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第九章・6
「樹里!」
「綾瀬、さ……」
痛い。
焼け付くような痛みが、樹里を襲った。
刺されたんだ、僕。
痛い。
痛いよう。
でも……。
「綾瀬さん、大丈夫、です、か……?」
「喋るな! 出血する!」
誤って樹里を刺してしまった店長は、尻もちをついて震えている。
樹里から流れ出る大量の血を見て、自分が仕出かしてしまったことにようやく気付いたのだ。
「とにかく、医者だ」
急ぎシャツを脱ぎ、それで仮の止血を施す。
野次馬が集まる間もなく、徹は樹里を抱えて車に飛び乗った。
シートが、見る見るうちに流血で黒ずんでいく。
法定速度を無視し、信号も無視し、徹は車を走らせた。
そして、毛利医院へ樹里を担ぎ込んだ。
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