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第23話

 仁王のような形相で飛んできた征一郎を見ると、男達は席へと戻っていったが、それでもまだちらちらとこちらを窺っている。  何故男を惹き付けるなどという無意味な仕様になっているのか。  芳秀の言うことはいつもまったく意味が分からない。  自分もまたあの男達と同類なのだろうか。こうして外に連れ出したり、色々してやりたいと思うのは、そういうことなのか?  ……また悩みの種が増えてしまった。 「……平気か?」 「うん。おかえりなさい」  ちびは特に怯えた様子は見せず、征一郎の帰還を喜んでいるようだ。  離席したせいで嫌な思いをさせなかったことにはほっとするが、結局ちびを学校に通わせたりするのは危険ということだろうか。 「ただ単に俺とお前でこんな場所にいるのが浮いてるから見られてんのかと思ってたが……お前を狙ってたとはな……。親父は仕様とか言ってやがったが、そもそもお前自身は野郎が好きなのか?」  征一郎とのことは芳秀に仕組まれたことなのでノーカンとして、もしも異性愛者だった場合、地獄のような体質だ。 「……野郎……?」  ちびは不思議そうにちょこんと首を傾げた。 「征一郎が好き……」  どうしてそんなことを聞かれているかわからないとでも言いたそうだ。 「………………………………そうか」  何となく照れながら、口の端についているクリームを拭ってやる。  こんな風に素直に好意をぶつけられることは少ないので、動揺する。  邪な気持ちの有無に関わらず、誰だって嫌いではない相手から『貴方だから好き』と言われたら嬉しいだろう。  征一郎も石仏ではないのだ。  ただ、もしかしたらその男を惹き付けるという体質に、征一郎も引きずられているのかもしれないと思うと、複雑だった。 ■都内某所 大型商業施設  カフェを出て、大型商業施設へとやってきた。  休日なので、家族連れで大層賑わっている。  身の回りにあるもの、身に着けるものは概ね目玉の飛び出るような金額のものばかりの月華が選んだにしては大衆的な場所だ。  ヤクザとしては寂しい征一郎の懐具合を考慮したのか。  見れば、ちびは興味深そうに施設内を観察している。  月華は、ちびがこんな風に喜ぶことを知っていたのかもしれない。 「せっかく外にいるんだ。お前何か欲しいものないのか?服とか、日用品とか、本とか」  調理器具や家事に必要なものは篠崎に頼むこともあるが、ネット通販も利用しているらしい。  律儀に領収書を渡してくるが、本当に必要最低限のものしか買っていないようだ。  自分で使いたいものや、店頭で見て選びたいものもあるのではないだろうか。   服だって、最初に篠崎に買わせたものしかない。 「…でも」 「遠慮すんな。何でも言ってみろ」  重ねて促すと、ちびは嬉しそうに頷いて、「じゃあ…」と何故かもじもじしながら口を開いた。 「せ、…征一郎のパジャマ…」  何故そこで征一郎の服の話になるのだろう。 「は?いや俺じゃなくてお前の……そもそも俺はパジャマなんて着ね……」  疑問符を浮かべながら、寝るとき半裸かパンイチなのお前も知ってんだろ、と言いかけて、はたとちびの言いたいことに思い至った。 「……………………上下を分けて着たいのか?」  ちびはコクコクと高速で頷いている。  それはもしかして一度くらいは征一郎が使用した方がいいやつなのだろうか。 「(何がとは言わないが、好きだなこいつも……)」  征一郎は己の未来に漠然とした不安を感じた。

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