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おまけ

 おまけ  それから、さらに数ヵ月後の話。  一之瀬は、再び尋常じゃないくらいの眠気に襲われていた。  一日のほとんどを眠ってすごすほど。 「ぅぅ……篠宮」 「……眠いなら、寝ちまえ。今度は、守るから」  ぶんぶんっ、と首を横に振るも、一之瀬の意識はだんだんと落ちていく。  落ちる寸前、唇に触れたぬくもりに一気に目が覚めた。  パチッと目を開けると、すごく近くに篠宮の顔がある。 「……しの、みや?」 「起きてたのか……」  少し、照れたように体を離した篠宮だが、一之瀬は驚いてそれどころではない。 「……お前と、キスするの初めて、だ」 「そうだな、意識のある時にするのは初めてだな」 「……は?」  一之瀬が、篠宮をにらみつけると、篠宮はとても楽しそうに笑う。 「お前が気絶した後に、いつもしてた」 「……は、はぁあああああああああ!?」  ガバッと起き上がれば、あわてた様に篠宮が俺の体を支えた。  そうじゃない。 「何で起きてるときにしねぇんだよ!」 「お前が嫌がるかと思ってな」 「やる事やっておいて、嫌がるも何もねぇよ!」 「そう興奮するな、腹の子に障るぞ」 「誰のせいだ、馬鹿野郎!!」  枕をつかみ、篠宮を襲う一之瀬。  こんな、40代前半のおっさんたちが居ても良いのだろうか?  篠宮は、笑ってそれを受け止めると、一之瀬を再びベッドへと静める。  今度は意識がちゃんとあるのに、二人目を瞑り唇を合わせた。  ちゅっ、と言う音を立てて離れた後、クスクスとどちらからとも無く笑う。  この瞬間が、幸せと言うのかもしれない……。  終わり。  おまけのおまけ 「……おい、そう言えば秋津はどうした?」  数ヵ月後、一之瀬が子供を産み、屋敷へ帰ってきたときのこと。  渋い顔をして、見回した一之瀬は秋津が居ないことに首をかしげた。 「……さぁ?」 「お前はそれでも父親か!おい、お前ら知らないのか!?」 「いえ、今日も特には何も……」 「今日も?」  ぎろり、と一之瀬はそう発した使用人を睨み付ける。  ひっ、と使用人が息を飲む。 「おい、誰か秋津を呼び戻せ」  そう、一之瀬が言うと使用人たちはとっさに顔を見合わせ、最終的に篠宮の顔を見た。  その様子に肩を竦めた篠宮。 「とりあえず、そうだな。連絡とってやってくれ」 「……とりあえず、だぁ?」 「あんまり騒ぐな、ガキが起きるぞ」 「誰のせいだ!」  そう言いながらも、一之瀬の声は少し小さくなる。  そのまま、一之瀬は部屋に連れて行かれる。  この屋敷で、彼の居場所はあの部屋だからだ。  その後、結局呼び戻されたのだろう秋津が不本意そうにその部屋に顔を出した。 「何のようだよ?」  入り口から離れようとしない秋津に、一之瀬は眉をひそめた。 「こっちに来い」 「断る、何で俺が……」 「良いから来いって言ってんだろ」  ベッドの上に居る一之瀬は、強気な姿勢を崩さず、一之瀬は言う。  秋津は、仕方なしに一之瀬の近くによる。  その腕の中には、小さな赤ん坊。 「ほら、抱け」  そう言って、近くに来た秋津に無遠慮に手渡される命。 「お前の妹だ。せいぜい大事にしろ」  にやり、と不遜に笑う一之瀬に眉を寄せながら、それでもおずおずと己の腕の中に居る”妹”に目を向ける。 「俺は、お前の”家族”じゃねぇ」 「……なんだよ、アンタいきなり」  一之瀬は、秋津の言葉に黙って聞け、と言う。 「だがな、それはお前と半分でも血の繋がった家族だ。忘れるんじゃねぇぞ。それは、お前と対極なんだ」 「……なんで、俺が」 「それから、俺は少し寝る。その間、そいつ、天津の世話頼んだ」  だから、何で俺!?っていう秋津の声も聞かずに、布団を被るとすぐに眠りについてしまった。  よほど、疲れていたのだろう。  秋津は、そうして改めて己の妹である天津をまじまじと見る。  少し赤茶けている髪はきっと、一之瀬に似たのだろう。が、それ以外は自分とそして父である篠宮に似ている。  よく観察した後、傍にベビーベッドがあるから、そこに置いていっても良いだろうかとも考える。  が、タイミング悪く目を覚ましてぱちぱちと瞬きする天津に思わず秋津は一之瀬の部屋を出た。  何で連れて来たんだ、と秋津は内心頭を抱えたが、その目に見つめられて何もいえなくなる。  泣かれたらどうするか、と焦ってみるも、秋津を観察していたのだろう天津はきゃっきゃと笑い出した。  その笑顔にほっとして、息を吐く。 「あっ、あー?」 「いてっ、いてててて」  少し長めのサイドが気になったのだろう、天津は手を伸ばすとギュウッとそれを掴んで引っ張った。  当然、秋津にしてみれば痛い。が、楽しそうな天津を見ていると何もいえなくなる。  天を指すその名を、何を考えてアイツは付けたのだろう?と秋津は考える。 「なんだ、秋津。お前、天津の世話、押し付けられたのか」  しばらくして、帰ってきた篠宮に見つかった秋津。  その姿を見て、ほっと息を吐いてしまったのは黒歴史だろう。 「帰ってきたなら、受け取ってくれ」 「そいつは無理な話だな」  はぁ?と秋津は眉をひそめて篠宮を見る。 「天津は俺が抱くと、泣く」  そう言った篠宮はとても言い表せないほど、変な顔になった。  その顔に、秋津は堪えきれずプッと噴出し笑ってしまった。 「アンタでも、そんな顔するんだな。親父」 「どういう意味だ、コラ」 「そんな顔してっから、天津に嫌われるんだよ」  げらげらと笑い出した秋津。天津は泣き出すことなく、逆に楽しそうに笑っている。 「……っ、まぁいい。がんばれよ、妹の世話。少々、年は離れ過ぎちまったけどな」  そう言うと、篠宮は秋津の頭をおざなりにだけど、撫でた。  それが、何故かとても懐かしく、そしてうれしかった。 「……っ、アンタもがんばれよ。また、”パパ”だぜ?」 「うっせ、馬鹿息子」  そう言うと、篠宮は天津と、秋津の頭をもう一度撫でて背を向けた。  きっと、一之瀬の下へと行くのだろう。  前はその姿を見かけるたびにイラついていたが、何というか今は何の感情も向かない。  穏やかだ……。 「お前の、お陰か?」  天津……、そう問いかければ、まだ解らないだろう天津はそれでも笑っていた。  END

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