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第4話 開発日誌:前立腺について 1

―――――――――― 蓮くんに見た目をプロデュースされた僕は、週明け登校した途端 見事に世界が変わってしまった。 今まで見向きもしなかった女子たちが突然話しかけて来るし、僕なんか相手にもしてなかった男子たちが親しく接してくる。いい事ばかりではなくて、何にもしてないのに睨まれたり舌打ちされたりもあるけど。 一番大きな事件が起きてるのは、今まさにこの瞬間だ。 「中谷(なかたに)って、彼女いる? いないならさぁ、あたしと付き合って♡」 昼休みに廊下に呼び出されたと思ったら、突然の告白。しかも相手は学年カースト上位のユカちゃん。 「え・・・、なんかの罰ゲームさせられてるとか・・・?」 じゃなきゃカースト最下層の僕なんかに「付き合って」なんて言うはずない。 「なわけないじゃん。今まで中谷のカッコ良さに気づかなかっただけ~。みんなそうだよ。だから誰かに盗られちゃう前に、告っちゃおっかなって」 カワイイし、可愛いしかないユカちゃんの笑顔。この顔に言われて断る男なんているわけが無い。 「あ・・・、じゃあ、ヨロシクオネガイシマス」 「やった♡ 今日から一緒に帰ろうね♡」 放課後、と言ってユカちゃんは自分のクラスへと帰って行く。 ・・・は? ・・・えっ? 僕、ユカちゃんの彼氏? 信じられない。ただ髪を切ってコンタクトに変えただけで? 蓮くん、あなたは魔法使いか何かですか!? ふわふわと足が浮いたように舞い上がって、興奮状態のままであっという間に放課後に。 僕の教室まで迎えに来たユカちゃんと共に、羨望なのか嫉妬なのかわからないクラスメイトの視線に見送られながら学校を後にする。 「デートしよ♡」 ユカちゃんに誘われるままに直行したのはラブホテルで、制服のままでヤバイんじゃ!? とビビる僕を完全無視で、あれよあれよという間にユカちゃんのリードでそういう流れに。 あっ、あっ、・・・ああ~~~~・・・ 駅までユカちゃんを送ると 「また明日ね、バイバイ♡」 可愛い笑顔で手を振って改札を通過して見えなくなる後ろ姿。 僕はついに、今日、大人の階段をひとつ登ってしまった。キス、しかも軽くないやつ、からまあその色々とあって、からの まぐわり・・・ ってか今日一日で人生の運を全て使ってしまったのではないだろうか!? はっ、まさか夢!? 髪を切ってコンタクトに変えただけで、可愛い彼女ができて速攻で童貞を卒業してしまうなんて、こんなに都合のいい現実があるはずないんだ。 自分で自分の頬を思いっきり打ってみる。 バチンッ と大きな音がして、周囲の知らない人達がおかしなヤツを見るような目で僕を見てるし、めちゃくちゃ痛い。 「夢、じゃない・・・たぶん」 ああ~!なんって事だ。蓮くんの尻を少しほじっただけで、僕の人生が一気にマイナスからプラスに・・・!振り幅が大き過ぎて、童貞を捨てた実感がまだ湧かない! 叩いた頬は確実に痛いけど、やっぱりまだ信じられなくて。さっきまで見てたはずのユカちゃんの裸やきっと可愛かったであろうキス待ち顔すらボヤけて思い出せない。 なんだかよくわからない高揚感で歩き出せなくて駅前のベンチに腰を下ろし、行き交う人達をぼーっと眺める。 その中で一際目を引く美人顔が目に入り はっと息を飲むと、偶然にもそれが蓮くんだということに気付いて、僕は咄嗟に彼に駆け寄る。 「蓮くん!」 驚くわけでもなく視線をこちらに向ける蓮くんと目が合って、改めてすごく僕好みの顔の造形に若干胸が高まってしまう。 「おー、奏汰。今帰り?」 「うん。蓮くんは?」 「今からバイト。お前早く帰んなくていいの?もう18時まわってんぞ」 蓮くんは僕を子供扱いして「ふっ」と口元を緩ませる。 フッフッフッ・・・もう僕は子供じゃないんだよ、蓮くん。あなたのおかげで立派な大人になったんだよ。 「あのさ僕、彼女できたんだ。しかもめっちゃ可愛い子」 「良かったな。じゃあ童貞卒業も近いじゃん」 「うん。実はさっき卒業したんだよ」 だから、蓮くんの尻の開発にも大いに貢献できると思う。 「そっか。おめでと。卒業証書やんなきゃな。じゃあ俺行くわ。気をつけて帰れよ」 「あ、うん。またね」 駅の前を通過して飲み屋街の方へと消えて行く蓮くんの背中。とその横に蓮くんより少し背の高い男の背中。 蓮くんしか目に入らなくて誰かと一緒だったなんて気付かなかった。 バイト、ってことはあれが例の先輩? なんだろ。さっきまで童貞卒業とか舞い上がってたのに。今僕の心は信じられないくらい冷静だ。 ユカちゃんはカースト上位ですごく可愛いのに。 蓮くんを見れば、やっぱり彼の方が綺麗で可愛いと思ってしまう。幼い頃から刷り込まれた蓮くんのハイスペックビジュアルが邪魔をして、僕は相当な面食いになってしまったに違いない。 家までの帰り道は何故か気が重くて、今日一日を振り返って思うことは「財布にホテル代が払えるくらいのお金が入ってて良かった」だった。 早く蓮くんに童貞じゃなくなった僕を見せたい。今度は痛いだけじゃなくて、気持ちいいって思ってもらいたい。そんな風に思っていた。 それから蓮くんの家に行く約束をしている日曜日まで、僕は毎日ユカちゃんとセックスをした。さすがにホテルに行くお金が無くてどちらかの家でだったけど。 夜寝る前にはネットで男の性感帯を調べたり、どうすれば快感を得られるのかをとことん勉強した。 どうしてだろう。 僕はユカちゃんとの毎日のセックスよりも、蓮くんの尻開発をする日曜の方が楽しみで仕方がなくなっていた。

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