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第37話
ベッドに横になってから、どれだけ経っただろう。
とくに、電気を常夜灯にしてから、時計の秒針が刻々と過ぎていく音だけが脳裏にこびりついて嫌気がさす。
日付が変わってからの帰宅は珍しい――まだ帰宅すらしていないのだった。
ダブルベッドを独占する気分とは、こんなにも寂しく空しいものなのか。田淵は夜はまだ寒い春の夜、一人眠りにつく。
翌朝、アラームのならない朝に違和感を感じる。ルーティンがないと、逆に目が覚めてしまって黒田が帰ってこなかった事実が重くのしかかってきた。
「朝帰りするなら、連絡くらいちょうだいよ」田淵は返ってくるはずもないドアに投げかける。
朝食をてきとうに済ませて、黒田を待つ。
小腹が空いたので、黒田が気に入って食べているチョコバーのストックを全て卓上に並べて、吟味する。
「黒田君が一番好きな味・・・・・・嫌がるのは――ラムレーズン入りのチョコバー」
その味だけ複数本あり、明らかにお気に入りの中のお気に入りだ。
まずラムレーズン入りのチョコバーのみを袋から開けて、皿に盛ってみた。
「ヒヒヒ・・・・・・連絡も寄越さないヤツの末路よ・・・・・・」
ほくそ笑みながら、そのバーを口に運ぶ。それだけで背徳感を味わえるので、黒田がよほど好きな物であることが如実にわかる。
しかし、いつまでも華奢な田淵はチョコバーを何本も食べることは敵わず、2本食べきったところで小腹が完全に満たされた。
「甘さにノックアウトされた・・・・・・」コーヒーと一緒に口内最後のチョコを喉に流し込んだ。
だが、がらんどうな部屋は相変わらずで、思わず残りのラムレーズン入りのチョコバー2本をラップにくるんで黒田の自室のクローゼットに隠し入れた。
昼食は、チョコバーのせいで食べることを断念。
PCの作業もいつしかリビングより幾分か狭い黒田の部屋で行う。
それからおもむろに田淵は服を脱ぎ始める。
「暑い・・・・・・」と薄手のスウェットを脱ぎ捨てると、昨日着替えたであろう黒田も厚手のスウェットに腕を通した。
「うわぁ、ちょっと汗臭い!」
「黒田君、実はいつもちょっとだけ汗臭い?」疑惑をかけると、さらに親近感が湧いて嬉しくなる。
「・・・・・・朝帰りですらなくなってるじゃん!! どゆこったよ!!」
スマホを見ても連絡はない。
「浮気、駄目、ゼッタイ? そのまま返してやらーーー!!」
ぼふん、ベッドにダイブしてシングルの狭さに少し気が紛れる。
「黒田君、らいじょーうかな――」
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