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第95話――黒田――
「――そういうことなら、3日間仕事を完全に休むので、泊まってもいいですか」
「え、いいんですか?」
「ええ、俺はこういう時に優遇して休めるよう、仕事を頑張ってきましたから」
(こういう時に休めないなら、社員だってストライキ案件だろう。日本は本当に発想からブラックだな)
「田淵さん喜びますね!」
主治医が喜ぶので、多少の嫉妬を抱えて、簡素な部屋を後にした。
黒田のスマホに着信が入る。廣田だ。
(アイツ、なんでこう、気持ち悪いタイミングでかけてくるんだよ)
「――はい」
「おい!! ディアゴが辞めたぞ!!」
「あーそうなんだ」
「はぁ?! なにかする算段が整ったってことじゃねぇのかよ!!」
「そうケンケンするなよ。前に言っただろう。アイツは俺らの会社に害をもたらすやつじゃない。俺にもたらしてくれた優しい奴なんだよ」
廣田の喧騒はぴたりと止んで「やっぱ、浮気はクロだったんだな」と哀れんでいるのが丸わかりな声色でいう。
「・・・・・・その件についても言質はとれてる。解決の兆しがようやく見えたところだ。で、結果からしてシロだった。いや、ヒロキさんにっとてはグレーか。いや、でも、俺に似てるからとか言ってったし、やっぱシロかな――」
「あ、黒田君、先生と何話して――あ、電話中」田淵が弱々しく歩いてくる。
「じゃ、最後にもう一つ。俺、明日から3日来ないからよろしく」
「は?! ちょ、どういう――」
明らかな動揺を聞かなかったことにして、通話を切った。
「ヒロキさん、歩いてて大丈夫なの?」
「僕は、逆に歩かないといけないからいいんだけど・・・・・・それより、電話の向こうの人――」
「それこそ全然大丈夫だよ。廣田はどちらかというとヒロキさんの味方だよ」
「それより、明日から3日間病院に泊まりたいんだけど、ヒロキさんは問題ない?」一応の確認をとる。
すると、はにかみながら「本当?!」と嬉しがる。
主治医の言う通りで癪に障るが、此処で嫉妬を見せても田淵に不安を煽るだけだ。得策でないことだと堪えて、「お休みぶん取ったから、明日から俺も寝れる部屋に移動になると思うから、今日は休んどこ」腰を支えてベッドに戻した。
「今日はそろそろお暇しようかな」
「あ、あのさ――本当に三日間ずっと此処に居てくれるの?」
「・・・・・・うん、ヒロキさん俺に内緒で、吐いちゃうから吐き気止めにって先生が俺に提案したんだよ」
「お泊りを?」
(お泊り!! 言い方がアラサーとは思えないんだが、此処は冷静に)
「そう、お泊りを」
「え、なに。僕、何か変なこと言った?」
「ううん」
勘付かれそうになったので、話の腰を自らへし折って帰宅する。
そして、一報を入れることを忘れずにやろう、脳内で反芻しながら車に乗り込んだ。
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