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早坂修哉01

 君がオメガだと分かったとき、初めは、どうしようかと狼狽えました。でもそれは晃人の手前、そうふるまわなければならないような気がしたから、そうしたまでのことです。  オメガでよかった、なんて綺麗事はとても言えません。アルファやベータに比べて、明らかにハンデはあります。生きづらいのも確かです。どうしてこんな身体にうんだんだと言われたら、返す言葉もありません。仮にうまれる前にオメガだと分かっていたらうまなかったか? 答えは出ません。  でも、これだけは知っておいてほしい。アルファやベータが生きやすいかというと、そういうわけでもありません。晃人を傍で見てきたからこそ、そう思います。乗り越えなければならないものは、きっとあります、皆ひとしく。  君の発情を鎮めてやっているとき、代われるものなら代わってあげたい、と思うのと同時に、大丈夫だ、と、強く思いました。根拠があったわけじゃありません。大丈夫、と、言い聞かせていたわけでもありません。でも、大丈夫、という思いが、どん、と、心に座ったのです。ああ、大丈夫だ。この子はきっと大丈夫だ。今はつらいかもしれない。とても受け止められないかもしれない。でも、この子はきっと大丈夫。大丈夫。転んでも必ず立ち上がる。どれだけ時間がかかっても。きっと強く生きていける。だって君は晃人の子だ。曲がったことが嫌いな性格や、不器用な優しさや、潔癖さや、素直さや、その強いまなざしを見ていれば分かる。君は、誰が何と言おうと、私がどれだけ迷おうと、晃人の子だ。だから私にはできなかったことも、君ならきっとできるはずだ。強く生きられるはずだ。  負けるな。  強く、生きろ。  そのとき初めて、私は、ようやく、親になれたような気がしたのです。  十六年間も傍にいたくせに何を。親だと明かしていないくせに何を、と笑われるかもしれません。でも、君を谷底に突き落とせるのは私しかいない、私だ、と思ったのです。這い上がってこい。待ってるから。手は差し出さない。でも、ずっと、待ってるから。見守っているから。  手本になるようなことは何もできません。私のような生き方を薦められても困るでしょうし、君だって嫌でしょう。  でも私は、君の倍近く、生きてきました。そこまでは何とか、生きてこられました。  今はまだ君は、真っ暗闇の中にいるかもしれません。いつ光が差すかどうかも分かりません。でも暗闇に、目は慣れます。ずっと暗闇の中に居続けることも、できないんです。  光輝、君ならきっと、大丈夫。  大丈夫。

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