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第101話——黒田——
田淵が借りるマンションの大家に話をつけて、違約金を支払えば速攻で出ていける状態にしてもらった。
そこで、田淵とお金を払う払わせないで一悶着あったが、他人から見れば茶番でしかなかった。
車に乗り込む。田淵を補佐して助手席に乗せた時、改めて体重の軽さに驚かされた。冷静になればなるほど、家を出ていく前と風貌も様子もまるで違う。
もう一人の田淵と対峙しているようで、寂しさを感じる。
それを感取られないよう努めて平静を装いながら、運転席に移動してエンジンボタンを押した。
県を跨いだ家出で、帰宅までに2時間弱程の時間を費やして、ようやく自宅に戻ってきた。
他人の家に上がり込む時の緊張の面持ちでいる田淵に、少しだけ苛立ちを覚え「家に帰るよ」と強調していった。
「うん、家に、帰る——」
「そう、家に帰るんだよ。人様のお宅じゃないからね」
「うん……ちょっと緊張しちゃって」
黒田が運転席から降車し、助手席の田淵を補佐して降りさせる。それに身を委ねる田淵は差し出される手を強く握った。
黒田が手を引いて、玄関ドアを開ける。
「お、おじゃましま——」
「ヒロキさん」
「あ、えと、ただいま……」
「おかえり」
ぎこちなく入室する田淵を後ろから支えて、後戻りを阻止する。
リビングに開け入って開口一番が「匂いが違うね」だった。
「もう他所様のお家みたいだ」
「それはヒロキさんを此処に連れてきた初日と同じなんだよ。だから、きっと同じようにすぐに我が家になる」
「それ、僕も同じこと思った! なんだかんだ、僕は黒田君がちょっと人とずれてくれて救われちゃったなぁー」
「——おっと」田淵の足がもつれて後ろに体勢を崩す。
「ごめんね、しっかり地に足つけて歩いているつもりなんだけど」
「俺がいるから大丈夫だよ。大丈夫」
黒田はいう。「今は体力的にまた外で働くのは厳しいんだけど、将来的にはどうしたい?」。
「僕は……ちょっと先々のことはまだ考えられないというか、もうちょっと黒田君の隣に居たい、かな。それまではPC一つで今までと同じように金銭管理はして行こうかな、と」
「それでいいの? 俺に都合良すぎない?」
「もう色々蒸し返すより、今、僕は黒田君不足で、一緒にいたいって素直に思ってるよ。それに、まだ、完全に手を出してくれてないし」
頬を膨らませて見せる田淵に生唾を飲み込んだ。
「もう、家で煽るのやめてよ、心臓に悪い……」
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