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第39話――黒田――
「早速〇〇会社に向かってくれ」固められたカイゼル髭をなぞっていった。
「今からですか?!」
「窮地に立っている会社に明日やろうは馬鹿野郎だぞ。一刻を争う事態なんだ。社員の給料や融資の件も鑑みて、――半年。これが限界だ。それ以上は、解体するなり合併、吸収させる方向で動くつもりだ」
「・・・・・・それをしたほうが、双方ともに安泰になるのでは」
「そう! そうなんだけど、向こうが嫌がるわ窮地だわで、迷惑してるんだよ」
「なるほど」
「――何せ、トップに黒田の血が流れていないからな。経営者に向いてない」
「黒田の姓じゃないだけでこうも経営方針にすれ違いが起きるなんてな」男はいう。
「・・・・・・では、とりあえず状況把握して、それから打開策を練りますので。今日はこれで」
黒田は頭を下げずに社長室を退室した。
すぐにでも帰りが遅くなることを連絡するつもりでいたが、出先で秘書が待ち伏せしていて「〇〇会社まで、タクシーを呼びつけております。エントランス出てすぐのタクシーにお乗りください」取り付く島もない連絡を寄越してきた。
黒田自身、弱点が田淵であることを自覚していたために、取り出そうとしたスマホをポケットに入れ直す。
「分かった、ありがとう」
(もとからそのつもりで呼んでるじゃないか。何かある・・・・・・何がある――既にヒロキさんに目をつけてるとか?)
深く頭を下げる秘書の女を睨めつけるが、ホコリひとつ見せない。
足早にエレベーターに移動する。秘書の女も斜め前についている。
秘書として満点の行動をとる女に、ホコリが落ちる期待は止めて、大人しくタクシーに乗り込んだ。
「え!?」黒田は明らかな嫌悪を顕にする。
秘書の女も続いて乗り込んできたのだ。
「運転手には行き先は伝えてあるんだろう?」
「・・・・・・出してください」
「おいっ!」黒田を無視して、運転手に出発を促した。
女は留めていた髪留めを外して、艷やかな髪を下ろす。足を組んで、眼鏡もとる。
「・・・・・・お目付け役としてボーナスを受け取ったから、ここにいるだけよ。アンタみたいな若造相手に、なんでここまで注意を払わなきゃならないのかさっぱりわからないわ」
「・・・・・・プライベートモードにしちゃったこと、社長に報告しちゃうよ?」
「貴方ができるなら、してみなさい?」
距離をつめられて、「貴方も弱味、握られたくないでしょ、あの人に」と自信満々にいう。
「いいのよ? 帰りが遅くなるって、連絡したいんでしょう? 今ここで、スマホを使って、連絡するといいわ」
「・・・・・・別に一人だし」
「ふふ、返しがまるで子ども。なんでこんなのが一瞬でもトップの座として注目を集めていたのかやっぱり分からない」
ため息をついて、化粧ポーチを取り出すと、堂々と化粧直しを始め、香水もその場で2プッシュも振り撒いた。
密接な場所で、どぎつい匂いが車内の充満する。
「あら、ごめんなさいね?」この一言の後、女から言葉を発することはなかった。
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