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第九章・7

 徹に抱きかかえられながら、樹里は意識が朦朧としていた。 (僕、死ぬのかな)  でも、綾瀬さんが無事でよかった。  よかっ……、た……。 「樹里! 目を開けろ!」  徹は必死で、樹里に口づけた。   息を吹き込み、呼吸を促した。 「樹里、私の背中の竜を、今お前に吹き込んでるからな。だから絶対に、助かるからな!」  あぁ、あの、綾瀬さんの、竜。  綺麗、だよね。  もう一度、見たい、な……。 「綾瀬、そこまでだ。後は、俺が引き継ぐ」 「毛利、樹里を絶対に助けると誓え。死なせたら、ただじゃおかんぞ!」  初めて見る徹の剣幕に、毛利は驚いた。 (そこまで、このΩに入れ込んでいたのか) 「解った。その代り、協力してもらうぞ。輸血をさせろ」  先だって樹里が受診した時に、血液型が徹と同じ型だということは解っている。 「私の血、全部くれてやる。だから、絶対に助けろ!」 「全部はいらんよ。とにかく、地下へ」  ぐったりと力のない樹里を抱き、徹はエレベーターに乗った。  生まれて初めて神に祈りながら、地下の手術室へと降りていった。

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