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第81話

 再会の嬉しさについべったりとくっついていると、車を降りた久住が近づいてくる。  「思ったより早かったな」 「新幹線で来りゃこんなもんだろ。相変わらずだな、凌真さん」 「正月ぶりか。そちらも壮健そうで何よりだ」  どうやら、二人は仲がいいようだ。  お互いの行動を読んでいたと言わんばかりのやりとりに、なんだかほっとする。 「とりあえず、中に入ろう」  久住に促され、征一郎はちびを抱っこしたまま敷居を跨いだ。  ピシャリと引き戸を閉めると、久住は懐からお札らしきものを取り出し、玄関の四隅に貼り付ける。 「ものものしいな」 「こういう細かい演出が大事なんだ」 「もしかしておれか征一郎に、芳秀さんの式神とかついてましたか」  本気半分、冗談半分で聞くと、久住は肩を竦めただけで否定も肯定もしない。  ……それに近い何かはあるらしい。  芳秀の駆使する超自然的な力は洋の東西を問わない。  中は、芳秀の屋敷と似た造りの古い日本家屋だった。  年季が入ってぎしぎしと音の鳴る廊下を歩き、突き当たりを曲がってすぐ右の部屋に通される。  そこは居間のようだった。  硝子戸からは、どこか寂しい風情の庭が見える。  征一郎は、勝手知ったる、といった風に部屋に入るとちびを抱いたまま座布団に座った。  そして腕の中のちびを見下ろし、眉を寄せる。 「ちび、お前裸足じゃねえか。それにシャツ一枚で……。凌真さん、服と靴くらい着せてからさらってくれよ」 「それは配慮が足りなかった。あとで何か買ってこよう」  急いでいるようだったし、そんなケチをつけられても困るのではないかと思ったが、久住は特に気にした様子もなく鷹揚に応じている。 「茶の用意をしてくるから少し待っていてくれ」  そう言った久住が襖を閉めて、二人きりになると征一郎はまずちびの足首を掴んで、持ち上げた。  自然足を上げることになるので、スカートのようにめくれてしまうぶかぶかのワイシャツを押さえる。 「素足で外走ったりして……怪我してねえか」  怪我がないか確かめるようにぞろりと撫でられ、怪しい感覚を覚え声が出てしまいそうになった。  こんなところで、スイッチが入ってしまったら大変だ。  「大丈夫」とそっと足を引いた。 「体調はどうだ?」  征一郎の心配は尽きぬらしく、今度は額を触られる。  くすぐったい思いで笑い返した。 「うん、元気だよ」 「今朝は微熱があったろ」 「あ……そういえば、朝よりすごく体が軽くなってるかも……。さっき……」 「さっき?」  先程、体が軽くなったと感じた瞬間があった。  久住に背中を押された時だ。  その感覚をどう表現していいか逡巡すると、襖が開き、湯呑みの載ったトレーと保温ポットを持った久住が入ってくる。 「あの、久住さん、さっき……なんか、ぽんって」 「ああ、氣のバランスを整えただけだが」  思い過ごしだと言われてしまうだろうかと恐る恐る訊ねれば、久住はあっさりと答えた。  『氣のバランス』とは……先ほどのお札といい、久住は何者なのだろう。  二人のやりとりから何かを察したらしい征一郎は胡散臭そうに眉を寄せる。 「どうやったのか俺にも教えろよ」 「わからないか。修行が足りないな」 「いやまあ、そうかもしれねえけど、普通『氣』なんて見たり整えたりできないだろ」 「お前の母親も殴ることでしか調整できなかったからな」 「お袋のあれただの暴行じゃなかったのか……」 「本人的には暴行だったんじゃないか」 「………………………」  征一郎の母親もまた、色々な意味で凄い人だったようだ。  流石は、あの芳秀と結婚していた人である。

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