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第98話

 「・・・・・・初めてお会いして話した時も思ったのですが、人との親和性が高い方でいらっしゃいますね。だから、黒田さんともうまくいってるんでしょうけど」犬飼が口角を微小ながら上げた。 「さ、犬飼さん。帰ってもらおう」  黒田は明らかに怒りを顕にしている。「ディアゴの方が不愉快になると思って貴女を呼んだのに、五十歩百歩でしたね」。 「私だって、ディアゴがよりによって貴方をターゲットにするなんて思ってなかったんだもの」 「ま、まぁまぁ・・・・・・」 (僕、やってなかったんだ・・・・・・)  目の前に繰り広げられる険悪なムードを相槌のように受け流しつつ、控えめなガッツポーズをせずにはいられなかった。  すると、犬飼が痺れを切らせて帰っていく。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「というわけなんだけど、俺の家に帰れますよね?」  にんまり、という言葉がこれほど似合う表情はないだろう。まるで絵文字だ。    「いいの? 散々振り回したのに」最後に念押しをする田淵には、まだ迷いがある。 「正直、遠距離になってもここまで通うつもりだったからいいんだけど、どちらにせよ、俺は遠距離になって会う回数が減るとか、無理だよ。できない。仕事を放置してそっちに行っちゃう。だから、俺としては、俺の見張りも兼ねて、ね?」  「帰っておいで」そう言い終える黒田より先に、腕をとって彼の胸元に上半身だけ飛び込んだ。   (僕が親和性高い? 違う、黒田君の好きの懐の大きさで、僕は救われているんだ) 「うわ、ヒロキさんが出会った当初よりギスギスしてる」 「っ、今それを言う雰囲気?!」 「あはは、ごめんね。でも、懐かしい抱き心地かと思ってたら、固かったから」 「・・・・・・家に帰ったら大好きなチョコたくさん食べるし!!」  その間も黒田は田淵の背中を擦って堪能している。 「味は?」  「勿論、ラムレーズン一択だよ」と田淵はいった。  その後、順調に食事をとれるようになった田淵は2週間後、無事に退院することができた。  田淵宅の簡素な部屋に黒田が入り、一言目に「すごくミニマリストさながらの生活をしてたんだね」という。 「そうだね、寝床とPCさえあればよかったから」 「・・・・・・仕事、辞めさせてごめんね」 「え。謝っちゃうの?」 「うん、だってヒロキさんは浮気なんかしてなかった」    「完全に俺がやりすぎたんだよね。――でも、これだけは謝れないことがあってね」黒田はあたりを見回す。 「あ、あった」 「これ・・・・・・ボールペンだね」 「この中に盗聴器とGPS搭載してて、これで追跡してヒロキさんの家を」 「道理でちょっと重かったわけだ! でもなんかこれ書きやすくて気に入っててやたら使ってたヤツなんだよ」  「黒田君が目の前にいる時から、そういうことなんだろうなって分かってるから、今更だよ。逆に見つけてくれてありがとう」抱擁をしていう。

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