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鷹取光輝03
早坂に丁寧に身体を拭われ、服を着替えさせられる。そうしているとまるで自分ひとりで何もできない子どもに戻った気がした。立ち上がることができなかったので、手を伸ばして、「ん」とだけ言う。言葉も忘れてしまったみたいだ。
ベッドに寝かされ、布団をかけられる。もう大丈夫、と、念押しするみたいに、ぽんぽん、と二回、早坂が布団を叩く。
あ……
咄嗟に布団から手を出し、早坂の指をつかんでいた。
傍にいてほしかった。
ただ、傍にいてほしかった。
言いたいことはいっぱいあった。身体の熱は引いても、精液は出せても、心の中には膿みたいなものが溜まりっぱなしで、時間を追うごと、どんどん増え続けていっている。それをたぶん、この先きっと、言葉に出すことはできない。代わりに出たのは涙だった。さっき泣いたばかりなのに、また簡単に泣くことができた。泣いて気を引くなんてあざとすぎる。でもこれは、今の自分にできる精一杯のコミュニケーション手段だった。十分強いくせに、弱いフリをしている奴が流すみたいな涙じゃない。生きるために必死な、赤ん坊が流すみたいな涙だ。
早坂は手を、包み込むように握り返してくれた。
泣いている間は、早坂はどこへも行かないだろう。
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