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第2話
5月の連休で、水泳部は遠征があり、基本的には全員参加になっていた。
宿泊先では男子部員は同じ部屋で寝ることになったが、くじ引きで端を引いた私の隣には晃明先輩が寝る事になった。
先輩に対する想いは、この時既に自覚していた。
私にとって、初めて自分から好きになった人だった。
今までは家柄目当てで声をかけてくる女性ばかりで、自分からこんなにも想った人はいなかった。
「はぁ〜っ、女子はいいよな、キレーな2人部屋なんて」
「そうですか。女性は大勢の方が大変そうですからね」
「ヨシは気になる女子とかいねーの?」
「残念ながらいません」
移動のバスで隣席になった同級生に聞かれ、私は即答する。
「オレさ、山下センパイのファンなんだよな。この合宿中に声かけて親しくなりたいトコ」
「そうですか。女子部とは食事の時しか顔を合わせなさそうですから、その時に声をかけなかれば進展は難しいですね」
「だな!ありがとう、ヨシ。話聞いてくれて」
「いえ、お役に立てて良かったです」
私は前列にいる晃明先輩の声で頭がいっぱいだった。
明るくよく通る先輩の声は私の耳にも届き、こちらまで楽しい気分にさせてくれる。
「おーしっ、夜は7並べやろうぜ!!」
「小学生かよ、ヒロ」
「今、ウチの弟に教えてやってんだけどさ、久々やると面白いぜ?そうだ、一位になったらみんなから100円もらうってのはどーだ?」
「それ、先生にバレたらヤバいヤツだろ!!」
顧問に聞かれないよう小声で話している先輩。
顔が見えないのが物足りなかったが、声を聞けるだけでも充分だった。
宿泊先のホテルに着くと、明日の試合に向けての男女合同ミーティングをした後ば夕食と就寝時間以外は自由だった。
「ヨシ、一緒にフロ行こうぜ」
「あ…はい…」
夕食を終えると、晃明先輩が私に声をかけてくれる。
女子部員の誘いは断っていたところを見ていた私にとって、堪らなく嬉しかった。
「誠のヤツ、長野とデートするとかで一緒に行けねーってさ。明日試合だってのに余裕だよな、アイツ」
「そうですね… 」
誠先輩は女子部の先輩にお付き合いされている人がいると、晃明先輩から聞いていた。
入浴の準備をして、晃明先輩と大浴場に向かって歩いていく。
すると、女子部の先輩方が声をかけてきた。
「額田くん、大津くん、どこ行くの?」
「フロですけど」
「ねぇ、一緒に写真に写ってくれない?」
ジャージの色から、3年生の先輩方だった。
「俺は別にいいですけど、ヨシは?」
「私も構いません…」
本当はこういう事は苦手だったが、私は晃明先輩の答えに合わせていた。
「ありがとう!!イケメンふたりと一緒に写真撮りたかったんだ〜!!」
3人の先輩方はとても嬉しそうだった。
ホテルの人に頼み、何枚か5人で写真を撮る。
「そうだ!額田くんと大津くんのツーショット写真、撮ってもいい?」
先輩からの提案。
私はすごく嬉しかった。
撮影する時、晃明先輩が私の肩に腕を回して、身体を密着させたくれた。
「きゃー!めっちゃいいの撮れた!」
「当たり前でしょ、イケメンふたりなんだから」
「ありがとう!写真にしたらふたりにあげるからね!じゃあ!!」
先輩方は、はしゃぎながら去って行く。
「スゲー勢いだったな、早川先輩たち」
「ええ…」
女性のパワフルさにはついていけない。
けれど、しつこくされなかったので良かったと私は安堵していた。
「女は面倒くせーよな。俺、何回か付き合ったコトあるけど俺には向いてねーって思ったんだ。だから誠はスゲーと思う」
「私もそう思います…」
「アレかな?自分が本気で好きになったら違うのかな?俺、まだそーゆー人に出会ってねーんだよな」
「そうなんですか…」
それが私ならいいのに。
と、私は思ってしまった。
だが、先輩には決して言えない。
言ってこの関係が壊れてしまう事だけは避けたい。
私はそう思い、自分の思いを押し殺した。
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