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第一章・5
バイトを終え、家路につく樹里の足取りは重かった。
家庭は、彼にとって居づらい場所なのだ。
父、母、高校2年生の弟。
三人ともαの人間なのに、樹里だけがΩ。
そのため、ファミリーカーストの底辺にいた。
父は、しばしば樹里に暴力をふるう。
母は、見て見ぬふり。
そして、弟は。
「兄さん、小遣いくれよ」
帰宅した樹里に、開口一番そう言ってきた。
「そんな余裕、ないよ」
高校を中退し、バイトを始めた樹里は一人前として、家に生活費を入れるように言いつけられた。
バイト代の10万円の半分、5万円。
交通費で月に1万は飛んでいくし、携帯の使用料や発情抑制剤の購入、そのほか雑費でぎりぎりの生活だった。
弟にお小遣いをあげる分のお金など、無いのだ。
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