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第28話 どうしちゃったの蓮くん 1
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スマホのアラームが鳴って僕は飛び起きる。
隣には すよすよと眠っている裸の蓮くんがいて、このまま彼の横でこの寝顔を見ながらずっと転がっていたいと思う気持ちを振り払ってベッドから降りバスルームへ。
昨夜はシャワーも浴びずに蓮くんとセ、セックス♡・・・してしまった。
久しぶりの蓮くんのお尻は劇的な変化を遂げていて、すんなり・・・とはいかなかったけど、痛がっていた頃とは違う明らかなヨがり具合に、僕は ついつい3回もイッちゃったじゃないかぁ!
チンコ受け入れ体制が整った蓮くんは極悪なまでに最強だ。あんなに可愛くてえろえろな人が僕の彼氏だなんて、幸せ以外の言葉が出てこないよ。
それにヤキモチで何時間もかけてこんなとこまで来てくれるなんて思ってもみなかったから、もうどうしていいかわからないくらい嬉しかったし、セックスどころか本当は頭から齧り付いて食べてしまいたいほど蓮くんの全部が欲しくなった。
僕の血にして肉にして蓮くんが一生離れられないようにしてやりたい。
自分でも怖いくらいの独占欲。
警察官を目指す人間の考える事じゃないな、と冷静になるけど、昨夜の蓮くんを思い出して腹の底から込み上げる昂りが気味の悪い笑いになって零れて来てしまう。
落ち着け落ち着け。
意識を飛ばすほど感じまくってた蓮くんが脳裏に焼き付いて全然落ち着けないけど、とりあえず落ち着け。
若さゆえの有り余った元気がツラい。
結局興奮は収まらずに、バスルームでひとり抜いてから部屋に戻る。
「あれ・・・?」
ベッドで寝ていたはずの蓮くんの姿が無い。
「えっ、蓮くん? 蓮くーん。・・・どこ行った?」
うろうろと狭い部屋の中を歩き回ると、トイレから「ここだ」と力の無い返事が返ってくる。
「わり、いま出れないわ。お前もう行かなきゃだろ」
「あ、うん。僕こそごめんね。お腹大丈夫?」
「・・・出すもん出しゃスッキリすんだろ。気にすんな。じゃあな」
「・・・うん。行ってきます」
お腹を壊してる蓮くんが心配だけど、短期コースで受講してるから学科も実技もできれば一コマでも落としたくない。
後ろ髪を引かれる思いで僕は部屋を出た。
教習所にいる間、隙をみて蓮くんに「今日も一緒にいたい」「帰らないで」と何度もメッセージを入れたけど既読がつかない。電話をかけてもスマホの電源は切れたままのようで繋がらない。
昨夜はあんなにしたのに、今朝は顔を合わせないままだったから寂しいって思ってるのは僕だけなのかな。
めちゃくちゃ好きで、しんどくなるくらい好きで。
蓮くんも僕と同じ『好き』に近付いてくれたかもって思ったのは、やっぱりただの自惚れだったのかな・・・。
「ふん、ふん・・・」
「奏汰、お前何してるの?」
「え、何って、壁に向かって腕立てしてる」
「見りゃわかるけど。教習所の廊下で一心不乱にやることじゃねーだろ。ははは、やっぱお前変な奴だな。おもしろ」
頑張れよ~、と同じ短期コースで同じホテルに滞在している大学生のお兄さんが笑いながら去って行く。
変な奴って、僕が?
蓮くんの事を考えながら教習所の廊下で壁腕立てをしている僕は変なのか?
はっ!
もしかして蓮くんも僕を変な奴だと思ってる?
1回(じゃないけど)セックスしたからって調子乗んなよ的な?
だからこのまま連絡取らないでフェイドアウトしよう的な?
・・・イヤイヤ、蓮くんに限ってそんなのある訳ない。ないとは思うけど、昨夜は後半「やだやだ」と繰り返す蓮くんが落ちるまで責め続けたし、落ちた後にこっそり顔射なることまでしちゃったし。朝は朝でシャワーついでに蓮くんをオカズにオナニーしちゃうし。
変な奴通り越して思いっ切り変態じゃん僕!
まさかまさか今朝顔を合わせなかったのだって、僕を避けて・・・!?
やばいまずい。まだ合宿期間は半分以上も残ってる。向こうへ帰ればすぐにでも押しかけれる距離だけど、離れてちゃ何にもできないしこうやってシャットダウンされてしまったらどうしようもない。
蓮くん、お願いだから僕がホテルに戻るまで帰らないでいて。
蓮くーーーーーん!
「おかえり」
日程を終えてホテルに戻り、教習所の送迎バスから降りて走ってフロントを通り過ぎ一目散にエレベーターへ向かう僕は、大好きな人の声が聞こえて急ブレーキをかけて止まる。
「れ、れ、蓮くーーーーーん!」
ホテルのロビー、一人掛けのソファに座る蓮くんにダイブするけど、両手を突っ張って押し返されて「うるさい」と一蹴されてしまう僕。
「よかった~帰ってなかったぁ! 僕、蓮くんに逃げられちゃったのかと・・・」
「なんで俺が逃げるんだよ。腹は痛てぇし体はだりぃしねみーしで一日部屋に篭ってたわ」
「だって未読スルーだし電話も出なかったから」
「あー、わり。さっき充電切れてんの気付いて。今更だったし返信とか面倒くさくてここで待ってた」
昨夜の疲れを引き摺っているのか、顔色も良くないし気怠げでどことなく儚げに見える蓮くん。
そしてそんな彼にムラついてしまう僕。くう~、どんな蓮くんにも反応してしまう愚息め、落ち着けい!
ぞろぞろとバスから降りた合宿仲間達が近くのファミレスへと移動していくのがガラス越しに見える。
「おーい奏汰、飯行くけど・・・ってあれ、昨日の奏汰の友達? こっちの人なの?」
僕を『変な奴』と言った大学生のお兄さんがロビーにいる僕を見て、夕飯に誘ってくれるついでに蓮くんに声を掛けてくる。
「奏汰と同じ高校生? 一緒に飯行く? 君もカッコイイし女のコたち大歓迎だと思うよ」
「あ、いえ・・・俺は」
「この人僕の彼氏だから! おねーさん達に大歓迎されるのとか絶対ダメだから! 僕達のことは気にせず行ってきてください、すみませんありがとうございます!」
昨晩抱かれました感満載のえっちい蓮くんを知らない人達の中に連れて行けるわけない。女の人ならまだしも、男の人達からもそういう目で見られるに決まってる。
「僕達大事な話があるから! また誘ってくださいね、では!」
「あ、ああそう。うん、また誘うわ」
「すみません」
ぺこりと頭を下げる蓮くんの手を引いて、ちょうど1階に待機していたエレベーターに乗り込む。
「あっ、てか奏汰、その子彼氏って・・・」
ドアが閉まり大学生の声は途切れる。
「オイ、何だよ彼氏って」
エレベーターの中で蓮くんが僕を睨む。
「彼氏でしょ。違った?」
「違くはねえけど、人に言うことじゃない」
「なんで」
負けじと僕が蓮くんを見返すと、蓮くんは溜息と一緒に俯く。
「なんで、って。お前が変な目で見られる」
「僕が? だったら気にしなくていいよ。昼間腕立てしてただけで『変な奴』って言われたから」
「つかお前、所構わず筋トレすんのやめろ。そういう意味じゃなくて。・・・その、ホモ、だとか思われる」
「事実じゃん。男の蓮くんが好きでセックスしてるんだから」
「違うだろ。お前ホントなら普通に女が」
「女が好きだったら蓮くんを好きになっちゃダメなの? 蓮くんはこんな僕、嫌い?」
「嫌いなんて言ってねーだろ。ただ、お前が普通の恋愛する時にそういうの弊害になったりするんじゃねーかって」
「普通ってなに、蓮くんとは普通の恋愛できないの? どうして!?」
蓮くんは俯いたままでもう一度深く息を吐く。
「・・・普通の恋愛は、男どうしでしないだろ」
なにそれ。だったらこの気持ちは何?
ユカちゃんには感じたことの無い愛しい気持ちとか、独占欲とか嫉妬とか不安とか、今すぐ押し倒したくなるほど強い欲求とか。
エレベーターのドアが開いて蓮くんが降りようと一歩踏み出す。
僕はワケのわからない苛立ちに任せて蓮くんの背中をエレベーター内の壁に押し付け、今いる階より下の階のボタン全てを押してドアが閉まるのを待つ。
「痛ってぇな。・・・つかなにやってんのお前」
「普通だとかどうでもいいよ。蓮くんがそうやって俯くなら、僕が上を向けるようにしてあげる。要は男どうしでも堂々とする事に慣れればいい」
エレベーターは一階下で止まりドアが開く。と同時に僕は蓮くんの顎を引き上げ唇を塞ぐ。
抵抗する蓮くんに脇腹を殴られて痛いし引っ張られたTシャツは伸びてるけど、そんなのはどうでもいい。
その階では誰も乗ってくる気配が無く静かにドアが閉まる。
「ぷぁっ、てめ、何考えてんだよ! 誰かに見られる・・・」
「見られるようにしてるんだよ。『普通』じゃない恋愛に耐性つけてあげる」
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