわ、こわれ、る……!」
「……知らない。壊れたらそのときはその時だよ」
「んんっ!」
潤が歯を立てるごとに、キシッキシッとよくない摩擦音が天の心を揺らした。
もしも噛み千切ってしまったら、顕になった天のうなじへ潤は迷い無く牙を剥くだろう。そうなったらどうなるかくらい、初々しい交際に浮かれている二人にも分かっているはずなのだが抗えない。
──潤くんの精子、俺のナカにいっぱい注いで……!
浅い呼吸と甘い声を漏らしながら、天もまた潤を責められないほど性に本能を侵される。
首輪をガジガジと噛む音や、首筋にかかる甘く熱い吐息、ひっきりなしに内壁を擦られ続ける快感に否が応でも天の背中がビクビクと戦慄いた。
発情期でなくとも、潤に愛撫され欲情した天はいつも本能に負けてしまうのだ。
抗えない性の欲求。
α性のフェロモンを間近で感じ、欲情した瞳に射抜かれたら最後、Ω性の性質上さらに最奥からとぷとぷと愛液を湧かせ、相手の精液を体内に取り込むべく勝手に心身が準備を始める。
「天くん、聞いて。耳じゃなくて、僕は天くんの脳に話す。聞き漏らさないで」
「んぁっ……んっ、……っ」
潤の不機嫌な声色に、反射的に何度も頷いた。
淫らに腰を突き出し、膝が震えて立っていられない腹を支えられ、甘やかなキス一つも無い獣のように無機質なセックスにも関わらず、天はあられもなく喘いだ。
濃密なフェロモンを放ち、α性である潤の理性を粉々にする。
「丸ごと僕のものなんだよ、天くん。天くんは、僕のもの。誰が触れることも許さない」
前のめりのまま、天は恐る恐る振り返った。鼓膜と脳を同時に震わされた潤の言葉に、ようやく彼の怒りの理由を知る。
ぼやけた視界の先をよくよく見てみると、いつからか潤は赤黒いオーラを纏っていた。
「…………っ!」
激怒、鎮圧、征服……そんな単語が脳裏に浮かび、知らず体がピシリと固まる。
それでもなお、天の性器は怯え縮むどころか先走りを滴らせた。
潤とはまだ番関係では無いため、おそらくこうしているのが潤ではない者だとしても天は乱れてしまう。
抑圧される事を本能的に良しとする天の性は、それが恋人でなくとも満たしてくれさえすればいい──。
心と体を支配するα性のフェロモンであれば、それはきっと顕著に表れる。
潤のためにと行動しようとした事が、何よりも彼を怒らせる引き金になったのだ。
〝誰が触れる事も許さない〟
苦しげに、呻くように放たれた潤の声は天の脳幹にまで届き、留まった。
半ば抱えられるようにして突き上げられながら、天は眦と唇を震わせる。
「潤、くん……っ、潤く、んっ! ごめ、なさ……っ、ごめん、なさ……っ」
「許さないってば」
「あ、っ……! やっ……だめっ! 足、つらい……立って、られな……っ」
「誰にも触れさせない。天くんは僕のものだよ。天くんのここに入っていいのは、このフェロモンを感じていいのは、僕だけ」
「うぅっ……、潤く、んっ……こわい……! やっ、痛ぁ……っ!」
潤の怒りのオーラは、α性が放つ耽美なフェロモンよりも強かった。
天は許しを請い、屈服に近い感情を沸き立たせる潤の怒りをどうにか鎮めたかったのだが、突如として背後に走った痛みに細い顎を反った。
「天くんは僕の言う通りにしてたらいいの。何にも気にしなくていい。僕は天くんのために生きるって決めたの。他の何にも、邪魔させない」
「あっ……やらっ……熱い……! 熱いぃっ……」
奮発した丈夫な首輪をガジガジと噛み、うなじを狙えないと悟るや潤の牙は天の肩にガブリと食い込んだ。
そうして的を外し続けた結果、この四日で天の両肩や鎖骨周辺には痛々しい牙の痕がいくつも残っている。
僅かな出血を伴うそれが、途端に熱を帯びた。
「はぁっ……あ、っ……!」
「…………っ」
痛みに顔を顰めつつも、究極の快楽を与えられ白濁液を床に散らした天は疑いようもなく、間違いなく、Ω性だった。
本能に突き動かされ牙を剥いた潤もまた、天の射精によって性器をギュッと締め上げられてしまい、狭まった内壁に阻まれながらも強引に奥を突いて長い吐精に入る。
「うっ……ん、……っ」
「天くん、……大好き。帰るなんて言わないで……。誰かに襲われちゃったらどうするの……? 天くんの匂い、誰にも感じさせたくないよ……」
熱い迸りを、コンドーム越しに感じた。
疲弊し項垂れた天をキュッと控えめに抱く潤が腰を震わせる度、欲張りな内壁が彼の分身を搾り取ろうとする。
自らの意思ではないその蠢きに、天もたまらない幸福感と快感を味わった。毎回、この例えようのない甘酸っぱい想いで心が満たされる。
どんなに恥ずかしい言葉を言われ赤面しようが、長すぎる射精で少しずつ正気を取り戻してくる潤のすまなそうな声が、天は大好きなのだ。
「……ごめんね、天くん。また僕……」
「……痛い……」
「ご、ごめんねっ! あぁっ、どうしよう! こんなに血が……っ」
どうやら今回の激怒任せのガブリは相当なようで、潤が天を貫いたままあたふたし始めた。
──あぁ……いつもの潤くんだ……。
α性の本能に支配された潤は、怖いけれど好き。しかし天は、彼がまるでそれらしくないからこそ好きになった。
これまで以上に出血を伴うそこを舐め、「変な味」と感想を呟きつつ性器を大きくしている。
「潤くん、あの……先に抜いてくれる?」
「あっ……ごめんね……!」
「ま、待って。ゆっくり抜いて……。早いと、……気持ちよくなっちゃうから」
「あ、う、うん……」
「可愛いこと言わないでよ……」と膨れっ面を浮かべる潤が、ただのヤキモチ焼きな恋人に戻った。
抜かずのもう一回が容易そうな性器の感触に身を震わせる天も、正気を取り戻した。
これから揃って正座をし、共に詫び合い、律儀な二人による反省会の開幕だ。
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