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31話

一歩、また一歩...壱哉さんが近づいてく る。僕は無意識に後ずさりしていた。 「あ、あの時?」 「『あなたを好きだと思わないでください』だったっけか?」 「そ!..それは...なんというか...」 忘れてたんじゃなかったの!? 「なんだ?」 「い、い、勢い..といいますか...」 「勢いなら何でも言えるのか?」 「いや、そうじゃなくて...」 ドンッ! 「っ...」 気づいたらもう後ろは壁で もうこれ以上下がることなんてできないのに、 壱哉さんはどんどん近づいてくる。 「そうじゃ...ないなら?」 「あ、...ちょ...」 トンッ... 逃げようと横を向いたけど、壱哉さんの手が置かれてどうすることもできなかった。 「なぜ、俺を避ける」 「 べ、べつに、さ、避けてません...」 「じゃあ、俺の補佐になれることをなぜ喜ばない?他のやつなら泣いて喜ぶものだぞ。」 「僕だって、よ、喜んで、...」 喜んでます。そう言ってしまえばいいと思っていた。けど、その言葉は壱哉さんの鋭い視線によって言えなくなってしまった。 さっき嘘をついた僕に「次は無い。」そう言われているようだった。 「...喜べてないのは事実...です。 で、でもそれは僕にとって恐れ多いというか、 僕とあなたでは住む世界が違うから...というか...」 もう関わりたくない。そんな気持ちもあるけど、これも本当のこと。 昔の僕は住む世界が違う、好きになっちゃいけない人を好きになったんだ。 だから... 「俺が頼めば他のやつは喜んで何でもする。 俺との繋がりを持てば利益しかない。学校での地位も上がり、将来何かに困ることも無い。 それなのに、お前はいいのか?」 「...」 また、この目だ... 昔も会ったばかりの時はこんな目をしていた。 誰も、信じていないようなそんな目。 「僕は...利益とか、不利益とか、よく分かりません。ただ、したい。してあげたいって思うことをするだけです。 まぁ...ただ利益とか不利益とか、いちいち考えて行動できるほど器用な人間じゃないからっていうのもありますけど...なんて、ははっ...」 「......」 壱哉さんは一瞬、目線を下に落として直ぐに僕を見つめた。

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