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4章:逃げられない想い 1話

ブーッブーッ 「......。」 机の上で、 携帯が震えている。 見なくても、 誰からなのか分かっていた。 ブーッブーッ 「羽瑠。」 「...うん。」 「鳴ってるぞ?」 「...分かってる。」 「出ねぇの?」 「......。」 僕は、 震え続ける携帯を見つめた。 画面には、 見慣れた名前。 いつもなら、 どれだけ面倒でも。 どれだけ嫌でも。 結局、 出てしまっていた。 『これが鳴ったら必ず出ろ。何よりも優先だ。』 あの人が、 そう言ったから。 「...出ない。」 「え?」 翔が、 驚いたように僕を見る。 「九条先輩だろ?」 「...うん。」 「いいのかよ。」 「いい。」 そう答えて、 携帯を裏返した。 ブーッブーッ まだ、 震えている。 「......。」 早く、 切れればいいのに。 そう思っているはずなのに、 振動が止まった瞬間―― 胸の奥が、 少しだけ痛んだ。 「......。」 「羽瑠。」 「ん?」 「お前、なんかあった?」 「...何もないよ。」 「いや。」 翔が、 僕の顔を覗き込んでくる。 「目、腫れてね?」 「っ...」 咄嗟に、 顔を逸らした。 「寝不足。」 「嘘つけ。」 「......。」 「泣いたのか?」 「泣いてないよ。」 「いや、絶対――」 「違うってば!」 「......。」 僕が強く否定すると、 翔は口を閉じた。 「...ごめん。」 「なんで羽瑠が謝るんだよ。」 「......。」 言えない。 昨日、 何があったのか。 ラブレターを見つけて。 昔の自分と重ねて、 勝手に腹を立てて。 壱哉さんの前で、 泣いて。 触れようとしたあの人の手まで、 振り払ったことなんて。 「...今日さ。」 「ん?」 「生徒会のみんなに、話してくる。」 「話すって何を?」 「......。」 机の上の携帯を見る。 もう、 震えていない。 「生徒会...辞めるって。」 「...マジ?」 「うん。」 「......。」 翔は、 少し驚いたように僕を見た。 それから、 しばらく黙って。 「...後悔しないか?」 「......。」 胸が、 きゅっと痛んだ。 「...しないよ。」 「そうか?」 「うん。」 僕は、 笑った。 ちゃんと、 いつも通りに。 「だってさ、今までがおかしかったじゃん?」 「......。」 「あの人の言いなりになって、バカみたいにこき使われてさ?」 毎日のように、 呼び出されて。 コーヒーを淹れさせられて。 書類を運ばされて。 せっかく翔とお昼を食べていても、 あの携帯が鳴れば、 生徒会室まで走って。 本当に、 迷惑だった。 「はじめから、こうすれば良かったんだよ。笑」 「......。」 翔は、 笑わなかった。 ただ、 僕の顔をじっと見ている。 「...何?」 「いや。」 「何ってば。」 「...お前がそう思ってんなら、いいけど。」 「......。」 「でも。」 翔が、 少しだけ眉を寄せる。 「我慢すんなよ。」 「......。」 「別に辞めるなって言ってるわけじゃねぇから。」 「分かってるよ。」 「ならいい。」 「...変なの。」 僕は笑って、 机の上の携帯を鞄の中にしまった。 これでいい。 はじめから、 こうすれば良かったんだ。 あの人の言うことなんて、 聞かないで。 あの人に、 近づかないで。 あの人のことを、 また知ろうとしないで。 そうすれば―― もう、 傷つくこともない。 「......。」 なのに。 どうしてだろう。 離れようとしているだけなのに。 今度こそ、 間違えないようにしているだけなのに。 胸の奥が、 痛かった。

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