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40話
「......。」
「あ...」
静かな生徒会室に、
乾いた音だけが響く。
壱哉さんが、
僅かに目を見開いた。
僕も、
自分がしたことに驚いていた。
だけど――
無理だった。
その手を、
知っているから。
泣いている僕の頬に触れて、
親指で涙を拭ってくれた、
その手を。
『泣くな。』
ぶっきらぼうにそう言って、
いつも僕の涙を拭ってくれた。
大好きだった、
あの人の手。
「...触らないでください。」
「......。」
「お願いだから...」
また、
涙が零れる。
「今は...
触らないでください...」
壱哉さんは、
払い除けられた自分の手を、
しばらく見つめていた。
まるで、
どうして自分が僕に手を伸ばしたのか、
自分でも分からないみたいに。
「......。」
僕だって、
分からない。
どうして、
昔と同じように、
あなたが僕の涙を拭おうとするのか。
だって、
今のあなたは、
僕のことなんて、
何も知らないはずなのに。
「...生徒会、辞めさせてください。」
「...は?」
「生徒会長補佐も...
もう、辞めたいです。」
「......。」
「もう...
ここには来ません。」
「理由は。」
「理由...?」
そんなの――
「あなたみたいな人と...
一緒にいたくないからです。」
「......。」
言った瞬間、
胸が痛んだ。
だけど、
これでいい。
これで、
いいんだ。
この人から離れるために、
僕は過去に戻ってきたんだから。
「もう...
放っておいてください。」
「待て。」
「......。」
「さっきから、お前は何の話をしてる。」
「...。」
「俺がいつ――」
「もういいです!」
自分でも驚くほど、
大きな声が出た。
「聞きたくないです...」
「......。」
「もう...
逃げたいんです...」
「...何?」
「あなたからも...」
言ってから、
唇を噛んだ。
違う。
言っちゃダメだ。
それ以上は――
「...この気持ちからも。」
「......。」
あ。
言ってしまった。
壱哉さんの目が、
僅かに見開かれる。
「お前、それ――」
「失礼します。」
「待て。」
再び伸びてきた手から、
今度は触れられる前に逃げる。
「お願いだから...
今は、放っておいてください...」
手に持っていたラブレターを、
机の上に置いた。
そして、
逃げるように生徒会室を飛び出した。
**********
廊下を、
ただ走った。
どこに行くかなんて、
考えてなかった。
「っ...」
何やってるんだろう。
僕。
あの人は、
何も知らないのに。
今の壱哉さんは、
まだ僕に、
何もしていないのに。
それなのに――
『お前なんか、好きだと思ったことは無い。』
「っ...」
何年経っても、
忘れられない。
忘れたかった。
忘れたつもりだった。
だから、
ここまで戻ってきたのに。
もう、
好きになったりしないから。
そう決めて、
僕はここに戻ってきたはずなのに――
「...なんで...」
どうして今でも、
あなたのことで、
こんなに苦しいんだろう。
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