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第1話
幼い頃、俺はあの方に会った。
アルファの中の、アルファ。血液検査など意味をなさない程の存在感、そして圧倒的な支配力。
アルファの頂点にも位置すると思われる、アルフレッド・A・ヴァイスヴィルド様。
名門であるヴァイスヴィルド家の、次期ご当主様。
「父様、俺あの人の傍に居たい」
とても、とても心が惹かれた。どうしても、何をしても彼の方の側に、居たいと思った。
言ってみれば、一目惚れだった。
「そうか、それは大変だぞ。あのお方は強いアルファだ。だから、お前も頑張らないと傍にも行けないぞ」
その言葉を聴いて、俺は必死に頑張った。あの人の、アルフレッド様の傍に居るために。勉強もスポーツも、完璧に仕上げて見せた。
それでも、あの方は俺の更に上を行く。だから、必死に追いつこうと頑張った。
全ては、あの人の隣に居るために。
少し大きくなると、二次性の検査を受けた。俺は、アルファで、両親はとても喜んでくれた。
アルフレッド様は、やっぱりアルファだった。当然だ、あの方がアルファ以外であるわけがない。
アルフレッド様がアルファだとしても、関係なかった。だって、父様が頑張れば傍に居れるって。だから、アルファでも良かった。
むしろ、能力が高いとされているアルファなら、よりあの人の側に居れると喜びもした。
けれど……。
「弟と、ですか……?」
俺の弟と、あの方が婚約をした。
番、なのだと言う。俺の弟は、現にオメガ性を持って生まれてきていた。
俺の、全く知らないところで二人は惹かれ合ったというのか?
オメガと、アルファだと言うだけで!
「何ですそれ、聞いてない」
「言ってないからな。お前には、驚かせようと思って黙ってた」
そう、口角を上げてニヒルに笑う目の前の方。
「祝って、くれるだろ?」
その言葉に、えぇ、もちろん、と引きつりそうな顔を引き上げて無理やり笑顔を作る。
そんな笑顔でも、アルフレッド様は安心したような顔をなさった。
俺など、眼中にないのだというように、弟との結婚を祝福させるという苦行を科しておきながら……。
何かが、崩れ去っていくような気がした。
「どういうことですか!?何で、何でルーがアルフと!!」
「お前もようやく聞いたのか、喜ばしいことだ」
慌てて家に帰り、父に問うと父はにんまり笑いながらこちらの言葉には一つも耳を貸さず、よいことだ、喜ばしいことだ、と言うばかり。
「だって、小さい頃父さんは!」
「何だ、嘘は言ってないだろう?お前は現に、あのお方の執事として秘書としてあのお方の傍に居るのだから」
そこで、ようやく俺の傍に居たいと言う意味と父の傍に居れると言う意味が違うことに気が付いた。
「違う、違う!俺が言ったのはそう言う意味じゃない!!」
「……何を言っているんだお前は。アルファの男同士で、何を望んでいる?」
俺の言葉に眉を潜めた父は、そう呆れたように言った。その表情に、俺は絶望した。
焦がれて、焦がれてようやく、傍まで行けたのに、あの方の隣に立ったのは、選ばれたのは弟だった。
泣きたくて、でもこんな親の前で泣きたくはなくて、俺に「お前もいつになったら結婚するんだ?」と言ってくる父の言葉に耳を貸さず、俺は部屋へと戻った。
戻る途中、ただいま、と無邪気な声で帰宅を告げる弟の声がした。
いつもなら、愛しいと思うのに、今はもう嫌悪しか感じなかった。
部屋で泣こうにも、隣は弟の部屋で、泣いてる声など聞かせたくなくて必死に我慢していたら朝になった。その頃には、気持ちを切り替えて、大丈夫、耐えられる、いつもあの方の傍に居るのは俺なんだから、と必死に言い聞かせた。
荷物を整えて、俺は母に挨拶をすると早朝にあの方の屋敷へと戻った。
一ヶ月もすれば、結婚式を執り行って、弟がこの屋敷に来た。
基本的に住み込みで、用が無い場合以外は帰ることの無いこの屋敷で、弟と鉢合わせることは多々有った。
けれど、それ以上に心を抉ったのは、あの方と弟が一緒に居て仲睦まじい姿を見かけたとき。弟の喘ぎ声が、響いてきた時。弟に何度殺意を覚えたか知れない。
正直、耐えられなかった。
今でも、きっとこれからもあの方のことは好きだ。
傍に居たい。俺だけ、俺だけを選んで欲しかった。でも、それはもう叶わぬ願いだから……。
「お暇をいただきたく、思います」
「……何を、言っている?」
執務室で、二人っきりの状態で俺は主に礼を取って告げる。
この数ヶ月で、自分でも上手くなったと思える笑顔で、顔を上げた。
「もう、引継ぎは済ませてあります。私一人居なくなったところで、問題は無いでしょう」
「そう言う問題じゃない。何が不満だ?言え」
鋭い目線が、俺を貫く。不謹慎だと思うのに、その目で見つめられることに、未だ喜びすら覚えるから、どうしようもない。と内心で自嘲した。
「不満など……、ただ、頭を冷やしたいと思っただけです」
「それなら、数ヶ月の休暇で十分だろ。辞めなくても……」
「いいえ。もう、戻るつもりは御座いません」
俺は、内心何故こんなに引きとめられるのか、と心を揺さぶられながら、首を振った。
そんな俺の態度に、アルフレッド様は珍しくチッと舌打ちをした。
「不満が無いなら何故辞める?」
「貴方様に御話できることではありません」
きっぱりと告げると、俺はその態度を崩さない。
俺が折れないことが分かったのか、もう一度舌打をした。
「いつ、辞めるつもりだ?」
「引継ぎ事態は終わっていますので、明日にでも」
急すぎる、と彼は言ったが、しばらくして解かったと頷いた。弟との結婚の話を、ひと月前それも執事としてこの家の一切を仕切る俺に隠していたのだから、御相子だと思ってほしい。
それに、この様子だと新しく雇った人材がいる事にも気が付いていなかったのだろう。ちゃんと報告書は上げていたというのに。全面的に任されて信頼されているのは分かるが、それでも、だからこそ余計に辛い。
俺は、明日の準備がありますので、と執務室を後にした。
部屋に戻ると、必要なものや私物で居るものだけをカバンに詰めた。
と言っても、殆ど前もって準備していたために、入れるものなど何も無かったが。
仕事を終え、俺は執事服を脱ぐとそれを、クローゼットにかけた。
そこには同じ型の執事服が後数着。コレをもう、着ることは無いのだと思うと、少しだけ寂しく思いながらも、その扉を閉めた。
次の日、朝早く俺はカバンを持って、屋敷の門の前に立つと、一例をしてからタクシーに乗り込んだ。
家には帰らず、田舎に買った家を直接目指した。
お屋敷の仕事は、とても割が良く、そして殆ど住み込み状態のため家賃も光熱費も給料から天引きされていた。それも微々たるものだが。
それに加え、俺に趣味と言う趣味は無いため、お屋敷に勤め始めてから貯金はたまっていく一方だった。唯一趣味、と言えたものはおかしいかもしれないが、アルフレッド様の側に居るために頑張ることぐらいだろうか?
少し、支払いは残ったものの、平屋の庭付き一軒家を買えたことは幸いだった。お屋敷をやめたとて、実家には戻りたくなかったから。お屋敷を退いた事も、俺はまだ両親にも話してはいない。
携帯も解約してしまったため、この身を縛るものが何もなくなり、本当に自由だと思った。
しばらくは、家に着いて片付けも疎かに、泣き暮らしだった。
悔しくて、苦しくて、惨めで、そんな自分が愚かで、どんなに泣いても涙が枯れる事が無かった。
数日して、部屋の片づけを何とか終えると、夜に思い出して泣くことは有っても、昼間はぼんやりと過ごすようになっていた。
家事をこなし、炊事をしてしまえば、やる事が無く暇を持て余すようになる。お屋敷では、沢山の仕事があって暇なんて無くて、むしろ時間が足りないくらいだったのに。
ふと、目を向けたのは庭先。雑草だらけで、この家を外から見て無人だと思わせる要因にもなっている場所だ。
少し考えてから、庭の草むしりを始める。
大きな草は、鎌で刈り取り、小さな草を地道にむしった。ただ、無心で。
そうして綺麗になった庭に、一本、木を植えた。小さな木の苗がそこに植わっている事は何故だか少しおかしくて笑ってしまう。
庭の少し日当たりのいい場所へ、家庭菜園を作った。一人で管理できるくらいの大きさで、トマトやナス、キュウリを植えたり、少し離れた場所にハーブなんかも植えてみた。
季節の花々も、庭の邪魔にならない場所へと植えて行き、しばらくすれば閑散としていた庭がにぎやかになった。
俺は、そうした雑務の間に友人から紹介してもらった家で出来る簡単な仕事を庭を眺めながらする。
時にパソコンに向かって、色々なプログラムの構成をチェックしたり、動作確認をしたり。
まぁ、その時々によって仕事は様々だったけど。流石に、針と糸でもって、千枚近くずっと縫物をしていた時には、目が疲れた。
「・・・見つけた」
それから、数ヶ月、暮らしも安定してきた矢先のことだった。
チャイムが鳴って、誰かと思いながら玄関を開けると、あの方が、アルフレッド様が目の前に現れた。
驚きでヒュッ、と喉が鳴る。
「なっ、何故・・・」
両手で口を押え、手放したドア。自然に閉まりそうになったそれをアルフレッド様が止め、ドアの間に体を滑り込ませてしまう。
ハッとしたときには、ドアを閉めて追い出すこともできない状況になってしまっていた。
「探した、帰るぞ」
エド、と久方ぶりに呼ばれたその名に、心が、ドクッと脈を打つ。
「かえ、りませんっ、わ、たしは」
上手く、息継ぎが出来ない。呼吸の仕方を忘れてしまったかのように、荒く、せわしない。
「お前でなければ駄目なんだ。てっきり、他の会社に引き抜かれたのかと思ってたが、そうじゃなかったみたいだったしな」
伸ばされる手を払い、後ろに後ずさった。体がガタガタと震える。
なお、近づいてくる彼の一歩に、一歩一歩と後ずさる。
玄関の段差に躓き、ドサッと後ろへ倒れこむ。それでもなお、足は逃げようと後ずさる。
「庭弄りがしたいなら言えば良かったんだ。家の庭を貸してやったのに」
と、俺の作った庭の方を見て言う。にっこりと差し出された手を取る気にはなれない。
アルフレッド様の言葉に違う、そうじゃない、と俺は何度も首を振った。
「じゃあ何だ?何故、俺の傍から離れる必要がある?もう、十分だろう?」
十分、自由な時間を与えてやった、とアルフレッド様は言う。
「貴方様には解かりません。お帰りください」
ギュウ、と目を閉じ、拒否を口にする俺に、彼がイラつくのがわかる。
舌打ちが再び聞こえてきて、震えてる腕を掴まれた。
拒もうとしても、力加減を忘れたそれは、痛くて振り払うことが出来ない。
「イタッ!」
「いいから、俺が帰って来いと言ってるんだ。ほら、帰るぞ」
「わたっ、俺はもう貴方の使用人じゃありません!!」
渾身の力で、振り払うとゼーゼーと息をついた。
俺はもう、アルフレッド様の使用人ではないのだから、礼を払う必要はない。その事を知らしめるように言えば、何を当然な、とでも言いたげな彼と目が合う。
「・・・それがどうした?お前は、俺のものだろう?」
そう言った彼の瞳は、酷く冷たくて身震いを覚えた。
そして、知る。やはり、彼は自分よりも上位種のアルファであると。
それ故に、体も心もその命に従おうとする。本能が、従えと叫ぶ。
「お前を、あの屋敷から出したのは失敗だった」
何カ月も、見つけられなかった。と悔しそうに舌打ちをした彼。
「監視役を付けておこうと思っていたのに、お前はあの日の早朝、屋敷を出て行って行方知れず。俺が、どれだけ後悔したか分かるか?せめて、一日引き延ばせばよかったと何度思ったか」
「なに、を・・・」
彼の言葉を理解できるが、理解したくなくて呆然とする。
彼は、一体、何を、言って、いる?
俺に、監視?なぜ、俺を監視する必要がある?
それ以前に、どうして彼は俺を探していた?
帰る?どこへ?
俺じゃなきゃダメだと、アルフレッド様は言った。一体、なぜ?俺はちゃんと引き継ぎも済ませてきたはずだ。
何が、ダメ、なんだ?
「……これ以上は余計なことを考えすぎるな。」
はくはくと、唇を動かすも言葉なんて、出てこなくて、変わりに涙が溢れた。
そんな俺を見て、アルフレッド様がふっと笑う。そして、何かを口に含んだアルフレッド様のお顔が近づいてくると、俺の意味もなく開閉を続ける口をふさがれた。
ハッとして、抵抗しようと試みるものの、中に入ってきたアルフレッド様の舌を、そもそもアルフレッド様を傷つける事が出来ない俺は、噛みつくことすらできず、ただ弱弱しい抵抗の中、蹂躙されるのを受け入れるだけだ。
そうして、中に入ってきたのはアルフレッド様だけではない。アルフレッド様の舌によって押し込まれたものを、唾液と一緒に嚥下してようやく口が離れた。
途端、俺の視界は涙が溜まったようにブレて意識も薄れてきた。
「……次に目が覚めた時には、ヴァイスヴィルドだ」
悲し気に笑うアルフレッド様を最後に、俺の意識はぷっつりと途切れた。
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ヴァイスヴィルド、とはアルフレッド様の家名だけではない。その土地そのものの名前だ。
ヴァイスヴィルド家が治める土地、として今はヴァイスヴィルド地区がある。
「おれ……」
目が覚めて見れば、見覚えのある部屋。そこは、屋敷で俺があてがわれていた部屋、だった。
「お目覚めですか、エドガー様」
声のした方へ慌てて目を向ければ、俺がこの屋敷の次の執事として引継ぎをしたレイモンドが頭を下げた。
「レイ、モンド……」
「お久しぶりでございます、エドガー様」
ニッコリと笑って近づいて来たレイモンドは、俺に近づくとまるで主にするかのように着替えを手伝い始めた。
俺はその手を叩いて退ける。
「エドガー様……アルフレッド様のご命令です、どうかお諦め下さい」
「……なぜ、俺がこんな目に?」
レイモンドに言っても詮無い事は分かっている。ただ、それでも言わずにはおれなかった。
少し困ったような顔をしたレイモンド。
「……アルフレッド様は、エドガー様にこの部屋から一歩も外に出ないようにとの仰せです。何か御用の際はどうぞそちらの鈴を鳴らしていただければ、私が参りますので」
礼を取ったレイモンドは、そのまま退室して鍵を閉めていった。
部屋は少し改装されているみたいで、その扉に内側から開くような鍵は無い。それに、鍵穴すら、見当たらない。
ベッドから下りて、窓に近づいてみる。窓を少し強めに叩いてみて分かった。このガラスは、割れない。
そして、何より窓から鍵が無くなっていた。前は上に開く仕組みになっていた窓は完全なるはめ込み式に変わっている。
ドサッとベッドに腰を下ろして、頭を抱える。
ここまでして、俺をこの部屋に捕らえた意味は一体何なのだろう?
俺は、ヴァイスヴィルド家にとって有益な人材とは、言い切れないだろう。確かに、アルフレッド様の奥方は俺の弟だ。
だが、それだけでここまでされるとは思わない。たとえ、弟が頼んだとしても。
そこまで考えていて、ガチャリ、と言う鍵の開く音で意識がそれた。
扉に目を向けて、入ってきた人物に目を見開く。
いや、ある意味予想できていたのかもしれない。
「……アルフ」
「久しいな、お前がそう呼ぶのは」
ニッコリと笑いながらベッドに近づいてくるアルフレッド様に、俺は無意識に体を固くする。
そんな俺に苦笑しながら俺の隣に腰を下ろしたアルフレッド様は、足を組んで俺の事をのぞき込んできた。
「どうして、何で、が尽きなさそうな顔をしてるな」
当たり前だ、と言う意味を込めて俺はアルフレッド様を睨む。
「俺は、俺がなぜ今ここに居るのか全く理解できていない」
「俺がお前を必要として、此処に連れて来た。シンプルで分かりやすい答えだろう?」
隣にいるために、避ける事すらできず、頭を撫でられる。同い年なのに、なんだこの扱いは。
抵抗もしないでいると、気を良くしたのか、肩を抱かれて引き寄せられる。
「アルフは、俺に何か興味ないはずだろ?どうしてっ」
「……鈍感も、ここまでくれば何とやら、だなっ」
ドサッ、と話している途中でベッドに引き倒された俺は、背中を少し打って息を詰める。
眼前には、アルフレッド様が迫ってきていた。とても、面白くなさそうな顔をして。
チュッと音を鳴らして、軽く触れた唇が離れていく。
俺はそれをただ、呆然と見守る事しかできない。
「俺は今からお前を抱く」
「なに、を……、俺は、アルファ、ですっ」
そう、自分で言っておきながら、アルファである事を、彼には選ばれない人種ことを改めて実感して唇を噛んだ。
それを咎めるように、アルフレッド様の指が唇をなぞり、口腔内へと侵入してくる。
「……お前はただ、何も考えず俺だけ見てればいい」
そうして、襲い掛かってきたアルフレッド様に、俺は抵抗らしい抵抗は出来ないで、なすがままにされていった。
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「んっ……あっ、あは……っ、んっぅぅっ!」
体の中を、後ろから被さってきているアルフレッド様の物が緩急をつけて行き来する。
どれだけ訴えても、この行為が止められることは無い。
すでに、何度かアルフレッド様の子種をこの身で受けている。下腹部が重く、くるしい。が、アルフレッド様のモノが抜かれることは無い。それに、今はオメガの発情期でもないのに何故か、アルフレッド様が出すたびに俺の後孔は亀頭球により限界まで広げられて、子種は出口を無くしたまま俺の中に蓄積されていく。
こんっ、と奥を突かれただけで、この数時間で替えられた体は快楽を正直に受け取り、跳ね上がる。
唇を噛んで、声を抑えようとしたが、その度にキスをされたり、指を銜えさせられたり、耐えきれないほどの快楽を与えられたりして、抑えきれない。
「あっ……、だめっ、そこ、そこ、は……あぁっ!?」
コンッと最奥を押され、その奥に入り込もうとしてくるアルフレッド様に、いやいや、と首を振った所で受け入れてもらえない事など、もう分かり切っているのに。
「……アルファだから、無いはずなのに、な?」
子宮みたいだ、と笑うアルフレッド様だが、俺に反応する余裕はない。
頭がバカになりそうなほどの快楽を受け止めるので精いっぱいだ。
ぐりゅ、ぐりゅ、と何度も何度も、そこに入るぞ、と言われるようにアルフレッド様のモノで突かれ、その度に、ひっ、ひっ、と情けないような声が漏れた。
そうしている内に、少しだけそこからアルフレッド様のモノが離れた。その事にホッとした瞬間……っ
「あっ……、あひっ、ああっ、ひっあああっ!」
気が緩んだ隙に、勢いをつけてソレそこに侵入してきた。
一瞬、何が起きたか分からなくなって、息の仕方さえ忘れていたように思う。
これだけでも、もう刺激が強いのに、そのまま、何が楽しいのかアルフレッド様は俺の腰を掴んでゆっくりとそこから抜けないように揺すってくる。
それだけの刺激なのに、いっぱいいっぱいになる程気持ちがいい。
「気持ち、よさそうだ、なっ!」
「ひぃっあっ、やぁっ!!」
他にも伸ばされてくる手から、必死に逃げようともがくけれども、アルフレッド様によって連れ戻されて抵抗を封じられてしまう。
そうじゃなくても、もう自分で腰を上げている事など出来ずに、アルフレッド様に支えてもらっている始末なのに。
「あふっ、あっ、だ、めぇ……っ」
「何が、だめ、なんだ?」
「もっ、だめっ、お、おかし、おかしくなう……」
ひぃひぃと叫び続けている俺に、気を良くしたのか、にやりとアルフレッド様は笑う。
「あっ、あっ、あっ」
「一緒に、な?」
抱かれ始めてから一度も触れられなかった、俺のモノへとアルフレッド様の手が伸びる。
触られていなくても、既に何度か達しているそれはもうドロドロだ。出しすぎて、もう半端にしか立ち上がってないのに、楽しそうにそれを扱くアルフレッド様。
俺にとっては、拷問にも等しいほど、狂おしい快楽が襲って来る。
やめてほしいが、アルフレッド様を止めようと俺のモノを掴んでいる手に、手をかけるが力など入らず、ただ添えるだけ……よりも、よりおのれのモノの状態が分かって恥ずかしさも倍増しているんじゃないかって位だ。
アルフレッド様が俺の項をオメガを番にするときのように噛み、苦しいほど出された中にさらに子種が出されたことが分かる。
それと同時に俺のモノを握る手にも力が込められて、俺は達した。
亀頭球が出来るほどの射精は、信じられないくらい一回一回が長い。
俺は、もれる事のないそれが溜まっていくのを感じながら、意識を手放した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆
目が覚めてみれば、夕方で一人ベッドの上に取り残されていた。
ぼんやりとしたまま、体を起こす。いや、起こそうと、した。
けれど、酷使された体は言う事を聞かず、起き上がる事、それ以前に動くことすら不可能だった。
「……っ!?」
体はさっぱりしているのに、動いたせいか、中からドロッと溢れて来る感覚がして体が強張る。
その所為で、余計な力が入り、更に流れ出してきたから頭の中はパニックになりそうだった。
意識がだんだんはっきりしてくると、下っ腹はまだ張ったような重苦しく、わずかに下肢を動かすたびにぐちゃ、ぐちゃ、と嫌な音を立てる。
その感覚が嫌で、どうにかこうにか上体を起こしてベッドの端のナイトテーブルへと手を付いた。
が、手が滑り、その上に乗っていたベルをふっとばしながらベッドから転げ落ちた。幸い、シーツも足に絡まるようにして落ちたために全裸ではないが。
ベルの激しく鳴り響いた音を聞いて、ガチャガチャ、と慌てたように扉が開いた。
「エ、エドガー様!?」
入ってきたレイモンドは、焦ったような顔をしていて悪い事をした、と一瞬思ってしまう。
「れ、いもんど……すまない、手を貸してくれ」
酷く掠れ、ほとんど出てない声に、眉を顰めながらもレイモンドへ手を伸ばす。
レイモンドは明らかにほっとした表情を浮かべて、俺の手を取った。
ベッドへと連れ戻そうとするレイモンドへ首を横に振ると、力のあまり入らない手を上げて浴室を指さした。
が、レイモンドは今の状態だと危険だと判断したのだろう、俺は再びベッドへと戻る事になる。
「レイモンドッ!」
かすれた声は、どうにかこうにか形にはなったが、レイモンドは首を横に振った。
「申し訳ございませんが、今のエドガー様では少しばかり危険すぎます。身を清めたいのであれば、今蒸しタオルをご用意いたしますので」
「あまり無茶を言って、レイモンドを困らせるものじゃないな」
酷く鳴り響いたベルの音を聞いてか、アルフレッド様が扉にもたれてこちらを見ていた。
そのにやり、と笑った顔を見た瞬間に、顔に火がともるのが分かった。
レイモンドは静かにベッドから離れて、蒸しタオルを作りに行ってしまう。
必然的に、この空間に二人っきりになってしまう。
「アルフ……」
睨みつけてから、ハッとして俺は顔を逸らす。今できる抵抗と言えば、それぐらいしかない。
「無茶をさせたから、な……」
近づいて来たアルフレッド様は、俺の頬に手を当てて、まるで愛しい人を愛でる様に撫でる。
俺の頬に触って、けれど無理やり自分の方へと向かせるようなことはしてこない。
……アルフレッド様は何がしたいのだろうか?まさか、番がありながら、俺の、弟が居ながら……俺を抱くなんて、思いもしなかった。
完璧なアルファ、なはずのアルフレッド様が、アルファでも足元にも及ばない存在の俺を、同じアルファなのに、抱く、なんて……。
考えているうちに、ナイトテーブルに乗っていて、辛うじて落ちなかったピッチャーからコップに水を取り、含んだそれを口移しでアルフレッド様に飲まされた。
口移しで、少し温くなったそれは、それでも乾いた喉を潤して行ってくれる。染みわたるようなそれに、ホッと息を吐いた。
何度か、口移しで水を貰っている間に、レイモンドが帰ってきてアルフレッド様へ蒸しタオルを渡す。それと同時にナイトテーブルにお湯の張った洗面器も置いて、レイモンドは退室していった。
「さて……」
そう、言って差し出された手が向かう場所は、散々アルフレッド様が出入りしたところだ。何のためらいもなしに、二本の指が根元まで突っ込まれる。
ビクビクっ、と体が跳ねて、歯を噛みしめた。
「……っ!?」
「柔らかいな」
クスクスと笑うアルフレッド様に、何か言い返せる余裕もなく、体を跳ねさせながら、思わずアルフレッド様に抱きついてしまう。
どのくらい眠って居たのかわからないが、あれだけされたのだ。柔らかくて、当然だとも言い返したいけれど。
「ぅっ、くっ……」
中の良いところを擦る度、ぴくっ、ぴくんっ、と腰が跳ねる。その度に声を押さえようと唇を噛む。
どれだけ出されたのだろう?
結構な量がかき出されても、まだ中から溢れてくる。
ある程度かき出され、溢れなくなった所で股を冷めたタオルで拭われ、俵抱きのように抱えられ、浴室へと移動させられた。
そこから先は、あまり詳しく話したくない。
簡単に言えば、中を洗われたついでに一発……処ではなく、四回……位、犯された。
一度気絶して、起こされたから正確に何度とは覚えてない。
気が付けば、再びベッドの上だった。今度はすぐに目が覚めたのか、アルフレッド様が俺を見下ろしながら頭を撫でていた。
揺ったりとした動きではあったけど、それを払う。せめてもの意思表示だったにも関わらず、再びその手は戻ってきた。
「エド……俺から、逃げられるとは思うなよ?」
俺の顔を己に向けさせると、アルフレッド様にキスをされた。
触れるだけで離れてしまう、キス。
愛を確かめ合う行為のはずなのに、そんな言葉も態度も、一切感じさせない。
有るのはただ、支配と蹂躙だけ……。
元の関係にも望んでいた関係も、もう二度となれはしない。
「お前は……お前だけは、俺だけのものだ」
そばを離れることなど、もう二度と許さない。
そう、悲しげに笑うアルフレッド様。アルフレッド様の執着が、何故俺に向いているか解らない。アルフレッド様に何があったのかも。
けど、俺も大概馬鹿だと思う。
二度もアルフレッド様にそんな顔をされて、彼を放って置けないのだから。
「アルフ……、解った。お前の望む限り、俺は……」
歪んだアルファの執着が何を生むのか。そんなの、誰にも解らない。
俺は、ダルい両腕を動かしてアルフレッド様の顔を両手で挟む。
アルフレッド様の顔をまっすぐ見て、俺は仕方がないな、と言う様に笑った。
「俺だけは、側に居てやるよ」
お前だけの、俺であるように。
終わり
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