「――キ、ヒロキ、ヒロキ！！」 　呼び捨てで田淵を呼ぶ声に意識が浮上する。 「いつまで寝てるの？　俺が思ってたより体調悪かった？」 　覗き込まれる碧々とした瞳から、心配が伝わってくる。 　どうやら、あれからぶっ通しで寝続けていたらしい。 「今日休みだったから、つい･･････」 「それはいいんだけど、その･･････帰らなくていいの？　恋人と、住んでるんでしょ？」 　「俺はいくらでもいてくれていいんだけど、今朝、ヒロキがすごく気にしてたから」覗き込む視線を外して、机上にあるスマホに目をやる。 　言われて、時間を確認すれば、18時を回っていた。 　――それでも、連絡は一通もないまま。 「･･････そうだね、連絡もしてないし、怒ってるかも」 「怒ってる――か。何で怒ってるなんて思うの？」 「･･････」 （当然のように怒ってると思ってたけど、そういえば、何で怒ってるなんて答えが出た？　現に黒田君から心配のメールや着信がないのに、どうして関心を持たれている、なんて、未だに勘違いしてるんだろう――) 「ちょっと分からなくなったな」 「ヒロキ･･････泣かないで、俺がいるよ」 「･･････ふふ、泣いてないよ」 「･･････今日もうちに泊まってく？」 「ううん、今日は帰るよ」 （――想われすぎて、馬鹿になっちゃたなー。普通、僕も繋ぎ止める立場にあるのをすっかり、忘れてたよ） 　泣くほど関心持たれなくなるのを嫌がる己にようやく気付く。ディアゴに沢山お礼の言葉を並べて、家路につく。 　しかし、ディアゴ宅までの道のりを泥酔していたために、記憶がない。 　最寄り駅まですらよく分からず、家を出て軽く1時間が経過した。 　そこで、聞き慣れた、でも待ち焦がれた音が鳴る。 　充電せずに一日中寝ていて、バッテリーが残りわずかなのもスルーして、スマホのロック画面を解除した。 （ああ、もう！！！) 　LINEに送信された社長室の画像が一枚。 　机上のメモ紙が、所狭しと埋め尽くされていた。 　全て、見覚えのある字体で胸が締め付けられる――。