100 / 104

第99話――黒田――

「本当、俺を優しいヤツにしてくれるヒロキさん、おかしい人なのか、いい人なのかわかんないや」 「いい人でお願いします!」  ぐりぐりとでこをすりつける様はいささか猫のような愛らしさを感じる。  田淵がここまで甘えてくることはあっただろうか。  いや、ない。  そう思うと、これまでは彼を抑圧させて、せっかくの恋人との生活を楽しめていなかったのだと痛感した。  田淵は心を開いた相手には、甘えることができる、それを黒田自身も知らなかった事実に胸が痛くなり、今回の事案の発端は犬飼ではない気さえしてくる。  「とりあえず、今日は退院したばっかりだから、これ以上の外出は止めとこう」田淵の柔らかい髪を触る。 「・・・・・・」  田淵は黒田の回答に納得がいかないらしい。無言だが、さらに頬ずりを始めた。 「・・・・・・ヒロキさん」 「・・・・・・」  頬ずりを止めて向き直ることで呼びかけに応じる。  黒田はひとつの解を持って、田淵の頬を両手で包んで、それから親指で唇をなぞる。    田淵はそのアクションの前のアップに目もくれず、黒田の瞳一点を見る。 (つまり、ヒロキさんはそういうことがしたいんだな)  確信になった解を、黒田の唇をあてがって伝えた。  抜けた声がダイレクトで耳に届く。抵抗もなければ、自らの舌で迎えてしまっているあたり、黒田の解は正解のようだ。    式と解が合致したために、2人の息は荒くなり、貪る様子も徐々に荒々しくなっていく。しかし、互いに気づくことはない。   「は・・・・・・ぁ、黒田君、ちょっと息が、もた、はぁ、ないかな・・・・・・」  ようやく制止できたのは、田淵の限界の警告を聞いてからだった。 (久々にヒロキさんの中に)  「入りたい」という明確な欲情が湧いた黒田には、目の前で呼吸を乱す田淵が扇情的に見えてならない。  そして、好きな人の前で理性というのは全く歯が立たないのを、黒田は十分に知っている。    口元が涎まみれになった田淵の唇を拭ってやる。 「――続きはまた、俺の家に帰れた時にしようね」    黒田の理性は田淵の命と天秤にかけることで、かけらほどではあるが残ってくれることに気づき、一所懸命に田淵の健康面で不安の残るところを脳内ディスカッションする。  結論は、満場一致で今日ではない、ということだ。 「・・・・・・もうちょっと続き、しても、良いんじゃないかな。・・・・・・退院したばっかりだけど、別に病気とかで入院していたんじゃないし、ちょっと加減してくれれば――」  あの田淵から夜に誘われるという快挙を成し遂げた刹那、黒田の徹底してきた紳士(?)さが仇となり、理性を簡単には飛ばさないという信頼をよせているらしい。  甚だしい話だ。黒田は今にもキスだけで腰を抜かしそうな田淵の腰を支えて、次いでに自身のいきり立ったモノを押し付けて教える。「いつも加減なんてしてたっけ? というかできたためしがないように思うんだけど」。

ともだちにシェアしよう!