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第63話

 休日も結局、田淵が就寝する間際に帰宅した黒田。  口づけを一つして田淵を先に寝かせた。 (一緒に暮らし始めて5年目に入ってるっていうのに、気を遣ってくれるところは変わらないな)  出勤し、いつものようにコマ割りに沿って、教室へ移動する。 (お、今日は外国の人も授業受けるんだな)  名簿を見る前に、目立つ金髪の鼻筋の通った外国人に目が行く。  司令塔になっているPCの席に着席して、マイクを繋いで挨拶をする。 「分からないことがあれば、授業後も受け付けていますので、どんどん聞いてくださいね」  あえて日本語で話してみたが、金髪の外国人の男は通じているようだ。それに一安心して、努めてゆっくり話しながら、授業を進めた。 「これで授業を終わります。再度いいますが、分かりにくかったところ、質問したいことなどあれば、何でも聞いてください」  「これで終わります。お疲れさまでした」言葉を合図に社会人の生徒はzりの行列のように、同じ出口から出ていく。 「アノ・・・・・・」  「はい?」マイクの接続を切断している最中に、今日最新の注意を払っていた人物から声がかかる。 「ゆっくり、話してくださってとても助かりました」  「俺を気にしてのことでしょう?」流暢に話す彼に、聞き取りやすようにと思案したことは、杞憂だったようだ。 「ああ! ハーフの方だったんですね、勝手な憶測すみません」 「いいえ、日本語は話せるんですが、海外暮らしの方が長かったので、言葉をたくさん知ってる訳じゃなくて助かりました」 「ディアゴさん、でしたよね。日本とどこのハーフなんです?」 「俺はノルウェーです」 「ノルウェー!! 」  田淵が話に枝を付けて談義を続ける。  これは講師を初めての成果でもある。 「俺は南ノルウェーで育ちました」 「あ、縦長い国ですもんね! 北と南ではやっぱり寒さは違いますか」 「違う違う!! 北はもっと寒いし、住んでたところもいつまでも寒さに慣れません」 「僕も寒いの嫌いですよ。あ、暑いのも苦手です」  「それで、授業は分からないところ、ありました?」話の腰を折って問いかける。 「はい、今日のところは大丈夫でした。難しい言葉を喋られたら、分からなかったからすごく助かりました」 「良かったです。では、来週もディアゴさんのいる授業は言葉遣いに気をつけるので、分からないことがあれば、授業中でも、授業後でも聞きに来てくださいね」  本当に善意のつもりだった。  田淵の担当する授業は資格に直結するものであるため、「分からない」を放置しておくわけにはいかないのだ。  ここでやんわりと話に区切りをつけて、ディアゴと別れた。話し込んでいたらしく、教室に残っていたのは2人だけだった。  去り際に「やっぱり、日本とのハーフで良かったって、思いました」と日本人を称賛する声に気恥ずかしくなる。 (人とコミュニケーションをとるって、こういう特典がついてくるから、良いものなんだって思えてきたんだよね)  朗らかな気分を与えてくれたディアゴのことを帰宅してからもずっと考えていた。  ――今日も変わらず一人の夜を過ごす――。

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