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愛してくれてありがとう 1

『特別な人になれなくても良い…友人として近くにいたい…』  一緒にいて心地良いと思う相手だったから、鷹人の申し出を断れなくて、その挙句、俺の方が どんどん鷹人に惹かれていってしまった。  友達だなんて思えなくなったのは、鷹人とメールをやり取りし始めてすぐだった。  俺の出演したテレビ番組について率直な感想を言ってくれたり、曲の出来について、彼なりのコメントをくれたり、俺の愚痴に付き合ってくれたり、体調を気遣ってくれたり…。 「鷹人の特別な人にはなれない」と言っていたは俺なのに、いつからか、鷹人が俺にとって特別な存在になっていた。  鷹人のことを、友達以上の感情で見ていると自覚して以来、俺は、すれ違いの生活をしていた妻、美砂との『離婚』を真剣に考え始めた。  積極的な愛に絆され、彼女となら普通の結婚生活が送れるのでは? と思った俺は、「愛する」という感情がわからないまま、彼女との結婚に踏み切った。  彼女は、不規則になりがちな俺の食生活や、健康管理に気を配ってくれる、とても良い妻だった。そんな女性だから、いつかは俺にも彼女を愛する気持ちが芽生えるだろうと思っていた。 でも、仕事が忙しくて、結婚当初から家庭をかえりみないでいた俺に対する彼女の態度は、日を重ねるごとに、少しづつ変化していった。  夜遅く帰っても、彼女の姿が寝室に無い事も何度もあった。だけど、不在がちな俺は、それを責める事も、理由を問いただすことも出来なかった。  それでも、一緒に居る時には、ごく普通の夫婦のように振舞う…お互いに、何も無かったかのように。 夜の夫婦生活もそれなりにあった。酒を飲んだ夜などは、人肌が恋しくて、寝ている彼女を起こし、性欲を満たした。  だけど、鷹人に対する気持ちが大きくなるにつれて、次第に美砂に会うのが後ろめたくなり、仕事で夜遅くなる時は、 彼女が起きていない時間を見計らって帰るようになっていた。相変わらず、彼女が家に居ない夜もあった。  そして、どうしようもなく寂しくなると、彼女を抱いた。  ライブツアーが終わったら、美砂ときちんと話をしよう――。そう考えていたあの日、夜中の2時近くに家に帰ると、珍しく美砂が起きていた。 距離を置いている関係だけど、一緒に居る時には、相手に嫌な思いをさせないようにしようと 笑顔で接してしまう。善人ぶっているけれど、俺は本当は酷い男なんだと思う。 「どうした、美砂? 珍しいじゃない、こんな時間まで起きてるなんて」 「うん…それがね。実は今日、病院に行ってきたの」  俯き加減で美砂がそう言った。 「どこか具合でも悪いの?」 「ううん、違うわ」  そう言って、俺を見た美砂の顔は、喜びに満ちていた。 「え、違うって?」  嫌な予感がした。 「あのねシュン、『ここに』あなたと私の赤ちゃんが居るの」  お腹を撫ぜながら、美砂が微笑んでいた。

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