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鷹取光輝03
「っ……ふ……う、うううーっ!」
早坂の肩に顔をうずめる。うずめるというよりはもう、噛みつくような格好だった。
「う……っう、ふっ、ふ……んんん……っ」
声が止まらない。押し殺そうとすればするほど、皮肉にも獣じみた声になってしまう。
「ここ……慣れないうちはなかなか、自分でするのは難しいですもんね」
「あ、あ……へ、ん、になる……っ、びりびり、して……」
「大丈夫。全部出し切れば楽になりますから」
「嘘……っ、も、もうこんな無理……っ、壊れる……そ、それ以上やったらだ、めだから……っ!」
「大丈夫です」
一体何の根拠があって、と恨めしく思う。でももうこの男に縋りつくしか選択肢はない。がくがく、と太ももが、意思に反して痙攣する。自分の中にこんなに簡単に、快楽に陥落してしまう場所があるだなんて知らなかった。知りたくなかった。
早坂の手つきは終始優しかったけれど、最後にぐっ、と押し込んできた一瞬だけは、聞き分けのないペットをしつけるような、逆らわせまいとさせる、確固とした意思が伝わってきた。
そうして、あらためて、気づく。早坂が大人だということ。自分より経験のある大人だということ。
「やだ……やだやだっ、もう無理っ、もう無理こんなのやだっ、やだ、やだっ!」
早坂にしがみつきながら、どんどん子どもになっていった。
「やだ」と言うたび、早坂は「大丈夫」と言う。
「やだ……こ、ん、なの……おれじゃ、ない……っ」
「分かっています」
「こんなの、気持ち、よく、なんてないっ、こんなの、こんなの、欲しく、なんて、ないっ……感じてなんかないっ……こんな、尻の、中、とか、気持ち悪い、だけなんだから。こんなの、やだ、やだ……」
「大丈夫。いっときだけのことですから。何も考えないで」
いい。
気持ちいい。
もっとナカを満たされたい。
擦り上げられたい。
ひどくされたい。
くらくらする。
いい、と喚き散らしたい。
獣のように絶叫したい。
身体を仰け反らせて声を上げたい。
腰を振りたい。
熱いナカを、それ以上熱いものでかき回してほしい。快楽だけ追っていたい。ずっと。ずっと、ずっと、ずっと……!
大丈夫、と、早坂は慰めてくれた。でも光輝が何に対して「嫌だ」と訴えているのかまでは、きっと通じてはいない。
軽く、絶望。
あさましい獣に成り下がろうと思えば、そんなのは容易いことだった。かろうじて理性とつながっている、細い、細い糸。それをぷつんと切ってしまえば、自分は『鷹取光輝』から、『発情したオメガ』になってしまう。こっちに来い、と声が聞こえる。招き寄せる手が見える。お前はこちら側の人間だろ。つらい現実に、釣り合わない現実にしがみつくことに何の意味がある。
でもどうしても、その最後の糸だけは、断ち切ることができなかった。
何を無駄なあがきを、と、笑われてもいい。呆れられてもいい。普通の人間から見たら、オメガはひとくくりでオメガでしかない。そんなのは分かっている。でも、その中でも、ちょっとでもマシでありたかった。獣みたいな格好になっても、無様な喘ぎ声を漏らしても、尻で感じても、屈しても、それでもせめて、ひとつ、ひとかけらの理性だけは残しておきたかった。
「やだ……や、だ……やだ、やだ、やだ……ああああっ」
射精したのか漏らしたのか、一体何なのか分からなかった。ただどうしようもなく全身が痙攣し、びちゃびちゃになっていた。
早坂の服をよごしてしまうと分かりながら、それでも前にこすりつけるような動きを止められない。
「あ……はあ……ああ……」
まるで毒を吐き出すみたいな行為だった。
「ほら、もう大丈夫ですよ、大丈夫……」
よく頑張りましたね、と頭を撫でられ、馬鹿にしてんのかと思ったけれど、確かにそうだ……自分は、頑張った。最後の最後まで、意識を手放すことはなかった。そこに大事なものがあったかのように、ぎゅっと握りしめていたてのひら。強張ってなかなか、うまくひらけることができない。
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