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鷹取光輝03

「すみません……痛くしないようにしたつもりだったんですけど……最後はちょっとつらかったかもしれません」  余韻でまだがくがく身体が震えている。  指がずる、と引き抜かれたのが分かった。さっきまではちょっとでも抜かれてしまうと、楔を抜かれてしまうような、支えを失ってしまうような感覚に身悶えたけれど、快感が引くと、もはやそれは単なる異物、でしかなかった。惜しいとも何とも思わない。まだ何か挟まっているような感覚が、むしろ早く消えてほしい。 「症状がひどかったり、長引いたりするときもありますけど……でも、必ず終わりますから」 「は……」 「一番ひどいのは一日くらいで……長いとしても三日がせいぜいですよ。必ず、終わるんです」  終わる……  何を言ってるんだ。  でも、始まるじゃないか。  確かに今回の発情期は終わったかもしれない。でもまた一ヶ月後か、下手したら一週間後か……自分の周期はまだ分からないけれど、でも、また、始まるじゃないか。何回も何回も、繰り返すじゃないか。何年……何十年……? 途方もない苦しみが続くじゃないか。無責任な。それをこいつは分かって言ってるのか。分かって……  いるはずだ、きっと。  ああ……彼は一体どうやってこの苦しみをやり過ごしてきたんだろう。少なくとも二十年近くは、耐えてきたんだ、彼は。乗り切ることができているんだ。彼が、できているのなら……  そのとき初めてちゃんと、真正面に、早坂の顔を見た。  嫌で。早坂の顔を見ると今まで嫌悪しかなくて。いつも目を逸らしていた。でもこうやって見ると、どこに嫌悪していたのか分からなくなってくる。早坂を嫌っていたのは本当に自分自身の意思だったのかすら。  その瞬間、ぱらっ、と、涙がこぼれた。  すっかり雨は上がったのに、まだ木の葉に残っていた雨粒が、思い出したかのように地面に落ちるときのようだった。

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