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第71話――黒田――
黒田は、若さゆえの行動力について実感していた。
「楽しんでおいで」からの返信がないまま、田淵が帰ってくることなく一夜が明ける。
その間、黒田は田淵を詮索して探し出すことをしなかった。連絡もしなかった。
ただ一晩中、田淵の変化したところを探すため、田淵の自室や黒田の自室を物色していた。
だが、何も見つからなかった。
小賢しいまでの徹底ぶりに、嘆息を吐いて朝方会社へ向かった。
「おい、黒田、新しい企画の書類に目を通して置いてくれ――て、おい。黒田」
右腕の廣田が声をかけたのにも気付かず、一点に焦点があたったまま呆然としている。
「もしかして、田淵君と何かあった?」気遣うような言葉を吐きながら、書類を机上にどっさりと置く。社員を気遣っても、それを統率する社長に気遣いは無用らしい。
「あのね、昨日無断外泊されたんだ」
「うぇ? い、言うのかよ・・・・・・。社交辞令で聞いたつもりだったのに」
「しかも多分、計画的犯行なんだよ」
「続けるのかよ?!」
「でも、俺も最近忙しさにかまけて、監視してなかったしヒロキさんの変化にさえ気付いてやれてなかったのも一理あると思ってさ。連絡を入れられず今に至るんだけど」
「仕事に差し支えるくらいなら、連絡入れたらどうだ」社長席の前のソファにどっかりと腰を下ろした。
「あー、その、なんだ。・・・・・・ん、監視?」
「ん? 俺、家に隠しカメラあるよ。学生時代は時間もあったし、家にいない間はソレ見て外の暇な時間つぶしてた」
「・・・・・・へ、へぇー・・・・・・」
「――それが当たり前だと思ってた」
「で、田淵君に当たり前じゃないって教えてもらったてか?」
「んー。受け入れてくれたかな」
「田淵君も相当ヤバいな!!」
「やっぱ、似たもん同士がくっつくんやな!」もう、色々突っ込むことを放棄したようで、問い詰めることはしなかった。
「俺もびっくりしたさ。通例なら、引かれて終わるんだから」
「それが普通だ」
「俺、余裕ないから、ちょっとでもヒロキさんが不審だと思ったら、興奮してヒロキさんの声すら耳に届かない時もあって、その時も逃げないでいてくれたんだ」
「・・・・・・お前の方が不審だわ」
廣田はいった。「でも、そんだけお前が好き好きして、田淵君はそれを甘受してたわけだな?」。
「そうだよ」
「――お前ら、上手くいくよ。大丈夫だ、心配すんな。その無断外泊も初犯だろ?」
頭をがしがし掻いて、不服そうに廣田が励ます。
「初犯・・・・・・じゃないね。厳密に言えば訳ありだったけど、受け入れる姿勢で安心させて、俺が油断した頃にヒロキさんはやらかしてくれるんだよ。タイミング見計らってるとしか思えない」
「やっぱ君ら特殊だねー。でも、逃げた事実はないんなら、とりあえず、今度は待ってみねぇか?」
「・・・・・・俺もそう思ってた」
「お? 多少はまともになったか」廣田は明らかに嬉しそうに口角を上げた。
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