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第64話
両側から二人の男に拘束されたちびに、無骨な手が伸びてくる。
それが無遠慮に白い脇腹を撫であげた時、ちびは不快感にびくんと体を揺らした。
大きな反応は相手を煽ることになり、息を荒げた男は全身を弄り始める。
室内には、誰のものかわからないゴクリと唾を飲む音が響き、貶めるための行為にしては嘲りの言葉もない、一種異様な空気が張り詰めていた。
だが、己から発する波動がもたらした事象にちび本人は気付くどころではなく、ただ、思ってもいなかった体の反応に混乱していた。
先程、隆也に触れられた時に感じた違和感。あれは拒否反応だったのだ。
気付くと、今まで何とも思っていなかった、左右で自分を拘束している手にすら不快感を覚え、目の前が暗くなるような思いがした。
人間とは違う。自分にとっての性行為は、供給に結びつくものなのだから、もっと機械的に受け入れられるはずだ。
どうして、と未知の反応に怯え揺らいだ瞳が、男たちの嗜虐心を煽ることにも気付かず、ちびは溺れているように弱々しくもがいた。
ズボンを下ろされ、竦んだ性器を握られると血の気が下がる。
性感を促すように触れられても吐き気を感じるばかりで何の反応もしない。
すると今度は片足を持ち上げられ、太い指が後ろを探る。
「(そこは、嫌、だ……っ)」
征一郎以外誰にも触れられたくない。
強くそう想うと同時にぐらりと眼前が暗くなり、ちびは唐突に咳き込んだ。
「っ……、こいつ」
突然、男の手が止まり、体が離れた。
不思議に思い顔を上げると、目の前のスーツとワイシャツが赤いもので汚れていた。
樋口たちは驚いているようだったが、ちびはエネルギーが不足した時にもこんな風に血を吐いたことを思い出してひやりとする。
征一郎が気を遣ってくれているから、今日は強烈に飢えていたということはない。体調も悪くはなかった。
だが、今やそれは一変していた。
気持ちが悪くて冷や汗が出る。主以外に触れさせるなと警告するような頭痛がして、身体は小刻みに震えている。
みっともなく征一郎を呼んでしまいそうで、ちびは歯を食いしばった。
「このガキ、なんか、病気でも持ってんのか。隆也」
「……それについては何の情報も入ってきてねえ」
二人の会話が遠く聞こえる。
健康な人間は血を吐いたりしないだろう。何らかの感染を恐れ、興醒めしてくれたのだったら有難いと微かな希望を持ったが、どうやらそれは甘かったらしく、眼前の黒服は血の付いたスーツを気にもせずに再び手を伸ばしてくる。
普通ではないちびの反応を見ても一切意に介さないことに驚いて見上げた男の瞳は、昏く濁り、薄笑いすら浮かべていない。
体調が悪化することで、より強く周囲にエネルギーの供給を促してしまったのか。正気を失わせるほどに。
芳秀が喜びそうな悪趣味な仕掛けだ。
また、左右の男にも変化が表れていた。
息は荒く、ちびに密着し、背中のあたりに硬くなったものを押し付けてくる。
車の中で、ちびのことを『ガキだ』『征一郎はよくその気になる』などと話していた二人だ。
怖気が走り、ちびはまた咳き込んだ。
だが、床が汚れてもそれを気に留めるものはいない。
強すぎる拒否反応に意識が飛びかけたその時、建物が大きく揺れた。
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