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第64話

 週一でディアゴに会う。その都度にディアゴと授業後に世間話を繰り広げる。それが存外に楽しい。  日本語が堪能で知識もあるのに、日本に滞在している期間が短いために、田淵の世間話を新鮮に感じてくれていた。  「はい、これで授業は終わりです、お疲れさまでした」マイクの接続を切断する。  決まって、ディアゴはコンタクトを取ってきては、笑いに包まれるこの空間が、田淵はなんとなく癒やされた。  話をしていれば、2人は年齢が近いことも起因して、意気投合する。  親しくなるのにそう時間はかからなかった。  仕事以外の会話を、近しい人間とするのはその時間だけになっていることに、無意識のうちに寂しいと感じていたのだ。  引きこもっていた時代から顧みれば偉業を成し遂げたかのような成長率であるのに、こんな物悲しい気分に見舞われるくらいなら――ディアゴと話している間だけはそれを忘れていられる。  同棲して4年が経った今、自宅内の隠しカメラが起動している気配がないと思えば、PCで確認しているという痕跡さえない。  今度は田淵が、黒田のPCのの隠しカメラの痕跡をチェックするのが日課になってしまった。  帰宅して、真っ先に黒田の自室に行って、PCを起動する。  管理ファイルを開き、今日もログイン履歴がないことを確認して、PCを閉じた。  それから黒田がいつも買ってきてくれる田淵のお気に入り珈琲を入れて、ついでに甘い物を取り出す。    座り直して、甘い物を口に入れる。今ではこのラム酒入りレーズンチョコが田淵の好物となっている。   (このラムレーズン入りのチョコバー食べてるの僕だけになっちゃったな)  珈琲の苦味とチョコの甘さが中和して濁る複雑な味わいがたまらない。  黒田は多忙を極めている今でも、田淵のお気に入り珈琲を専門店に出向いて買ってくる。彼曰く、「自分で買うことに意味がある」と豪語していた。  だから、お互いが、冷めているわけではない。  ――ただ、今は辛抱する時期なのだ。 「ヒロキ先生、ここ1ヶ月元気ないね」 「え、ごめんね! 授業中どこかミスあったかな」 「ないよ!! ビックリするくらいない! 俺、このまま資格取れちゃいそうだよ」  「励まし方が外国の人だね。実は大げさなくらいが救われる時もあるよね、てディアゴの話聞いてると思う」眉根を上げて八の字を作り出す。 「そこは日本人は、下手くそだよね。感情を表に出さないことが美徳としてるんだろうけど、ストレスは溜まるでしょ? ストレス溜めてまで守らなきゃいけない美徳は美徳じゃない」 「・・・・・・はは、だから日本人の中にはダンスが苦手な人もいるわけだ」 「そう! それすごく分かる!! ダンス教室がないと踊れもしない日本人!!」 「僕、踊れないな」 「――俺が教える!!」  「仕事終わったら、連絡欲しい! あ、連絡先教えて」純朴な瞳を向けられ、他意のない申し出に自然とスマホを差し出した。

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