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第72話――黒田――

「おいおい! 待ってみねぇかってさっき言ったばっかじゃねぇか!!」  廣田が一瞬席を外していた間に、黒田は引き出しからメモの紙切れを取り出して机いっぱいにぶちまけている。  黒田はいう。「嫉妬に狂った奴の何するかわかんないよ、ていう前置きのセリフあるじゃん? 俺、それ言う余裕すらなかったから、ぶっちゃけ、何するかわかんないよ、ていうのは粗方決めてる奴のセリフだと思ってるんだ。だから、僕なりの待ってるよ、は脅迫にしようと思って」。 「何が、だから、だよ!?」 「だって、どう理由を突きつけられても、別れる、とかないもん。他人から見れば、別れるフラグが立つような修羅場に何度かなってきたけど、お互いに別れるっていう選択肢だけは疎外してきたんだ。これは想い合ってる証拠でしょう?」  たくさんの紙切れ全てがスマホのカメラの画角に収まるよう、引きで全体を撮った。 「――だから、待つんじゃねぇのか。想い合ってるなら、時間のすれ違いで、気持ちが薄れていたと仮定しても、待つくらいの度量を見せろ。そんな脅迫めいたことをしてねぇでさ」 「・・・・・・流石に、これ以上何もするなは無理だ。これでも年食って丸くなってるんだ――まだ俺が若くて、他の責任も放棄できる地位なら、何だってしてた!!」  撮り終わったスマホを震わせて、黒田は続ける。「もう夕方。今日ヒロキさんは休みのはずなんだよ。それなのに、朝帰りしたかどうかもわからない状況で、黒じゃないわけないんだ。それだけじゃない――実は昨日、夜中に家に帰って、ヒロキさんいなかったから、電話を一本だけ入れたんだ。そしたらさ、カタコトっぽく喋りやがる野郎が電話に出たんだ。それも、今寝てるから、大した用事がないなら明日にしてやれって」。 「俺はその電話に出た男を突き止めて、殴り殺してやりたい気持ちだよ・・・・・・」 「ちょいまてよ・・・・・・落ち着け。相手は男だろ? 誰彼構わず独占欲を剥き出しに怒るんじゃない。前にも言ったはずだ。本質を見抜けって。客観的に物事を見ろってっんだよ」 「俺、間違ってる?」 「・・・・・・間違ってねぇ」  廣田は机上のメモ紙に目をやる。「すげぇ達筆なんだな」。 「あと一息で師範代取れるらしいけど、今は教室に通ってないみたい」 「・・・・・・こんだけ綺麗だと、社会に出る時大して困らねぇだろ」 「そうみたい。人と話すのが苦手なだけで、彼のポテンシャルが助けてくれると分かってて、言わなかったけど・・・・・・。この特技は知らなくて、ヒロキさん、社会に出てすぐ楽しい、て俺にほざいたんだ。今でも忘れられない」  その間にも画像を田淵に送信する。 「お前・・・・・・狭量なのは自覚してるのか」 「もちろんだよ。就職したい、て言われて承諾するのに、すごく噛み砕いて飲み込んだもんだよ」 「手元に置いても監視するくらいだもんな・・・・・・」

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