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fate 1st season
「.......っはぁ!.....」
どうしよう、ヒートがおさまらない。
薬もちゃんと飲んでるのに。
何が引き金になったのか、全くわからないまま、僕は強いヒートに襲われた。
こんなこと、今までなかったのに......。
しかも、こんなトコで。
今まで積み上げてきた、キャリアとか自信とか、虚栄を張って弱みを見せずに、頑張ってきたのが......。
一つ一つ、僕が大事にしてきたモノがグラついて、一気に崩れ落ちる感覚に陥ってしまう。
早く......早く、落ち着かなきゃ.......。
焦れば、焦るほど。
余計、顔が熱くなる。
余計、濡れてくる。
いけないこととは思っていても、頭では分かっていても、オーバードーズ寸前までの薬を口の中に放り込んだ。
.......おさまれっ!早くっ!
ここは.......。
けん銃保管庫は防音だし.........。
鍵もきちんと管理されている。
中から鍵をかけてしまえば、誰も入ってこないんだ。
........大丈夫、誰にもバレない。
僕がオメガだって........今ヒートだって.......。
大丈夫、大丈夫.......。
ガチャ.....!
ちょ......ちょっと.......!
待って.........!
な、なんで、鍵が、開くんだ?!
鈍い金属が擦れる音がして、けん銃保管庫の重たいドアが開く。
「.......鏑流馬?.......こんなところで、何してるんだ?」
「........平嶋......」
今、一番、会いたくない奴に。
一番、秘密を知られたくない奴に。
なんで、入ってくるんだよ、平嶋.......。
「この匂い.......オメガなのか?鏑流馬」
頷けない.......肯定したくない.......。
でも、僕は今、すごく乱れた顔をしてるはずだ。
僕のその顔が、全てを語るんだ。
「ヒート、キツイんだろ。俺が、楽にしてやるよ。鏑流馬」
平嶋は片方の口角をあげると、ネクタイを緩めながら僕に近づいてきた。
「平嶋......やめっ!.......あ、ぁあ」
平嶋が僕を壁に押し付けて、中に指を入れる。
中はすでに濡れていて、平嶋の指なんてすんなり、迎い入れるように入ってきた。
ちょうど、体がビクつくところを平嶋の指が探ってくるから、足がたたなくなって、膝から崩れ落ちてしまった。
平嶋は、いきなり入れてくるかと思った。
アルファなら、欲望が先立って、理性をかなぐり捨てて、オメガを襲うんだろ......?
なんで、僕を、気持ちよくさせてくるんだ.....?
なんで.....?
なんで.....?
僕は跪いて体を平嶋に預けた。
それでも平嶋は、僕の中を指で犯してくる。
濡れる.......。
締まる.......。
「鏑流馬......直生、気持ちいい........?」
「......ひ....らし.....ま。やめ......やめろ」
「名前で呼んでよ......俺のこと。呼んでくれたら、やめてやるよ」
「........あ、あぁ........平嶋.......り、遼......」
「もう一度、ちゃんと呼んで」
「.......遼......」
平嶋遼は、指を入れたまま、涼しげな笑いを浮かべる。
「.......おりこうさん、直生、よくできたね。ご褒美あげるよ」
遼は僕を後ろ向きにさせた。
四つん這い........やだ、もう、やだ.......。
ズズッて、後ろに入ってくる感覚がして。
僕の中が熱くなる。
遼が僕の奥を深く突いてくるから、たまらず、体の力が抜けてしまう。
「.......んぁ、はぁ........」
「.......すごいな......何もかも。香りも、中も。俺、直生のこと、めちゃくちゃにしそう」
ダメ.....ダメだ。
遼、やめろって。
でも、僕の方が、ダメだ。
グズグズになった僕の中は、遼を求めて抗えない。
もっと....もっと、欲しい........。
........熱い、気持ちいい.......。
その熱いのを中に出して欲しい........。
僕は、狂ってしまったのか.......?
遼を、求めてる........。
激しく中を突かれている中、僕の首の後ろに熱い吐息がかかる。
「.......遼......何、して」
「噛みつきたい.......噛むよ.....直生」
「.......やぁ...ダ....メ......」
僕のささやかな、小さな願いも虚しく。
次の瞬間には、僕のうなじに激痛が走った。
思わず、体がしなって、反り上がって.......中を締めつける。
「な!.....直生っ!!」
遼のキツそうな声が聞こえたと思ったと同時に、僕の中に熱いものが広がって、あふれでる。
なんで....なんで、平嶋遼なんかと........。
一番苦手で、ライバルでもある同期の平嶋遼と、番にならなきゃいけないんだ。
なんて、こと........。
なんて、ことになってしまったんだ........。
激しく感じて、突かれて、息が上がる。
そして、涙が出てきた。
悲しいとか、そんなんじゃなくて。
あまりにも、急で。
心がついていけなくて、僕は、涙がとまらなかったんだ。
僕と平嶋は、警察のキャリアの同期で。
平嶋は東都大学の法学部卒、将来を約束されたようなキャリア組。
かたや僕は、九都大学の法学部卒、キャリアはキャリアでも、平嶋とは違ったキャリアで。
国家一種に受かったからには、頑張ろうと思ったんだ。
オメガを隠して.......隠さないと、のぼりつめることはできないと思った。
だから、がむしゃらに頑張って、血反吐を吐くほど頑張って、早くに警視に受かった。
嬉しかったんだ、でも。
平嶋遼は、涼しい顔をして、いとも簡単そうに僕と一緒に警視に受かった。
.......なんとも言えない、敗北感。
同期で警察大学校にいる時から、なんとなく苦手だったんだ。
常に斜に構えていて。
僕を蔑むように見て。
多分、平嶋遼も僕のことが苦手なはずだ。
きっと、そうだ.......。
お互い、苦手だったんだ。
苦手だったのに.......。
なんで、番なんかに......番なんかになってしまったんだ。
後悔しかない。
できることなら、今すぐ番を解除して欲しい.......。
平嶋......遼.......僕から、離れて!
もう、犯さないで.......!!
もう、やめてよ.......。
言葉に出して、声に出して、僕は遼に言いたいのに、全然、できない。
僕の気持ちとは裏腹に体は熱くなって、濡れてきて。
遼はそれに呼応するかのように、より強く、僕を乱していくんだ。
気がついたら、僕は見知らぬ場所にいた。
柔らかいベッドの上にいて、あたりを見渡すと黒で統一された家具が見えて。
僕の家じゃない。
それに、僕はー。
けん銃保管庫にいたんだ、ヒートを隠すために、オメガを隠すために。
誰にも知られないように、抑制剤を大量に飲んで、けん銃保管庫に隠れていたんだ。
そしたら、そしたら.......。
平嶋....遼がきて、犯されて、番になって。
それから.......乱されてしまって、記憶も、曖昧で........。
僕は、初めてだった。
肌を重ねることも。
ヒートで見境なく求めてしまうことも。
番になったことも。
その番の相手が、一番苦手な奴だったってことも。
イヤだ、って気持ちとは裏腹に、僕は遼を求めてしまった。
こんなに、肌を重ねることが気持ちいいことなんだって、初めて知った。
それと、同時に。
........どんなに必死になってオメガを隠しても、どんなに虚栄を張って強がっていても、オメガって事実をまざまざと突き付けられて.......。
ツラい。
一所懸命に頑張っだからって、血反吐を吐くくらい努力したからって、僕自身の運命には抗えないんだ。
僕は、オメガ以上にもなれないし、アルファ以下にもなれない。
「気が付いた?直生」
この、響く、低い声........平嶋遼。
その声を聞いた瞬間、首の後ろがズキズキ疼いて、思わずその場所を手で押さえしまった。
顔が見れない......その顔を見たくない。
僕はその声がする真逆の方向に、顔を背けた。
ベッドが軋む音が聞こえて、僕の頰に暖かな皮膚の感覚が触れる。
「そんな顔するなよ。
ヒート、楽にしてやったんじゃないか」
「..........」
「かわいかったよ、直生。
すごく盛ってて、エロくってさ」
「........言う.....な」
「そんな態度、とっていいの?」
口調は変わらない、けど、冷たく心にのしかかる遼の言葉に、僕は全身が凍る気がした。
「本当は直生をあそこに放置してきても良かったんだよ?
俺はお前が思っている以上に、優しいからさ。
ちゃんと、他の人にバレないように、直生をここに連れてきてやったんだ。
なにより、俺は直生の番だろ?」
何も、反論できない。
言葉を発しようとすると、自分自身がおかれている立場を深く自覚させられて、余計、堪える。
........泣きたくなる。
遼は僕の手首を掴んでベッドに押し付けると、ゆっくり覆いかぶさってきて、その端正な顔を近づけた。
思わず、手に力が入る。
押し返したいけど、返すこともできない。
身も心も潰されてしまいそうで、キツい。
「俺が番を解いたら、お前はまたあのヒートに襲われる。
あんなヒート、仕事にも支障をきたすんじゃないのか?
それにオメガだってバレたら、ウチの組織じゃ異端児扱いされるんだろうな」
「...........!!」
「お前には選択肢が2つある。
このまま俺の言うことを聞いて番のまま華々しい人生を送るか、番を解除されて転落した苦しい人生を送るか」
優しさをチラつかせておきながら、僕を奈落の底に突き落とすようなその選択肢は、ほぼあってないような選択肢。
悔しい......、すごく、悔しい........。
僕の表情は絶望感にあふれていたと思う。
その証拠に、遼は片方の口角を上げて、蔑むような目で僕を見つめるんだ。
「お前は、賢いヤツだろ?直生。
さぁ、どうする?」
僕に、選択肢は、無い。
「.........前者だ。前者を選択、する」
子どもみたいに、僕は泣きながら答えた。
涙が止まらない.......僕は、遼に操られる。
華々しいなんて、程遠い。
番が解除されるまで、僕は遼に支配された自由のない人生が始まるんだ。
遼は、にっこり笑った。
「そういうと思ったよ、直生。
やっぱりお前は賢いな。俺は嬉しいよ、直生。
せっかく番になったんだ。
これから、ずっと、仲良くやっていこうじゃないか」
顔がより近づいて、そのまま、唇が重なる。
僕は遼の舌が入ってこないように、歯をくいしばった。
遼の熱い手が僕の体を愛撫するから、体の力があっという間にぬけてしまって、僕の努力は徒労に終わる。
舌が絡み合って......気持ちいい.......。
キスでさえも、こんなに感じるなんて........。
.......僕は、どうかしている。
「........んっ」
思わず、声がもれた。
遼の指が胸をいじって、お腹をかすめて、スッと僕の中に入っていく。
「さっき気を失うくらいヤッたのに。
また溢れるくらい濡れてるよ、直生の中」
また、あの場所......。
遼が僕の中に指を入れて、どうにかなりそうなくらい感じるところを突いてくるから.......。
ダメだ.......また、欲しくなる。
また、乱される。
これ以上、惨めになりたくない。
なりたくないのに.......遼を求めてしまう。
離れて!!遼!!
僕から離れて!!お願い......だから......。
「........や....だ......りょ....う、やめ......」
「冗談でしょ、直生。
上の口からも下のヤツからもだらしないくらい涎を垂らしてるのに。
やらしいな、直生。
......直生がこんなにエロくてかわいいなんて、知らなかったよ」
遼はまた、僕の中に深くて熱い快感をもたらして、突き上げてくる。
そして、僕はまた、快楽に溺れてしまうんだ。
僕は長官官房会計課装備室にいる。
本当は、刑事局や生活安全局に行きたかったけど、警視に昇任してここに配属されたから、しょうがない。
装備資機材の予算要求や折衝、各都道府県へ配布するけん銃実弾の管理や各種装備資機材の開発、運用など。
地味だけど、やりがいがあって。
最近、仕事が楽しくなってきたところだったんだ。
そんな矢先に.......僕は、オメガというサガでしくじった。
なんか.......全てを投げ出したくなる。
投げ出して、リセットして、僕を知ってる人がいないところに逃げたくなって。
でも、僕には色んなしがらみがあって、ここから逃げられない.......。
築きあげた今のキャリアを手放せない。
そして、番である遼にズブズブにハマって、逃げられないんだ。
深い谷底の暗い闇に迷い込んだみたいな、未来が全く見えない、僕はそんな状況におかれていて、どうしたら、いいのか......正直、分からない。
「鏑流馬補佐」
この、声........。
「.......平嶋、補佐」
できれば、あまり、遼に仕事上では接触したくない。
だって、僕の体は気持ちとは裏腹に、遼の声すら敏感に反応するから......情けなくて、泣きそうで.......喉に何かがつっかえたみたいに声が出てこない。
触れられたりしたら、もう、最悪だ。
「この間、各都道府県に配布した新型の現場保存機材に不具合が相次いでてさ。
不良品の回収と代替機材の配分で装備補佐の知恵を借りたいんだけど」
「そんなことに、一課の、補佐がわざわざ?」
多分、僕は、凄く嫌味ったらしく言ってしまったに違いない。
遼の口角が、片方、キュッと上がる。
「悪いんだけど、505会議室に来てくれない?
鏑流馬補佐」
「わかった。先に行っててくれないかな」
「結構切羽詰まってんだ。
待ってるから早めにお願いできる?」
「.......わかったよ、平嶋補佐」
僕が、抵抗できないことを知ってて。
遼は、僕をワザと呼び出したんだ。
新型の現場保存資機材の不具合なんて、装備室の僕の耳に入らないわけない。
僕を呼び出すための、口実......嘘。
目の前の仕事を片付けて、僕は遼が待っている会議室に向かう。
足取りが、重いな.......。
遼に対して、どんな顔をすればいいのかすら、考えられない。
普段の会議室の軽く回るドアノブでさえ、今の僕の手には重たく感じる。
「遅かったじゃないか、直生。待ってたよ」
ほらやっぱり。
会議室には遼以外誰もいない。
遼は僕の腕を強引に引っ張ると、会議室の鍵をかけた。
そして、僕の頰に手を添える。
それが、混乱するんだ。
僕に触れた遼の手は、好きになってしまいそうなくらい優しいのに、僕を見つめるその目は、冷たくて鋭くて、相変わらず蔑んでいるから。
僕を抱いている時だってそうだ。
愛撫するその口や舌、手はトロけそうになるくらい、気持ちよくて優しいのに。
遼の目は、オメガである僕を嫌悪しているかのように、ぬくもりのかけらすらのない目で僕を見つめる。
だから、苦手なんだ。
だから、その目に負けたくない.......。
負けたくないから。
混乱して弱くなる心や、怖さや悲しさを押し殺して、僕はその目を逸らさないように見返すんだ。
「その目つき、初めて会った時から変わんないな。
かわいい顔してんだし、せっかく番になったんだからさ。
もう少しかわいい目して、俺に甘えてみろよ」
「........かわいい、目?
ふざけるなよ、自分はどうなんだよ。
僕のことをいつも蔑んだ目で見てるクセに」
一瞬、遼の左眉がピクっとして、その目に暗い色が宿った、気がした。
憎悪とか、悲哀とか、色んな感情が混ざった目。
ーヒヤッとした。
その目でー。
遼は僕を床に強引に押し倒して、勢いのまま僕の下着ごとスラックスを剥ぎ取ると、僕の右足を遼の肩にかけて、息つく間もなく僕の中にねじ込んできた。
「.....!!痛っ!.....や!....め」
いつもと違う......。
優しい愛撫もなく、まるでレイプされてるかのような鋭い痛みが全身に広がる。
遼は激しく、欲求をみたすかのように、僕の奥を加減なく突いてくるから。
あまりのことに、僕は手に力を入れて、耐えるしかなかった。
アルファって、やっぱりそうなんだ......。
遼も他のアルファとなんら変わらない。
優しい愛撫も、僕を気持ちよくさせる行為も、何もかも。
全部.......嘘だったんだ。
オメガのことなんて、何も考えてない.......。
所詮、番になったって、こんなもんなんだよ。
アルファとオメガって。
〝運命の番〟なんてないんだよ。
超えられない壁が、アルファとオメガにはあるんだ。
ーポタっ。
ふと、僕の顔に何かが落ちた感じがした。
激しく突かれて体が上下に振られる中、僕は必死でその原因を探ろうと、天井の方に視線を向けた。
「.....っ!!」
......一瞬、何が起きてるのか、分からなかった。
遼の目から涙が途切れることなく、流れ落ちて。
遼の目が悲しみでいっぱいになっていて。
泣き声を押し殺すかのように下唇を噛んで。
そのやり場のない苦しさをぶつけるように、僕の中を激しく突き上げる.......。
いつも、自身に満ち溢れている遼は、今、そこにはいない。
..........なんで?
..........そんな悲しそうな顔をして、なんで、泣いているんだ?
「.......りょ.....りょう.....!」
「.......っ!!」
僕の呼びかけに応えることなく、遼は泣きながら、僕を犯すことをやめなかった。
僕はそんな遼から目を離すことができない。
悲しそうな、苦しそうな遼が、僕の心から消えない。
遼が落ち着くまで、僕はひたすらその苦痛に耐えていたんだ。
「っはぁ、はぁ.....っ.....はぁ」
僕の耳元で、遼の激しい息づかいが聞こえる。
僕の中に熱いモノが広がって、あふれ出して......。
ようやく遼が落ち着いてきたから、僕は少しホッとした。
僕の肩を力を込めて握りしめて、首元で顔を埋める遼が、どことなく不安定で。
僕はその広い背中をワイシャツごしに抱きしめたんだ。
「な......直生?」
「........しゃべるなよ、遼」
「........俺、直生に、酷いこと.......」
「いいから、しゃべるなって........」
「だって」
「大丈夫だから、僕は。
なんともない、平気だから」
「.........直生」
埋めていた顔を持ち上げて遼は僕の顔を見た。
泣きはらした、真っ赤な目。
いつもの蔑むような冷たい眼差しじゃなくて、迷子になった子どもみたいな。
迷いとか、後悔とか。
ツラそうな、そんな目をして僕を見る。
........そうか、そういうことだったんだ。
やっと、やっとわかった。
........遼の、本心がやっと分かった。
だとしたら、僕は遼に、申し訳ないことをずっとしてきた........。
思わず、遼の頰に手を添えた。
「やっと分かった。
遼が僕に触れる手や身体は優しくてあったかいのに、なんで僕を見る目が冷たかったのか。
.........遼、今まで、ごめんな。
ちゃんと、遼に向き合ってなかったのは、僕自身だ。
突っかかって意地を張って、僕は本当の遼を見ようとしていなかった」
「.......直生.......俺」
僕は遼の口に人差し指を添えて、言葉を遮る。
「遼、好きだ。
.........遼は、僕が初めて好きになったアルファだ」
そう言って、僕は。
初めてー。
僕から、遼にキスをしたんだ。
✴︎
ヤバイな......俺。
今、直生をレイプよろしく、犯している。
直生の足を左肩にかけて、締め付ける直生の中に強引にねじ込んだ。
直生は目を見開いていて。
声を出さないように、歯を食いしばっていて。
痛さに耐えるように、掴めない床を掴もうとする直生の手が、真っ赤になっていて、痛々しい。
途中ー。
直生が、俺の名前を呼んだ気がした。
でも、止まらない。
感情にまかせて、直生を壊してしまいそうになるくらい、直生の奥に当たる勢いで深く力いっぱい突き上げる。
ラット......?
種付けしたかったのか、俺?
違う......違う........。
悲しかったんだ。
直生に言われた言葉が胸に刺さって、苦しくなって........。
〝ふざけるなよ、自分はどうなんだよ。
僕のことをいつも蔑んだ目で見てるクセに〟
って.......。
俺は緊張したら、目つきが悪くなる。
昔からそうなんだ。
その緊張を隠すように、態度も横柄になる。
スカして、小馬鹿にしたようにみえるらしくて、よく両親にも指摘されていた。
「相手のことを第一に考えろ!アルファとか頭の良さとか関係ない!人の痛みのわかるヤツになれ!」
分かってる。
分かってるよ、そんなこと。
わかってるけどさ、特に、好きな人には素直になれないんだ。
だから、つい。
虚栄を張って、なんでもない素振りをして、マウンティングしてしまう。
直生に対しては、まさしくそれで。
初めて会った時から、そうで。
大学のブランド名とかずば抜けて優位なアルファとか関係なく、俺のそういう態度に直生は真っ直ぐに立ち向かってくるから、余計、素直になれないでいたんだ。
あの時ー。
たまたま機密文書庫に用事があって、俺はマスターキーを持っていた。
けん銃保管庫の前を通りかかったとき、なんかやたらとそこに目がいってしまった。
なんでかって........。
微かに、けん銃保管庫から香りがしたから。
直生から、微かに漂っていた、あの香り........。
ひょっとして.......直生?
そう思うと、居ても立っても居られなくなって、俺は持っていたマスターキーでけん銃保管庫を開けた。
中にいたのは.........。
荒い呼吸と紅潮した顔。
濡れた瞳で睨むように俺をみる、直生。
........すごい......香り........。
ヒートだ。
この時、漠然としていた考えが確信にかわる。
やっぱり、直生はオメガだったんだ。
ヒートで苦しんでる直生を見たとき、本当は、本当は.......すぐにでも抱きしめたかった。
抱きしめて、〝好きだ〟って言いたかったのに。
拒絶するような直生のキツい目を見たら、また、いつものクセが出てしまったんだ。
それでも。
けん銃保管庫で強烈な香りを放ちながら悶え苦しむ直生が.......。
あまりにも切なくて。
あまりにもキレイで。
番になりたいって本能的に思った。
番になって、直生をその苦しみから解放してあげたくて、直生には気持ちよくなって欲しかったけど、半ば強引にヤッてその勢いで番になった。
直生と番になれて、俺はすごく嬉しかったんだ。
直生と番になったらなったで、俺の元に直生を繋ぎとめておきたくて、選択肢がないような選択をさせた。
直生が泣いているのなんて関係ない。
俺と一緒に、俺のそばにいることが、直生のオメガとしての幸せで、直生を愛して守ることが俺のアルファとしての幸せだと思っていたから.......。
時間はかかるだろうけど、いつかは俺のことを心から好きになってくれるんじゃないかって、このまま番としてすごしていたら、身体だけじゃなく、心の底から俺を頼って愛してくれるんじゃないかって。
なのに、なんでだ?
なんで、そんなこと、言うんだよ。
蔑んだ目なんかで、見たことない........。
こんなに好きなのにそんな目で見るわけないじゃないか.........。
直生には、そんな風に見えていたのか......?
自分自身が、イヤになる。
なんでこんなに、天邪鬼にみえるのかな.......?
なんでこんなに、素直になれないのかな.......?
好きな人の前くらい、ストレートに好きって言って、心から笑っていたかった。
伝わらないから、もどかしい。
もどかしいから、斜に構えて素直になれない。
素直になれないから、好きな人に嫌われるんだ。
直生が......こんなこと言うのも.......無理ない。
何、やってんだ、俺。
だから、ガラにもなく涙が止まらない。
泣きながら犯してるなんて、俺くらいだよ。
ヤられてる方が泣くよな、普通。
俺、直生のことが好きなんだ。
かわいい顔のクセに、頭がキレて積極的で建設的な考え方ができるし。
真っ直ぐで生意気な眼差しがたまらない。
頑張り屋で、負けず嫌いで、名前のとおり素直でさ。
俺にとっては運命で........。
直生は、俺にとって〝運命の番〟なんだよ。
だから直生にキスされて、ビックリした。
さらに「好き」なんて言われて、思考が停止するくらい、固まってしまった。
だって、俺.......直生に酷いことしたのに。
直生は、俺を優しく抱き寄せて言った。
「僕と似てるんだ、遼は。
強がって見栄を張って、弱みを見せない。
弱みを見せるならさらに奥の手を持つくらい、自分を大きく見せて、そうやって自分を守る。
僕、遼が苦手だったんだ。
今、なんで苦手だったのかやっと分かった。
僕とあまりにも似ているから苦手で、きっと互いの距離を縮めたら本心を見抜かれるんじゃかいかって、不安だったんだ。
僕は、本当は、弱い.......細っこいし、オメガだし。
アルファにバカにされたくなかった。
アルファを超えたかった。
いかにもアルファな遼が、苦手だった。
だから、睨んで、突っぱねて、遼に対して壁を作って。
ごめんな、遼。
遼の手やキスはすごく暖かくて優しいのに。
それが、遼の本心だったのに。
うわべだけに目がいって、虚栄を張ってることに気がつかなくて.......。
一人で勝手に傷ついて、さらに遼を拒絶して。
僕、遼が傷つくようなことばっかりして。
ごめんな、遼........もう、泣くなよ」
なんで......そんなこと、言うんだ。
悪いのは俺なんだ。
素直になれなかったのも俺で。
無理矢理番にしたのも、直生からはなれたくなかったのも。
直生を泣かせるくらい、酷いことをしたのも俺で。
直生は一切悪くないのに、こうして謝らせてしまったのも俺で。
「違う......悪いのは、俺だ。
謝んなよ、直生。
謝るのは俺の方なんだ.......。
ごめん、直生.......俺、どうしたらいい?
番.......解除........する?」
耳元で直生がクスッと笑うのが聞こえた。
思わず、直生の顔を見てしまう。
呆気にとられた顔していたに違いない、俺は。
その証拠に、直生は楽しそうに、おかしそうに笑って言ったんだ。
「最初から、やり直そうか。遼」
✴︎
「手錠?!......直生、そんな趣味があったワケ?」
その日、僕は遼の部屋に行った。
そう........始めから、やり直すため。
アルファとオメガとして。
番として。
そんなの関係なく、一個人同士として。
だったら、印象に残るようにやり直したい。
僕の右手と遼の左手に、僕は手錠をかけた。
こういう職業についたんだから、一度はこういうことをやってみたかった。
イケナイこと、なんだけど。
愛する人と、イケナイことをやってみたかった。
困惑する遼の顔と手錠をかけられて震える遼の左手を見ていたら、ヒートがきたみたいに顔が火照ってくる。
..........そして、濡れてくる。
「職業的特権、この際だから、使ってみたくない?」
そう言って僕は、手錠を引いて遼の体を引き寄せた。
絡まる、僕の右手と遼の左手。
触れる肌......が、気持ちいい。
この間はそんなこと考える余裕すらなかったけど.......。
今は、すごく感じる。
番になったって意識と遼が愛おしいっていう気持ちがあるだけで、こんなに身も心も満たされるなんて、初めて知った。
緊張してるんだな......遼の目つきが半端なく俺様っぽくて、僕の鼓動がさらに早くなる。
「直生......香り、すごいな.......ヒート?」
「最初からやり直すなら、まず、そこからだろ?」
「まぁ、な」
顔が近づいて、唇が重なる。
呼吸が乱れて、舌が絡まる。
僕の右手と遼の左手は自由にならないから......それが、さらに欲情する。
自由になる遼の右手は、相変わらず優しくて。
僕の胸をいじって、そのまま滑るように僕の中に指を入れるから......もっと、濡れてしまう。
「んっ!!.....んぁっ、そ.....こ......んっ」
「......直生.......気持ちいい?」
僕は、小さく頷いた。
頷いた瞬間、あることを思い出した。
思い出したことが気になりつつも、僕の中に入ってくる遼の感覚にクラクラするくらい感じてしまって、体が熱くなる。
.......繋がってる......。
最高に、気持ちいい........。
「......直生、すごく締まってる」
「あのさ......遼........」
「何?」
「思い.....出したこと、あるんだ......僕」
「直生......」
「僕が、ヒートで........けん銃保管庫で隠れてた日。
..........※通常点検だっただろ?
僕、久しぶりに.......遼の制服姿を見たんだ。
.......ほら、いつもはスーツだし。
遼は背が高いし、スタイルもいいから。
制服を着た遼から........僕は目が離せなかったんだって、今、思い出した。
.........多分、それに......体が疼いたんだ。
.........運命を感じたんだ、体が。
頭より先に、心より先に.......。
〝運命の番〟、見つけたぞ、って」
僕の言葉に、遼は照れたように笑う。
「.......俺は、感じてたよ?前から。
直生とは、運命的な繋がりを感じてたよ」
遼が言うあまりのハッタリに僕は笑ってしまった。
「なんだよ、それ」
「本当だって!......あんまり笑うと、激しくするぞ?!」
「あっ!.....やぁ、まって.....!!......遼!!」
僕の奥の深いところをついてくる遼に、僕は心底感じてしまって.......初めて、肌を重ねた時とは違う快楽に襲われる。
遼と番になったことは。
最初はfateだと、思ってた。
逃れられない、宿命みたいな。
でも、今は違う。
未来がみえる......遼と、2人で過ごす、明るい未来が。
今は、fateじゃない。
destinyなんだ。
※通常点検とは、
警察官の職務執行に必要な諸般の状況を検査し、その不備の点を訓練・整備して厳正な規律を養うことを目的とし、服装や姿勢のほか、貸与されている拳銃や警察手帳などの装備品についても確認することを言う。
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