60 / 104

第59話

 廣田を抱き込んでいた黒田。証拠としては書類と同等、またはそれに近い価値のあるスマホのアプリで録音されたアレ。  今日のためにために録れてしまった偶然の産物であるが、社長室から廣田の会社につくまでを録音されているので、正直、今出しては廣田を庇えなくなる。  煽るだけ煽った黒田は、社長からの反撃も加味して「ここで俺は用事があるので失礼します」という。ついでに廣田も金魚のフンのようについてくる。 「・・・・・・」  社長は何も言わなかった。ただただ、憤りを顔中に溜め込んでいるのが丸分かりな赤面を見せる。  しかし、黒田も同様、理性を途切れさせて憤慨したので、まさに一触即発の緊迫した状態であった。  「では」終始一貫して、入退室の挨拶だけきっちりと行ってから出ていく。 「おい、大丈夫かよ、あれ」 「えー結局飛び火だったじゃん俺。そもそもお前のせいでアレを有耶無耶にする代わりに抱き込んだだけだからな。経営者どうこうより、お前の人としてしたたか過ぎるところは、黒田に染まりっきった証拠だぞ。せっかく社員とトップがチーム一丸となって頑張ってる会社だ。黒田に飲み込まれて搾取されるようじゃ、信頼も地に落ちること。忘れるなよ」 「――最初は本当に社長に告げ口をして、お前を陥れることを望んでた。・・・・・・本質を見抜く力を養わないとな、てさっきの一連を見てて思った。義理人情だけでは会社は守っていけない」 「だから、多少のしたたかさは必須というわけだ」  2人は本社のエレベーターの中で吐露する。「経営って難しい」。  後日、社長が廣田への制裁を加えようとしたらしい。廣田から連絡が入った。直に公的に来る。  これも黒田のシナリオの筋書き通りで、少し笑ってしまった。  田淵の時よりも進捗具合はちょうどいい頃合いだろう。  「では、この音源を武器に使ってくれて構いませんので」黒田は弁護士と自宅で依頼していた。    そこへ田淵が珈琲を差し出す。その香りで、ここ数ヶ月大事に飲んでいる専門店から買った田淵専用の珈琲でないことが分かる。  黒田にとさ、と優しく刺さって、打ち合わせに巻きを試みてしまう。  刺さった先にには毒が盛られていたようで、どうにも下半身の疼きが止まらない。   「分かりました。では、こちらは預からせてもらいますね。・・・・・・えーと黒田さん、田淵さんの契約不正の違約金と黒田さんの名誉毀損で、訴え内容はよろしいですね?」 「っはい」 (やばい、ちんこが痛すぎる) 「・・・・・・和解以外は負ける形をとって、最後に、この音源を使うという流れも、合っていますね?」 「はい、それでお願いします。また何かあれば連絡ください」 「そうですね、今日のところはこれで以上です」 「はい! お疲れさまでした!」  自衛隊並の直立に礼。弁護士はさっき入ってきた人間を田淵と認識した上で「同居人さんに、ソレ。最初は隠したほうが良さそうですよ。僕となんて勘違いされても軽く営業妨害です」くすりと笑う。

ともだちにシェアしよう!