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03 『恋』はこうして始まった。
オレに気絶させされるほどの頭突きを食らわされたにも関わらず(まぁ、元はこいつが悪いんだけど)翌日の朝になると、何故かすぐるはオレの部屋のドアを軽快に叩き。
「あっおはようまやりっ……所沢くん! 昨日は色々突っ走っちゃってごめんねっ……朝食のオムライス作ったんだけど、よければ一緒にどうかな?」
「……は?」
……オマエ一瞬「まやりん☆」って言いそうになっただろ。
朝っぱらから人の神経逆撫でしに来たのか、と文句をかましてやろうかと思ったが、
ぐぎゅるるる…
「!!」
「……ぐぬ、」
「…ははっ、僕こう見えて料理かなり得意だから、このオムライスもけっこう自信あったりするんだぁ。だから所沢くんにも、味見してもらいたいなっ」
「っ……お、オムライスには罪は無いし…べ、別に味見くらいなら、いいけどよ…」
「! うんっありがとう、所沢くん!」
「……っ」
「あっ! おーい所沢く~ん!」
「! …園田」
「所沢くんも今から帰り? 僕ももう今日の講義終わったから、これからバイト先のスーパーでお夕飯用の買い出ししようと思ってたんだぁ」
「! ……オマエ、スーパーでバイトしてんの?」
「うんっ大学とアパートの家賃以外は自分でまかなってるしね。あ、もしかして所沢くんもバイトとかしてる?」
「……まぁ、コンビニで一応は」
「そうなんだっ、今日は? バイトあるのかな?」
「いや、別に無いけど…」
「じゃあ、よかったら僕と一緒にスーパーでお買い物しない?」
「はぁ!? な、何でオレがっ…」
「そこで買い物しながら、所沢くんの好きな食べ物教えてほしいんだ。ほらっ昨日僕の作ったオムライスすっごく美味しそうに食べてたでしょ? だから所沢くんの好きな食べ物作って、それでまた、キミの嬉しそうにしてる顔見たいなぁって思ってさ…!」
「は…――っ!!?」
「もぐ……っ!!」
「……ど、どうかな? 昨日の夜に作っておいた肉じゃが、味染みてるといいんだけど…」
「っ、お、美味しい…んじゃないか…? …あと、味もちゃんと染みてて、いいと思う…」
「! ほんとっ、よかったぁ。……ふふっ」
「な、なんだよ」
「ううん、やっぱりご飯食べてる時の所沢くんの顔、可愛いなぁと思って」
「っ!!? なっ、おまっ…」
「……と、あっ所沢くん」
「な、何っ、――っ」
「ははっ、ほっぺにお肉の小っちゃい欠片付いてた…――ぺろっ、ごちそうさま♡」
「!!!?」
――これで落とされない方がどうかしている。
朝のオムライスから始まり、実家で年の離れた姉二人に扱かれたかでメキメキと上達していった料理の腕を、実は不器用で料理がからっきしなオレへと毎日のように遺憾なく発揮し。
さらには、自分でも気づかなかったが、飯を食べている時のオレは、すぐるの目から見ると大層嬉しそうな顔をしているらしく。
そのオレの表情を見ては、すぐるは事あるごとに『可愛い』と、めちゃくちゃ嬉しそうにそう言ってきて。
しかも何てことないように、オレの頬に付いていたおかずをペロリと……たぶん本人はわかってないだろうが、妙にエロい顔で口に運ぶ始末。
他にも、基本距離感が近いというか読めてないというか……たまにすごいググイっと密着してきたり、興奮したり嬉しいことがあると、すぐ手を握るのは日常茶飯事。
そして本人曰く『人間の皮を被った悪魔』の姉二人に日々雑用を押し付けられてたせいもあってか、ちょっとしたことにすぐ気づき、料理下手なオレの傍で丁寧に手順を教えたり、日常の生活のあれこれをササっと手伝ってくれたり、etcetc……
こんなっ、こんな毎回至近距離で「良いコトがあってとっても幸せです!!」なんて顔見せられて、あったかくなった手で両手を握られたりっ、手伝ってくれた後に、照れくさくてちょっとぶっきらぼうになってしまうお礼にも、嬉しそうに笑い返してくれる姿を見て――
「っ、好きにならない方が無理だってのっ…!!!」
出会ってから約六日。
オレ、所沢真哉は、アパートの隣の住人、出会い頭に大好きなアニメの推し(とかいうらしい)である『所沢まや』と同じ名前だからと言って、そのキャラの通り名の『まやりん☆』呼びを初対面の男のオレにしようとしてきた、空気の読めないオタク野郎こと『園田すぐる』に
――めちゃくちゃドキドキしてしまうほどの『恋』をしてしまっていたのだ。
「……っ、園田っ……すぐる、好き…好きだっ…♡」
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