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「あ……あぁ、んっ……あ、あぁ……っ」
好きでも何でもない相手に抱かれても声って出るもんなんだな。
まあ、男も女も物理的に刺激を与えられれば嫌でも体は快感を求めてしまう。
それがより顕著だと思うのは俺の体……。
会社帰りにフラッと寄ったバーで、はたまた営業先で会った課長さんだったり、その夜の相手は皆違っていた。
あの部屋に帰る前に体の中に渦巻く熱を吐き出しておきたい――ただ、それだけの理由。
一度きりと割りきっても後々まで口説いてくるヤツもいる。
そういうやつには決まってこう言ってやる。
「アンタには恋愛感情持てないから」
誰に抱かれていても心は空っぽのまま……。
満たされない想いを抱えながら、俺は名前も知らない男の背中に爪を立てる。
やりきれない自分の怒りを、快感にすり替えて相手にぶつける。
(最低だな……)
貫かれた後孔から沸き上がる熱が冷めきった頭の中の感情と混ざり合い、さらに自分を先の見えない闇へと堕としていく。
「あ、あ……っ、イ…イクッ!あぁぁぁんっ」
ギュッとしがみついた腕が自分の求めている者でないことに気づく瞬間、最奥に放たれて果てる彼の重みを感じて、また絶望する。
「ハァ…ハァ……良かったよ、すごく……」
「退けよ」
「え?」
「さっさと退けって言ってんの!」
半ば強引に相手を押し退けてベッドから降りると、黙ったままバスルームに向かう。
歩くたびに後孔から流れ出す精液が気持ち悪い。
(これがあの人のものだったら……)
まだ熱を持って疼く蕾、そっと指先で触れて小さく喘ぐ。
あり得ない……。
いくら自分が抱いている想いであってもそれを口にすることは許されない相手。
熱いシャワーを頭から浴びながら、目を閉じる。
「苦しいよ……。胸が……痛い」
いつからそう思ったのか分からない。気がついたら彼の事を好きになっていた。
決して悟られないように、胸に仕舞い込んできた想いがここ数ヶ月の間に一気に膨れ上がり、俺を苦しめている。
恋に落ちるのは一瞬だというが、俺の場合は長い年月を経て気付いた想いだけに苦痛を伴っている。
しかも、一緒に暮らして毎日顔を合わせていれば尚更だ。
苦しいのに会いたい……。
あの顔を見ているだけで安らげる。
こんな安っぽいラブホテルにもあの男にも未練はなかった。
いつもより念入りに泡立てたスポンジで体を洗い、見知らぬ男の痕跡を消していく。
そして、気持ちばかりの禊 を済ませた俺は唇をきつく結んだままバスルームを出た。
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