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おまけ1
side:レイモンド
エドガー様は、あの部屋を元の部屋だと思っているようだが、実は違う。内装も、窓から見える景色も全て前の部屋と寸分違わぬ様に作られた全く別の部屋だ。
アルフレッド様によって前々から作られていた、エドガー様を捕らえて逃がさないようにするための、檻。
実際、あの部屋にはベータである使用人か、アルフレッド様と私以外は近づいてはならないと、アルフレッド様より達しが出ている。また、アルフレッド様と私しか部屋の鍵を持ってはいない。
私自身、アルフレッド様に信用されているらしい。
私は赴任して一ヶ月を過ぎた頃、アルフレッド様と少々ばかり境遇の話をした。そこで聞いた、幼い頃からの病気なのだと。
バース外来による診断名“アルファフェロモン依存症”。俗称、“アルファ狂い”。
アルファのみがかかる、奇病。アルファであるのに、オメガのフェロモンよりもアルファのフェロモンに溺れる病気。
原因は解っていないため、治療法も確立されていない。
ちなみに、エドガー様はこの事を知らない。
アルフレッド様は、私に話をしたとき、こうも言った。
『お前のフェロモンも、私には感じることが出来る。だが、エドほど俺を満たしてはくれない』
空虚に語るアルフレッド様に、私は何も言えなかった。
アルフレッド様は確かにエドガー様が要らしたときは常に満ち足りた、とてもアルファらしいアルファだったが、今はどこかぽっかりと穴が開いてしまっているかのような、空虚さがある。
その時、アルフレッド様は語った。必ず、エドガー様を連れ戻す、と。
戻られたエドガー様を見て、満たされない訳が解ってしまった。
アルフレッド様に惜しみ無く、一途に注がれるエドガー様の心。それこそが、アルファのフェロモンを通してアルフレッド様に伝わり、アルフレッド様を満たすのだろう、と。それは決して、私では成し得ないこと。ならば、主のために精一杯エドガー様にも尽くそうと心に決めた。
エドガー様が守っていらしたこのお屋敷は、本当に素晴らしい。
「レイモンド、あの棟に行ってみたいなぁ」
「申し訳ございませんが、アルフレッド様より奥方様の立ち入りを禁止されております」
この方さえ、居なければ。
確かにオメガとして、愛くるしい方だとは思う。エドガー様の弟君と言われれば少し似てなくもない。
けれど、私はこの方が嫌いだ。
アルフレッド様のお世継ぎを産むためだけの存在の癖に、アルフレッド様に媚を売るしぐさなど、見ていて腹が立つ。愛されていると勘違いでもしているんじゃないだろうか。
アルフレッド様が真実愛し、必要としているのはエドガー様だけだ。
エドガー様が、真のこのヴァイスヴィルド邸の奥方だと、あの部屋に近づける使用人なら誰もが知っている。
アルフレッド様が決めた事だから、我々は反対しないし出来ないが、それでも、この方に仕えると言うのは、苦痛である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
side:アルフレッド
エドガーをようやく見つけて、屋敷に連れ戻すことが出来た。小さなころから俺のためにと一生懸命努力している姿が、微笑ましく、そして好きだった。
俺の体は、オメガのフェロモンには反応しない。俺が唯一欲情するのは、エドガーだけだ。
エドガーだけが、俺の唯一の番だと思っているのに、思っていたのに。蓋を開けてみれば、俺もエドガーもアルファと言う性。
俺がおかしいのかと、一度医師に診てもらった事もある。そこで下された病名。世界のアルファの中で、かかる者は百年に一度、一人居るか居ないかの奇病、アルファ狂い。
だから、俺はエドガーと似ているルードを娶った。ルードは知らない。俺が、アルファ狂いだと言う事を。
ルードと何度かしたものの、やっぱりエドガーのフェロモンが無ければ俺のモノは反応しなくて。否応なしに、俺はエドガーの部屋の近くにルードを連れ込んで犯した。
頭の中では、エドガーを無茶苦茶に犯しながら、現実では、弟を。
けど、エドガーは俺の手の中に帰ってきた。誰にも知られず、エドガーの実家すら知らず。そっと、俺の腕の中に。
エドガーを探している間に、ルードが身ごもった。これ以上、ルードを抱く必要がなくなったと言うわけだ。
まぁ……アルファ狂いの俺の番として一生を強いるのは酷だと思って、何度となく理由を付けては番になる事を避けてきた。
だから、ルードとは子供が生まれたら離縁する。いや、するしかない。クーリッドから、俺はエドガーを奪う。しかし、そうすればクーリッド家の後継ぎが居なくなってしまう。
だからこそ、ルードをあの当主へと返す。その方が、ルードもきっと幸せになれるだろう。
こんな異常者の元にいるよりは。
ルードは俺が好きなのか、それは俺にもわからない。ただ、だとしても俺はルードに応えることは何一つ出来ない、という事だけだ。
今日も今日とて、仕事終わりに俺はエドガーの部屋を訪れる。
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