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第2話
「それでは、今日の講義は以上になります」そう言った瞬間に、講義が始まってからずっと寝ていた生徒達が一斉に席を立つ。
「あ、あの、前回のレポートの提出をしていない人はしてください」帰ろうとする生徒にそう呼びかけても、こちらに足を向ける生徒は誰1人いなかった。
小さく溜息を吐きながら名簿に目を落とすと、半数以上の生徒がレポートを提出していない。それも前回だけでなく大分前から。僕は提出物の呼びかけすらできないのか、と情けなく思っていると「佐々木先生」と声がかけられた。
顔を上げると、さっき目が合った生徒がレポート用紙を片手に、立っていた。
「あ…うん、えっと名前は…」
「片平新太」
名簿からその名前を探し、前回のレポート提出確認欄に丸をつける。
「えっと、確認しとくから明日には返すね。あ…片平くん、明日の講義も来てくれる?」
少し遠慮気味に聞くと、片平くんは呆れたように笑いながら頷いた。
「先生の講義続けて取ってるのに来ないわけないでしょ」
「あ…それもそうだね」
片平くんは僕の持つ名簿を覗き込んだ。
「俺以外全然レポート出てないじゃん」
「えっと、うん…」
「俺が呼びかけてあげよっか?」
俺友達多いし、と少し得意げに言った。
「え、いいの?いつも言ってるんだけど、誰も聞いてくれなくて…」
「それ聞いてくれないんじゃなくて聞こえないんじゃないの。先生声ちっさいよ、せっかく可愛い声したんだからもっとおっきな声で話せばいいのに」
悪戯っぽい目で笑いながらそう言われ、僕は可愛いという言葉に動揺した。
「へっ、あ、か、可愛いって…えっ」
「冗談だよ冗談。そんなに動揺しないでよせんせ」
「あ…冗談」
「先生、やっぱおもしろいね、もっと早く話せばよかった」
片平くんは笑いながらそう言った。あ、次行かなきゃ、と時計を見て小さく言い、お辞儀をしてまた話そうね、と言葉を残して教室を出て言った。
片平新太…
名簿の名前をそっと指でなぞり、溜息をついた。
染めた髪は派手すぎず、短く切りそろえられていて清潔感がある。私服もブルー系が目立つ清い雰囲気だった。身長は僕より大きくて、体型も男らしいしっかりした骨格だった。…僕のこと、可愛いって………冗談か。そうだよね。
だから、そういう可能性なんてないんだって、あの日、散々それを思い知っただろ、佐々木悠。と自分に言い聞かせる。
でも僕だって、こんなことだけで好きになる程ガキじゃない。気持ちを切り替えて、次の教室に向かった。
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