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第1話

私、大津善久(よしひさ)の人生は常に学校を経営している両親によって作られていたものだった。 物心ついた頃には水泳を始め、小学校でも中学校でも高成績を残していたということで高校は当時水泳部が強かった志賀ノ宮高校に入学することになっていた。 そこは両親が経営する高校であり、私の存在は理事長の息子ということで教師も生徒も気を遣う人として認識されていた。 どこに行ってもそういう扱いを受けてきた私は、心のどこかで他の人たちと同じようなごく平凡な学校生活を送ってみたいと思っていた。 そんな私のささやかな願いを叶えるばかりか豊かなものにしてくれたのは額田晃明(ひろあき)先輩だった。 「今年の新入部員、前へ」 志賀ノ宮高校では、運動部の生徒は8割がスポーツ推薦入学者だった。 水泳部は私を含め男女共に推薦入学で、大会で名前を聞いた事のあるメンバーだった。 「大津善久です。種目は平泳ぎです。よろしくお願い致します」 当たり障りのない挨拶をしても、私はひとりだった。 いつもの事だからと割り切っていた。 けれど、高校での水泳部では違った。 「お疲れ、名前何だっけ?」 私より背が低く、水泳選手にしては色白で細い体型。 笑顔が眩しい人だった。 「大津善久です」 「んじゃぁヨシって呼ぶわ。俺は2年の額田晃明。種目は個人メドレーやってて、みんなからはヒロって呼ばれてるから好きに呼んで」 「は…はぁ…」 入部してすぐの事だった。 けれど、私にとって忘れられない出来事だった。 それから、私がひとりでいると晃明先輩が必ずそばに来てくれて、同級生や先輩たちの中に入れてくれた。 最初はよそよそしくされたが、しばらくするとそんな事はなくなっていった。 全て、晃明先輩のおかげだった。 晃明先輩が水泳だけでなく成績も優秀で、試験でただ一人の満点を取った特待生という事を、私は後になって晃明先輩と一番仲が良い笠原誠(まこと)先輩から聞いた。 私の中で、晃明先輩は暗闇の中に突然現れた大きな光のようだった。

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