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第38話――黒田――

 連絡を入れる暇もなく、業務に追われていた。  「黒田の子会社ではあるんだが、立て直しに携わってみないか」何度も着信が入っていた内容は、倒産しそうな子会社の立て直しを携わることで、手腕を知らしめることができれば、この業界でもやっていける手がかりとなることを助言として頂いたからだ。  ジャケットを羽織って外出した時点では、そんなのは謳い文句で、本当は別の狙いがあると感じていた。しかし、本社へ赴き事情を聞けば、社員の給料さえ支払うので精一杯の、今日を食いつないでいる現状があった。  それを親会社が助けるべきだと反論してみるが、「そこのトップと折り合いがつかず、資金調達の手助けを断ったところだ」という。  カイゼル髭の男は子会社も含めて、黒田グループの資産となるから、救ってほしいと頭を下げてきたのだ。 「俺は黒田から退いています。それに、戻ってこられるのはそちらも都合が悪いのでは?」 「――お前ごときが、戻ってこようが痛くもなんとも無い。その程度じゃ俺の座は揺るがん」 「なるほど・・・・・・それで、俺に立て直しをさせて、何のメリットが?」 「そうこなくちゃな。そこに座れよ」  黒光りのする如何にもな黒革のソファに促されるまま、腰を下ろす。 「そうだな、メリットとしては立て直しの手腕を業界に宣伝すれば、独立するにも子会社をそのまま引き継いでも、信頼性の獲得は得やすいだろう。お前もそろそろ就職の時期だし、ちょうどいい機会だ。ここでぱっと名を挙げて、仕事しやすい環境づくりをしてみたらどうだ」 「・・・・・・黒田の人間にしては実に、人情味ある発言ですね」 「何を言う。お前のお父さんが亡くなられて、そこまで追い込んだ我々も学ばせてもらったんだ――裕子を含め、限度を越して手当り次第やると、しわ寄せが他人に及ぶ。それだけではない、そのしわ寄せが回り回って自分に返ってくることを、今回の件でよーく理解してるんだ」  「その件では済まないことをしたな」脚を組んだままのカイゼル髭の男は、秘書に持ってこさせた珈琲を啜る。 (その件・・・・・・親父の命を1件扱いかよ)  再燃する自滅への感情を押し込めながら、暫時考えあぐねる。 「・・・・・・分かりました。交渉しましょう。それ次第では受け付けますよ」 「――伊達にも業務経験してきてないってことか」 「立て直しを若造に一任してくださるんですから、それなりのリスクと責任を負うつもりでいらっしゃるんですよね?」  「もしや、責任から何もかもを俺一人に丸投げするつもりじゃありませんよね? 黒田グループでそのような穀潰しまがいな手段を取るなんて、会社全体の士気を下げるような――ないですよね」黒田は凄みを増していう。 「おいおい、俺の話をちゃんと聞いてたか? 親会社である俺に楯突くわ、指針を思いっきり無視する会社の手助けを、この俺が根回しして損失を抑えたいってんだ。責任の類は、そこの子会社に取らせるつもりに決まってるだろう。あくまでお前の仕事は、立て直しだけでいい。失敗を恐れずにやってみなさい」 「・・・・・・分かりました。この立て直しで手がかりができるなら。ちゃんと告知宣伝、諸々お願いしますよ」    「ククッ――任せておけ」男はほくそ笑む。

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