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はじめての巣作り5※

 天がここへ来て、裸で過ごす事四日。  たまの睡眠と食事以外は、潤からの愛と抗えないフェロモンに包まれ、羞恥などやすやすと飛び越えてしまうほど何度も貫かれた気怠い朝、それは突然訪れた。 「──潤! 居るんでしょ、潤! 出て来なさい!」  けたたましい声に、グッタリと横になっていた天は目覚めた。  ドンドンドンッと激しく扉を叩く者は、かなり怒気のはらんだ声色で「潤!」と何度も恋人を呼んでいる。  それが誰かなど聞かなくても分かった。 「……っ、潤くん、お母さん来たよ! 起きて、潤くんっ」 「んー……」  優しく揺さぶってみるも、潤は目を閉じたまま天の体を抱き寄せ、また落ちようとしている。  天の発情に付き合ってくれている潤も、四日目ともなると疲労困憊の様子で産まれたままの姿だ。  だが激しく扉を殴打する音の中では二度寝も容易くないようで、彼はさも面倒だと言いたげに「はぁ……」と溜め息を吐き体を起こした。  潤を呼ぶ声は穏やかとは言いがたい。  何事かと体を竦ませる天の頬に口付けた潤は、ベッドの下に脱ぎ捨ててあった衣服をとりあえず着込むと、もう一度屈んで天の髪を撫でた。 「天くん、ちょっと待っててね。すぐ戻る」 「……うん……?」  潤はそう言うと、「うるさいよ」と扉の向こうへ冷静に言い放ちながら離れ家を出て行った。  ベッドの上にポツンと残された天は、寒くもないのに自身を抱き締め、ぷるぷると身震いする。 「お、俺帰った方がいいよね……?」  扉の外からでも、潤の母親の激怒が伝わってきた。  呟いた天の行動は早く、転がり落ちるようにベッドを降り、こちらは丁寧に畳まれた衣服を四日ぶりに着用する。  その顔には、〝しまった〟という苦笑が浮かんでいた。  考え無しにここへやって来たはいいが、つい忘れがちになるが潤はまだ高校生なのだ。新学期が始まったばかりの、高校三年生。  二人は共に運命を感じ、しるしによるお告げを受けているとしても、交際から半年も経たない今現在は将来を誓い合っているわけでもない。  ただ「性別に囚われず、普通に、恋をしよう」と決めた二人だからこそ、日頃は互いの性をあまり気にしないようにしているけれど、発情期中はそうもいかなかった。  せっかく大好きな恋人が出来たのだから、できるだけ抑制剤に頼らずにいたい……それは天のささやかな望みだったが、高校生である潤はあと数年は親の監視下にある。  天は恋に浮かれていて、すっかり忘れていた。  優しすぎる潤の都合も、その家族の思いも。  怒声で頭が冷え切った天は、帰り支度をバッチリ済ませ潤の戻りを待っていた。  無闇に飛び出して潤の母親と鉢合わせになるのもいけないと、リュックサックを背負ってジッと玄関前で佇んでいたのだが、それを見つけた潤はすかさず不機嫌な顔付きになった。 「──お待たせ、天く……って、……何で服着てるの? 荷物まで持って」  靴を脱ぎ、天の二の腕を掴んだ潤の眉間には、濃い皺が刻まれている。  発情期は残り三日。  今から抑制剤を飲み始めたところで効果は期待出来ないけれど、このままここに居ては潤の体裁が悪い。  簡単に思い至るそんな事にさえ、頭が回らなかった自分が恥ずかしかった。 「俺帰るよ! あ、あのっ、用事思い出して……!」 「用事?」 「そ、そ、そうなんだ! うっかりしてたなぁっ」  どうにか潤の機嫌と体裁を損ねぬよう、天は下手くそな口実で彼から離れようとした。  しかし案の定、眉間に浮かんだ濃い縦皺はさらに深まる。 「……どうやって帰るの?」 「えっ? どうやってって……」  そこまで考えていなかった。  とにかく帰らなければと、筋肉痛のような痛みが走る下半身を叱咤し身支度をしたのみ。  発情期中にも波があるのだという事を知った天は、今が帰宅のチャンスだった。 「ふ、普通に電車で帰るよ? 潤くんのおかげで、今落ち着いてるし」 「どこが落ち着いてるの? 嗅ぎ分けられる人には分かっちゃうよ、この発情フェロモン」 「えぇっ?」  さらりと髪をかき上げられ、ドキっと胸を高鳴らせる。すると潤から「フェロモン出てるよ」と険しく見詰められた。  やはり自分では、それの放出の有無が分からない。おまけに潤は、α性にしか出せない怒りのオーラを纏い始めている。  見上げると、冷たい視線が下りてきて天の喉がヒッと鳴った。 「どうしたの、急に。母さんが来たから遠慮しちゃった?」 「い、いや……あー……。あの、……うん、そう……。潤くんに嘘は吐けないね」 「母さんの事なら気にしなくていいよ」 「でも……」  抱き締められ、背負っていたリュックサックをさり気なく奪われた天は、潤の言葉をあっさり呑むわけにもいかなかった。  ドロドロになった体を抱え、天が気を失っている隙にいつの間にか本宅の風呂にて清めてくれる潤も、相当に疲弊しているはずだ。  それにくわえて、ああして母親が怒鳴り込んできたという事は、天の存在を彼の家族はおそらく快く思っていない。  一応は潤より四つも年上なのだ。それくらいの推測は出来る。    だが結局、自身の発情期が原因で潤が嫌味を言われてしまう事までは考えきれなかった。  浮かれていたからだ。  潤の事が大好きだから、彼がこの身体を慰めてくれたら嬉しい……とにかくそれだけだった。 「でもな、そういうわけにはいかないじゃん。俺すごく軽率だった。潤くんに慰めてもらえるって考えたらドキドキしちゃって、ずっと心ここにあらずって感じで発情期前からうわついててさ、……潤くんは優しいから、俺が「慰めて」って言ったら何もかも投げ出してそばに居てくれるじゃん。潤くんはまだ高校生なのに、……わわ……っ」  今さらな説得を試みた天の臀部を、潤が鷲掴んだ。  そんな言葉は聞きたくないと零しながら、スラックスの隙間から手のひらを差し込まれ、今度は直に尻を揉まれる。 「また年下いじりする気? それヤダって言ってるよね」 「あっ、ちょっと……潤くんっ」  そうだった、と片目を細めた天を、潤の右手が犯し始めた。  尻を強く揉みしだかれて膝が笑った矢先、ほんの一時間前までぐっしょりと濡れていた後孔に中指を突き立てられる。  ヒッと再び喉を鳴らすも、左腕だけで天を抱く潤の力に抗えなかった。  潤は、単なる拗ねでこうはならない。  彼から放たれる、Ω性には覿面の怒りのオーラが強くなっていた。 「このフェロモン撒き散らしながら外に出たら、間違いなく天くんは知らない人に犯されちゃう。そういう危機感は無いの? 僕じゃない人に、ここ……好きにさせる気?」 「あっ……あっ……! 立ったまま、なんて……っ」  潤から挿れられた指先に喜んだ体は、すぐに愛液を湧かせた。弧を描くように後孔を回し拡げる潤の指先が、奥から湧き立つその愛液によって動きをスムーズにさせる。  怒りのオーラと、唐突に香った欲情のフェロモンに天の本能がかき乱された。  潤を思って「帰る」と言っただけで、自然的発情を待たずして欲に浮かされる。  彼の匂いが立つという事は、天も潤の全身を取り囲むほどのフェロモンを放っており、それを治めるには欲を満たすしかなかった。  フェロモン放出は自分では分からない。  どんなタイミングで、どれほどの濃度で、どれだけの人間を惑わす事になるのかも、天は知らない。  〝今がチャンスだ〟などと安易に外へ飛び出そうとした天の心に、潤が怒る原因となった危機感は皆無に近かった。 「そんなの僕が許すはずないでしょ」  潤の低い声にゾクゾクと背中を震わせた天は、くるりと体を反転させられスラックスをずらされる。  何も支えが無くなってしまい、両腕は後ろ手に潤の腕を掴むしかなく、後孔にあてがわれた愛欲の証に慄くも遅かった。 「あ、だめ、潤くんっ……だめ、……っあぁぁっ……!」

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